エフェクチュエーション実践講座13 大企業のエフェクチュエーションで起きがちな「管理職が抱く課題感」とその対策
はじめに
大企業におけるエフェクチュエーションは、革新的な事業開発と意思決定のプロセスを促進することにより、未来を創造していく思考法として注目を集めています。しかし、管理者の立場から見ると、このアプローチはいくつかの課題を抱えているように思えてしまうことがあります。本稿は大企業でエフェクチュエーションを進める上での課題をテーマにしたもので、エフェクチュエーション実践講座⑨とあわせて読むと良いと思います。
管理者の立場から見ると、大企業のマネジメント特性とエフェクチュエーションの特性のコンフリクトから、いくつかの課題を抱えているように思えてしまうことがあります。これを順に考えていきましょう。
①成果が予測できない
エフェクチュエーションは、未来を予測する代わりに現在できることをもとに将来を創造していく方法です。これは、革新的なアイディアを生み出す上で非常に有効なアプローチですが、同時に成果が予測しにくいという課題を抱えています。特に大企業では、プロジェクトの成果に対する予測可能性が高いことが求められがちであり、この点がエフェクチュエーションの採用を難しくしています。
②外に行って何をしているかわからない
エフェクチュエーションにおける「Crazy Quilt Principle」は、予測ではなく協力とパートナーシップに注目することを強調します。しかし、この協力を得るために社外との連携が必要になる場合、社内からは具体的に何をしているのか見えにくくなる問題があります。これは、特に情報の共有が重要視される大企業において、管理上の課題となりえます。
③本業に遠い事業を考えていると思ってしまう
エフェクチュエーションのプロセスは、革新的なアイディアや本業から離れた新規事業の機会を探ることを奨励します。しかし、これが大企業の既存のビジネスモデルや戦略と相反する場合があり、管理者にとっては戦略的な調整や社内での合意形成が難しくなる可能性があります。
④能力差が出て均質化しない
エフェクチュエーションは個々人の資源(知識、技能、人脈など)を活用することに重点を置いていますが、これが結果として能力の個人差による品質のばらつきを生むことがあります。大企業では、一定の品質を保つことが求められるため、この点が課題とされます。
⑤時間がかかる
新規事業の開発やイノベーションの過程は、時間がかかるものです。エフェクチュエーションのアプローチを取ることにより、未知の分野への挑戦や外部との協力による価値創造を試みることができますが、それには相応の時間が必要となります。大企業においては、迅速な結果が期待される場面も多く、この時間的な制約が課題となることがあります。
これらの課題は、エフェクチュエーションを大企業において効果的に実施する上での障壁となり得ますが、同時にこれらの課題への理解を深めることで、より戦略的かつ効率的なアプローチが可能になります。
課題に対する対策
大企業におけるエフェクチュエーションの課題への対策をマネジメントの観点から検討すると、以下のようなアプローチが考えられます。
①成果予測のためのフレームワークの導入
「成果が予測しにくい」という課題に対しては、進行中のプロジェクトの成果を段階的に評価し、フィードバックを組み込むことができるフレームワークを導入することが有効です。例えば、リーンスタートアップのアプローチを取り入れ、小さな実験から学び、迅速に仮説を検証することが挙げられます。成果を段階的に見える化し、予測の精度を高めていくことが有効です。
②透明性の確保と内部コミュニケーションの強化
「外に行って何をしているのかわからない」という課題には、プロジェクトの進行状況を透明にするシステムの導入が効果的です。例えば、進行状況をリアルタイムで共有できるプラットフォームを活用し、チーム外のメンバーもプロジェクトの進捗を把握できるようにすることです。
③コアビジネスとの整合性の検証
「本業に遠い事業を考えている」、という課題に対処するためには、新規事業提案の初期段階でコアビジネスとの整合性を検証するプロセスを設けることが重要です。新規プロジェクトの提案時には、その事業が既存のビジネスモデルや戦略とどのように連携するのか、または長期的に企業の成長にどう寄与するのかを明確にする必要があります。
④スキル向上と品質管理の仕組みの構築
「能力個人差が出て品質が一定しない」という問題に対しては、社内研修プログラムの充実やメンターシップシステムの導入が有効です。特定のスキルセットやエフェクチュエーションに関する知識を広く社内に展開し、従業員のスキルアップを図ります。また、プロジェクトごとに品質基準を設け、定期的なレビューを通じて品質管理を行うことで、成果物の質を一定に保つことができます。
⑤タイムマネジメントとプライオリティの明確化
「時間がかかる」という課題に対しては、タイムマネジメントの技術の導入や、プライオリティの明確化が重要です。プロジェクト管理ツールを活用してタスクの進捗を可視化し、重要度に応じてプライオリティを設定します。
まとめ
これらの対策を通じて、大企業でもエフェクチュエーションのアプローチを有効に活用し、課題を克服することが可能になります。エフェクチュエーションを大企業のマネジメントにおいて有効に活用することで、資源の限られた状況下でも、未来を予測するのではなく、現在の資源を活用して新しい可能性を創出し、持続可能な成長を実現する道を切り開くことが期待されます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?