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取材日記 ヤクザの幹部が恐れた存在

 僕が30代だった頃の話です。ある週刊誌に頼まれて、安岡力也に似たヤクザの幹部を取材したことがありました。彼は60歳でしたが、年齢よりずっと若く見えました。

 その幹部が小学生の頃、先生に反抗したらオール1をつけられたそうです。3学期は通信簿を回収しないとわかっていたので、1に手を加え、すべて4に書き換えたら、両親はたいそう喜んでいたと語りました。

 この話がツボにハマってしまい、なぜか笑いが止まらなくなってしまったのです。そうしたら「君は面白いね。普通なら俺が怖くてみんな震えて取材するもんだよ」と幹部も笑顔になっていました。

「これも何かの縁だ。これから焼肉を食べに行かないか?」

 取材を終えるとベンツに乗せられて、赤坂の高級な焼き肉店に連れて行かれました。運転手は用心棒も兼ねていて、隣りのテーブルで同じ食事をしています。弱いのにお酒を飲まされ、気が大きくなってしまった僕は、トイレに立ったとき用心棒に話しかけました。

 会話の流れで「拳銃持っているんですか?」と聞いたら彼はしばらく黙っていました。やがて深呼吸してから、開き直ったように、「持ってます」と小声で答えたんです。

「種類は?」
「スミス&ウエッソン38口径。やはりアメリカ製が一番信用できる」
 
 やはりそうだったのかと驚きましたが、平静を装って会話を終え、ふらふらしながら席に戻り、今度は幹部に「今、怖い存在は何ですか?」と質問してみました。

「う~ん、金で動かない人間だね。俺は金を握らせれば99%の人間を操れるが、そうでないヤツも稀だがいるってことさ」

 ヤクザ組織の幹部が怖がるのは、懲役刑や警察ではなかったと知った瞬間でした。お酒のせいで、このとき覚えていた会話はこれだけ。あとはお全部忘れてしまいました。それほど、自分にとっては衝撃的な話だったのです。

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