見出し画像

”角松敏生 / SEA BREEZE”

角松敏生のデビューアルバム『SEA BREEZE』(1980)のご紹介です。彼とは大学時代の同じバンドサークルの同級生。当時のエピソードも交えてお話しします。

1981年8月21日、アルバム『Sea Breeze』とシングル「YokohamaTwilight Time / Summer Moments」同時リリースされました。

アルバムA面(笑)はいきなりマンハッタンズを思わせる、ホーンが印象的なM1「Dancing Shower」から始まります。続くデイヴッド・フォスター調のピアノのイントロから始まるミディアムチューンM2「Elene」。軽快なカッティングギターが印象的なM3「Summer Babe」と、サウンドメイクは時代の求めているシャレ乙なテイストに溢れています。しかし如何せん新人歌手のデビューアルバム、歌唱力は今ひとつと本人も後に語っています。ジャケット写真のポーズや表情も、仲間内での評判は実に微妙でしたけど(苦笑)。

B面はデビューシングルとしてリリースされたM5「Yokohama Twilight Time」から始まります。村上ポンタ秀一の印象的なタムまわしと後藤次利のブリブリベースが光ります。そう、参加ミュージシャンは新人らしからぬ豪華布陣です。その他にも、林立夫(Drs)、松原正樹(G)、今剛(G)、井上鑑(Key)らのPARACHUTE軍団に佐藤準(Key)、EPO(Cho)も参加しています。

メンバーは凄いのですが、レコーディングについて角松本人は実は納得していなかったようです。プロのレコーディングやアレンジに対して、右も左も分からない新人アーティストなので仕方ありませんが、制作過程で自分の意見はほとんど通らなかったようです。確かに思い返せば、待望のデビューを果たした割には、今ひとつ煮え切らない表情を見せる瞬間もありました。せっかくスタジオに持ち込んだ自慢のGibson ES-335も出番はなく、「良いギター持ってるね」の一言で終わってしまったとか。

アマチュア時代の彼を知る者とすれば、ボーカルでデビューすること自体が驚きで、私たちの周囲ではNo.1ギタリストだった彼の存在も、プロの世界ではその程度の扱いだったということが更に驚き。プロの世界は厳しいねと、慰めにもならない言葉しか浮かびませんでした。

そしてアルバム後半の山場、デビューのきっかけになったデモテープにも収められた、実体験がモチーフの人気のスローナンバーM7「Still I’m in Love with You」。そしてそのまま波のSEで繋がるバラードM8「Wave」でアルバムは終わります。

全曲、彼の作詞作曲で、シンガー・ソングライターとしてのデビューアルバムは、それなりの評価を得られたのではないかと思います。
まずはデビューおめでとうということですね。


その後の”SEA BREEZE”
デビュー当時はまだレコードの時代。CDへとフォーマット変わるにつれて、レコード盤のアルバムのCD化が順になされていきます。ただ単にメディアが変わっただけでなく、再現される音のクォリティも格段に進化するわけで、角松本人とすれば、そんな変化に合わせてリミックスとまではいかなくてもリマスターくらいはしたかったのだと思います。が、ここで原盤権を管理している元の所属先とこじれてしまいます。

もともと自身の活動のあり方について合意が得られず移籍した経緯があり、改めての交渉もうまく進みません。実際にCD化された『SEA BREEZE』は、単にLPのマスターをただCD盤に焼き付けただけのもので、本人にしては当然納得がいきません。ましてやデビュー当時の自身の力量に負い目を抱いていた彼とすれば、ほとんど無かったことにしたかったくらいだったのかもと推測します。

ファンからは熱烈に支持されるこの作品。このアルバム聴いたからファンになったという人が相当いるわけです。とはいえこの音質は、何とかせんといかんと思いながらも、長らく放置状態が続きました。

2016年になって一つの試みがなされます。『SEA BREEZE 2016』のリリースです。これは収録曲全てをオリジナルのマスターを使って新録音として出し直すというもの。当時のアルバムの原盤権は当時の事務所が管理しているものの、楽曲の権利は本人が握っています。それなら新たな原盤を作れば良いということで。

話は脱線しますが、当時松任谷由実の楽曲の権利を持っていた東芝EMIでしたが、荒井由実時代のものはALFAレコードが管理していました。そんな荒井時代の楽曲も含めて商品を作りたかった東芝EMIが考えたのは、コンサートを開催してそのライブを収録して独自の音源として、荒井時代の曲を含めた楽曲を商品にしたという話を聞いたことがあります。ただ結局は、そんなALFAから権利を買い取って、全て東芝EMIが管理することになりました。
しかし時は流れてそんな東芝EMIも、親会社の東芝がグループとして音楽産業から撤退することとなり、結局はユーミンも含めて音楽出版のほとんどをユニバーサル(元々東芝EMIでビートルズ関連を担っていた石坂敬一氏が当時は社長でした)に売却します。まさかビートルズの権利すら手放すとは驚きを隠せませんでした。
溜池の交差点脇にあった特徴のある意匠の東芝EMIビル・・・懐かしい光景です。

2016の文字が入りミュージシャン名の書体が変わりましたが、
写真はオリジナルのままですね。

ということで制作された『2016』版は、アナログのマルチトラック音源をデジタル化し、ボーカルはもちろん取り直し。SEの出し入れや、ソロ楽器の録り直しやリミックスなどなど手を加えています。こうして(当時)今の角松サウンドとして生まれ変わらせたということです。

本人にしてみれば、当時の拙い部分を録り直す、35年振りのリベンジということですが・・・。確かに歌は上手くなりましたが、自分の思い出のそれとは違うアルバムになっちゃったと。自身のアルバム全曲のセルフカバーということでしょうかね。

初回限定盤ではチャレンジ企画のボーナスCDがあります。オリジナルLPのかなり保存状態の良い盤が入手できたとして、それをレーザー・ターンテーブルで再生し、その音源をCDにするというもの。権利関係は微妙な気がします(汗)。盤に刻まれた音声信号を究極の再生方法で音源として取り出された音は確かにノイズレスですが、聞こえてくる質感はやはり原音直と比べると今一つかなという印象でした。

新たに世に出し直したこのアルバムの価値を、ファンはどのように受け止めたでしょうか。個人的にはリミックス&リマスター盤で良かったかなと思っていますけど。

こちらのサイトで試聴できます。

こちらの記事もどうぞご覧ください


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?