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今年の本 (樽とタタン・落日・推し、燃ゆ)


#今年のベスト本

レコ大を見ながら書いてます。アイドルを受賞枠から外して大炎上したレコ大ですが、まあ、他にやることもないので。


今年はまじで本を読んでないです。活字を避けて生きてしまった。
思い出せる限りで3冊しか読んでないですね。マズい気がする。
若干ネタバレもあるかもので読んでからのほうが良いかも。

思い出せる限りの3冊を振り返ってみます。

樽とタタン


良い表紙。



中島京子先生の短編集。別に作者のファンというわけでもなんでも無い。
本屋でなんとなく買った。でも面白かったので大満足。
夏休み中、塾に行けと昼から家を追い出されていたので、塾には行かず図書館に行ってこれを読んでいた。今振り返るととても陰キャ。

小学生のタタンちゃんが主人公。
母親の帰りが遅いため、放課後はレッドバレルという粋な喫茶店に預けられており、そこにいる一風変わった常連たちとの会話や出来事を回想していくという内容。「タタンちゃん」という愛称は、常連の老小説家がつけたもの。タタンが喫茶店内にある大きな赤い樽を特等席にしていたので、「樽とタタン」で「タタンちゃん」という経緯。
ほっこりする話や感動話、不思議な話があってどれも面白い。
個人的なお気に入りは「バヤイと孤独」「サンタクロースとしもやけ」「ぱっと消えてピッと入る」
「サンタクロース」は単純に凄くいい話だなと思った。サンタクロースのバイトがしたい。

「ぱっと消えてピッと入る」はタタンの祖母の死生観の話。あとタタンと喫茶店の出会いの話。いわば第0話。
死んだあとも誰かの中で生きていく、というのは私の嫌いな考え方なのだけれど、このおばあちゃんに話させると不思議と腑に落ちる。納得はしないけど、「たしかにそれでも良いのかも」って気分になる。

「バヤイと孤独」は一番理解できなかった話。雰囲気しかわからなかった。
白いぬめぬめしたものは何かを比喩しているのかなと思って色々と考えてみるのだけれど思いついた例えはどれも少しだけ辻褄が合わない。
そもそもバヤイは生物学者で、「サケウシ」という生物の研究の第一人者らしいのだけれど、サケウシもなんだかわからない。
バヤイはなかなかにヤバい研究者でとても面白かった。
作中で一番の変人な気がする。
、、、、「第一人者」とは多くのばやい、それがほとんど知られていない分野の者に対して使われる。知られていないことと存在していないことはイコールではないが、知られていないという一点においては同じことである。したがって、ある視点においては、知られていない分野の第一人者の活動も知られていない、すなわち存在していないわけだから、大半の「第一人者」は何もしていない人間なのだ。、、、、
みたいな内容の、訳のわからない自己紹介を小学生女児に向かってしている男がバヤイ。
というか、彼に限らず、喫茶店の常連たちはみんな、どうせ小学生だからよく分かっていないだろうと踏んでかなのか知らないが、自分の本音の話をタタンによくしている。
しかし、タタンはそれを曖昧ながら覚えていたらしく、結果として彼らの心の内はこの様に書籍化されて耳目にさらされてしまっている。


この記事を書くにあたって飛ばし飛ばしで読み返してみたのだけれど、内容を忘れつつある話が多かった。
衝撃的な展開や表現で強烈に脳裏に焼き付く、といった類の話ではない。
読んでいる間はいろんな感情が掻き立てられてとても気分が良いのだけれど、しばらくすると内容を忘れてしまう。
「西の魔女が死んだ」を読んだときと同じ感覚。あれもほとんど内容を忘れてしまった。読んでいる間の気分の良さだけをよく覚えている。

樽とタタンも西の魔女も、来年か再来年、ほとんど話の内容を忘れてしまった頃にもう一度読み返したい。

なんとなく手に取ったと言ったけど、無理に理由をこじつけるなら、ひとつある。
米津玄師の「メランコリーキッチン」という楽曲でタルトタタンが登場して、それ繋がりで一度セブンで売ってたそれを食べてみたのだが、私の嫌いな林檎が入っていて凄く残念な気分になった。
そいで、林檎を入れているのに「アップル」を名前の中に入れないなんて不親切だな、と思った。
っていうことがあって、私の中で「タルトタタン」というワードが比較的思い出深いものになっていたからこの本を手に取ったんだと思う。

まずかったけど食べてよかった。




落日



湊かなえ先生の作品。有名作家さん。
読むと嫌な気分になる作品が多い。けれど面白いので読むのをやめられない。
この本は去年の冬くらいに買って、以来読まずに放置していた。
ものぐさ人間なので。
しかし、夏休みに友達と東京の従兄弟の家に行く予定があったので、新幹線の中で読んだ。あまりに面白くて旅行中に読破してしまった。

脚本家の甲斐千尋と、新進気鋭の映画監督長谷部香が主人公。
3人の人物の自殺直前の1時間を切り取って描いた「1時間」で大ヒットした新人映画監督、長谷部香が次作として取り扱うことに決めたのは既に判決が決した15年前の一家殺人事件。
その理由は幼少期親から受けた虐待と、その時家の壁一枚挟んで、向こう側にいた「顔も知らない」友達が被害者だったから。燃え落ちた自身の美しい記憶の「真実」を確かめたいという思いがあった。
そしてその事件を映画化するうえで地域的に関わりのある甲斐千尋とともに取材をすることになる。
「真実を知る」とはどういうことか、そしてそれを「表現する」とはどういうことか、「救済」とは何か。
そして、タイトルの「落日」の表す意味とは。

湊かなえ先生の作品は複数の登場人物の独白が交互に書かれる形式が多くて、それにより主観的でありながら、読み進むにつれて多角的に物語の全容が組み上がっていく気持ちよさが魅力だと思う。
今回も例に漏れず、甲斐千尋と長谷川香の二者の視点で交互に描かれる。
甲斐千尋の方は「第◯章」、長谷部香の方は「エピソード◯」という形でネーミングされている。長谷部香視点をエピソードにすることで過去回想、というか過去に囚われている感じがでて良いなと思った。

湊かなえ先生は伏線の張り方と回収のバランスが絶妙でとても好き。
なんというか、これは私の偏見に過ぎないかもだけど、伏線回収ってのはできるだけ早い段階で張ったできるだけ見えにくい伏線をできるだけ大々的に回収すると「凄い伏線回収」ってなる気がする。漫画とかの連載作品だと特に。
だけれど、伏線回収が無い、中だるんだ期間が続くと退屈で読めなくなってしまうので、小さな伏線回収のバランスが大切だと思う。
それがとても絶妙で。
やっぱりここにも同じく、出来事を複数の視点から見る書き方がうまく作用してるんじゃないかと思う。幾つかの視点から書かれる事象を頭の中で組み立てていくことで徐々に形が見えてくる。
パズルみたいな感じで、最初はなかなかどのピースがどこにハマるのか分からないけど、組み上げていく中である瞬間からみるみると解き方が分かっていくような、その「ある瞬間」の設定がとても気持ちいい位置にある。
ちゃんとクライマックスはラスト数十ページに持ってきておいて、途中も飽きさせない。

今作はイヤミス度合いはわりと低いので「告白」や「少女」なんかより読むのにエネルギーが要らない。
酷い展開だけど、光あるラストだったから読後感は良い。
湊かなえ先生の凄いところは、酷い展開で酷いラストでもなぜか読後感が良いこと。最悪の気分なんだけどそれが気持ちいい。


⇓ テレビドラマにもなってたみたいです。知らなかった。

多分左が香、右が千尋、左下が千尋の先輩、右下が彼氏



本屋に行ったら先生の新しい本が置いてあったので買った。
来年はこれを読もう。できるだけ早めに。


面白そう。




推し、燃ゆ


面白かった。


この作品は「落日」を読み終えた頃に文庫版を見つけたので買って、かれこれ半年ほど掛けて最近ようやく読み終わった本。
けして面白くなかったわけじゃなくて、私があまりにものぐさだったから。

別の記事でも書いたけど、純文を「面白い」としか形容できないような語彙力なので、書くことが思いつかない。
面白かったんだけど、何がどう面白かったのか言語化出来ない。
語彙力が欲しい。

冒頭の34文字、
「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。詳細はまだ分かっていない。」
導入の文章なんて無い、最速のタイトル回収。
しかもそこから物語終盤までそれほど劇的な驚きのある展開が待っているわけじゃない。

主人公のあかりはアイドルグループ「まざま座」に所属する上野真幸を推している。
しかし、彼がファンの女性を殴った、という情報が拡散されて、瞬く間に炎上。詳細は一切明かされないまま、本人もこれを認めた。
それを皮切りに、真幸、ひいてはまざま座全体の環境が大きく変化し始める。まるでそれに連動するかのように、あかりのマインドや環境にも大きく変化していく。

「推しは命に関わるからね。」というあかりの言葉があるんだけど、もう、ほんとにこれ。
「推しは、命。」
もはや依存なんてものじゃない。
推しの力強い瞳から「生きること」を思い出し、体の底から生きるためのエネルギーが湧き上がってくる。推しに寄りかかっているのではなく、推しこそが彼女を作り、彼女の中心部分に存在する。

あかりは作中で、推しを推すことは自分の中心、背骨のようなものであり、普通の人は部活、勉強、バイト、オシャレや友達といったもので背骨を肉付けるかのように彩って生きていくのに対し、自分は逆で、まるでなにかの苦行かのように、肉と内臓を削ぎ落として、生きていく全てを背骨に集約させていく、、、と、形容していた。
事実作品の中には、まるで肉体を身体を縛るなにかの重りかのように表現している場面が多かった。
「推し活」をここまでネガティブに尖った考え方で捉えられるのか、となんだか感心した。
当然、人間は脊髄がないと死んでしまうので(意味深)、あかりは最後には骨抜き人間みたくなって怖かった。すごい嫌な読後感だった。でも面白い。

日常の細かな描写を切り取るように表現するのがとんでもなく上手い作家さんだなと思った。
私とは到底かけ離れた、設定上は共感できないはずの主人公なのに、本当に情景がありありと映る。
読んで欲しいけど、多分嫌な気分になる。
でも面白い。

これ以上喋ると作品の価値を損なう気がするのでそろそろ黙る。


以上でした。来年はもっと本を読みたい。
文豪の名作を読みたいな。

多分十二国記の新刊が出たらまた読書習慣戻ると思う。小野主上、たのしみに待っております。


それと、Mrs.Green Appleさん、「ケセラセラ」第65回レコード大賞おめでとうございます!!
ステージ演奏も凄かったです!!
アイドルいないし行けそうだなと思っていたので嬉しい。
今年聴いたミセスのMVで一番好きです。
私はミセスの明るい曲にひねくれた解釈を探すのが好きなので、この曲も凄く良かった。多分そういうひねくれ者からの視点も考えて曲作りしてるんじゃないかなと思います。


そういえば一時期学校の図書館で「ツァラトゥストラかく語りき」を立ち読みしてたんですが、ついに読み終わることはありませんでした。
家の本棚からパスカルの「パンセ」を発掘したからニーチェも買って一緒に読もうかな。



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