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エースであることの証明

前回の投稿でおさまりきらなかった7.25東京ドーム、レッスルグランドスラムのメインイベント、IWGP世界ヘビー級選手権について

この日のメインが当日変更発表されたのは前回の以下の記事ご参照

今回急遽挑戦者となった棚橋弘至選手は言わずと知れた新日本のエース。御歳43歳。この年齢にして、あの良い意味でのチャラさを維持しているところは尊敬に値する。

新日本プロレス、いや日本のプロレス界の一時代を築いたエース棚橋弘至も、最近はトップ戦線に遠慮している雰囲気だった。
若手を温かく見守っているようなほんわかベテラン棚橋先輩な空気を醸し出していた。

そのうち闘う相手は他のレスラーではなく、自身の身体になっていった。自分の身体を仕上げていく。
(これが『100日後に仕上がる棚橋』である。ご本人のTwitterのトップご参照)

しかしこの東京ドーム大会目前でギアチェンジをした。させられた。久しぶりにギラギラした棚橋弘至がそこにいた。


この日はビシッとスーツスタイルでの会場入り。
(公式から出ている当日の会場入りでのインタビュー映像より)

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最高峰のベルトをかけたタイトルマッチへの棚橋選手の正装であろう。なお、いつかのイッテンヨン東京ドーム大会でも同じように会場入りの際の映像がアップされたことがあったが、他の選手はいつも通りのラフな格好であった。
そしてもう一つ、棚橋選手はここぞの試合はポニテールである。この日は勝負のポニテだった。
これらから棚橋選手のこの試合にかける意気込みを感じた。

さて、実際の試合について。

前半は鷹木選手がおしていた。優勢だった。
ただ、棚橋選手は基本相手の技はしっかり受ける。受けてなお返すのがプロレスであるというのが棚橋選手の美学。だからたとえタイトルマッチであれ相手が鷹木選手であれ、今回も変わらない。威力が強い鷹木選手の大技も切り返さずしっかり受ける、そして返す、立ち上がっていた。

そんな中、棚橋選手も大一番でしか出さない場外へのハイフライフローもあり、「棚橋くんがIWGP狙うなら俺は何でもするよ」と言わしめた盟友柴田選手の技である顔面への串刺しドロップキックも出し、極めつけは当メインを無念の欠場となった飯伏選手の必殺技であるカミゴエも繰り出した。
このカミゴェには思わず涙が出た。飯伏選手の想いと一緒に闘ってくれているんだ!と感じずにはいられなかった。

そして、そのカミゴェからすぐに棚橋選手の必殺技のハイフライフローに繋げた。この飯伏必殺技→棚橋必殺技のゴールデンエース(2人のタッグチームの名前)の必殺技の応酬が出た瞬間、もうこのまま棚橋選手が3カウント取っちゃうのか?!そんなマンガみたいなこと起きるのか?!と思ったのだが、、

鷹木選手はそこでやられる選手ではなかった。さすがチャンピオンである。

こういう棚橋選手の観客の心を揺さぶる闘い方は、試合が進むにつれ観客をどんどん味方につけていく。いつしか棚橋選手を応援する拍手が増えていくのを感じた。

今のこのコロナ禍では、声を出しての応援は禁止されており、観客は拍手だけで応援している。
その拍手も
『技が決まったことを喜ぶ/賞賛する拍手』
『技が決まって更に行けー!という手拍子』
『やられた時に立ち上がれ!と応援する手拍子』
等がある。

後ろ2つの手拍子に関しては、どちらも手拍子なので、一見するとどちらの選手を応援しているかわからない。また手拍子が始まるタイミングも遠慮気味なので、尚更どちらに向かってなのかわからない。

でもこの試合、後半になるほど明らかに棚橋選手を応援しているであろうタイミングでの拍手、手拍子が増えているようだった。
これはもう感覚でしかないのであるが、拍手や手拍子が起きるタイミングとか大きさとか、「これは棚橋選手に向けてだな」と感じた。

そしてこの"手拍子"に関して何よりも驚いたのは、あの東京ドームで手拍子がぴったりと合っていたのである。

どういうことかというと、
東京ドームは広いので、どこかで一部で手拍子が発生しても、別の場所に伝わるのに時間がかかるので、誰かの手拍子に誘導されてし始めた手拍子は、最初に手拍子をした人のものとはずれるのである。また反響もするので、東京ドームでは手拍子はずれにずれまくってただバラバラと手を叩いているようになってしまい、全く盛り上がらずそのうちに手拍子がフェイドアウトしてしまうのである。

しかしこの試合、後半は手拍子がぴったり合っていた。
誰かの手拍子が聞こえてからそれに誘導されてし始めるのではなく、選手の動きを見てその動きに誘導されて各自が手拍子をし始めていた。だからぴったり合ったのだと思う。「手拍子をしたい」という観客の意志があった。

まさしく選手と観客が一体となって、応援し、応援されていた結果の事象だと思った。これにはちょっと感動した。鳥肌がたった。

この拍手については鷹木選手が一夜明け会見で触れていた。
”お客さんは棚橋選手を中心に手拍子していた、棚橋選手を見ていた"と。

棚橋選手が”エース”と言われる所以はこういうところなのであろう。
ビッグマッチでの盛り上げ方、試合の中でストーリーを作りあげていく闘い方、そして観客をいつしか惹きつけている闘い方。

若手や他に中心となるような個性的な選手もどんどん出てきている中でも、いまだに『新日本のエース』として団体からも信頼を置かれているのはこういうことが出来るからなのであろう。

鷹木選手は試合後、退場する棚橋選手に向かってリング上から次の様な言葉をかけた。

「ある意味、本当の勝者はあんたかもな」

対戦相手の鷹木選手が、棚橋選手の”エース”であることを誰よりも感じたのであろう。
こういうことを堂々と言える鷹木選手もまた素晴らしい。


そして、その鷹木選手にかけられた言葉に対しての棚橋選手の表情。
この時、最後に鷹木選手に「もう一回だ」と言ったように見えた。

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棚橋選手はこの試合で『棚橋弘至はいまだ新日本プロレスのエース』であることを証明した。
そして”棚橋弘至はまだここから上がっていける”ということを知らしめた。

棚橋選手はこの機会を生かした。ギラギラ棚橋弘至に変わるきっかけを得たのだと思う。
それは棚橋選手のバクステコメントでわかる。

ここ最近の棚橋選手は、”もう一回トップ目指したいな〜、できるかな〜”というゆるゆるした雰囲気だった。しかし今回、トップを目指すことが確実な"意志"に変わったように感じた。
これまでは膝のこと(膝の調子がずっとよくない)等を言い訳にしてきていたそうだが、”今の棚橋弘至を受け入れて今の棚橋弘至で闘い頂点を目指す”と言っている。

ここから棚橋選手は変わっていく。
丁度もうすぐG1(新日本プロレスのヘビー級選手でのトップを決めるリーグ戦)が始まる。

ここでもう一度ギラギラした棚橋弘至が来るのがとても楽しみである。
棚橋選手がもう一度上がってくる姿を見ながら、同世代として、私も力を貰って色々がんばろうと思わされた。

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