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【名盤伝説】 “Tom Scott / Apple Juice” 鉄壁のミュージシャンが支えるフュージョン・ライブ盤の名作。

お気に入りのミュージシャンとその作品を紹介しています。SAXプレーヤー、トム・スコットのライブ盤『Apple Juice』(1981)です。

トム・スコットはLA出身(1948年生まれ)。サックス以外にもエレクトリックなリリコンも得意としています。様々なスタジオワークと同時に、自身のバンドL.A. Express名義で何枚かアルバムをリリース後に、ソロ名義での活動を始めます。
1979年の名盤『Street Beat』に続いてリリースされた、ある意味絶頂期のアルバムと言えます。

このアルバムはニューヨーク・マンハッタンの老舗ライプハウスのボトムラインでの公演(1981/01/15-17)の模様を収録。参加しているのは当時のニューヨーク最高のプレーヤー達です。
フロントはEric Gale(G)Hugh McCracken(G)Richard Tee(Key)。そしてMarcus Miller(Bs)Steve Gadd(Drs)Ralph MacDonald(Perc)という鉄壁のリズム隊。人気のフュージョン・グループの「STUFF」+新進気鋭のマーカスですから、ファンには堪らないラインアップです。

アルバムはご機嫌なテンポのリフから始まるタイトル曲M1「Apple Juice」でスタートします。いきなりガットとマーカスの掛け合いが聴きどころです。途中のトムのソロパートもエモーショナルで攻めていて良いですね。続くM2ブルージーな「Gonna Do It Right」もトムらしい展開で、どこか懐かしさを感じさせるバックのオルガンの響きが良い雰囲気を出しています。そしていかにもというリチャード・ティのローズ・ピアノの美しいバラードM3「We Belong Together」と曲の構成は完璧です。Dr Johnをゲストボーカルに迎えたブルースM4「So While And So Funky」は、観客とのコーラスの掛け合いで場内は盛大に盛り上がりします。

続くB面。生ピアノの流れるようなプレイに絡むベース、まるでSTUFFの曲のようなM4「Gettin’ UP」。リリコンの響きが情緒的なスローナンバーM5「In My Dream」と続いて、ラストM6「Instant Relief」。L.A. Expressでのエモーショナルなプレイを彷彿するような展開に、観客は自然と踊り出したのではないでしょうか(あくまで想像。私が会場にいたら座っていられませんね)。途中のマーカスのPhaserの効いたソロは案外珍しいかも。その後はお得意のスラップ全開のプレイからのパーカッションソロ。御大ラルフも参加ですから、何処かで見せ場を作ってあげないと失礼ですよね。そしてリズムチェンジからのガットとの絡み、もう最高です。そしてテーマに戻って大団円。観客の熱狂の拍手に包まれて終了です。こんなライブがクラブで観られるのですから、やはり本場ニューヨークは凄いですね。

以前に紹介したThe Crusaders『SCRATCH』と並んでフュージョン・ライプ盤の名作として永久保存盤です。

さてYouTubeには、このライブの別バージョンがアップされていました。公演前日の有観客でのリハーサル・セッションのようです。これだけのメンバーですから事前のリハーサルなど時間が取れないのでしょうね。正規盤と比較するとアレンジも若干違いますし、演奏も正直バダバタです。とはいえこのクオリティは凄いです。1日だけのリハーサルで本番に臨む、さすがプロですね。

トムとの思い出。Blue Note東京がまだ骨董通り沿いにあった頃に、トムの公演を観に行きました。個人的には基本アーティスト本人には執着はなく、作品だけが興味の対象でした。しかし何を思ったか、その日はトムとだけは何らかのコミュニケーションを取りたいと、人生初の出待ちをしてしまいました。この頃のBlue Noteは、地階の客席から観客と同じ階段を上らないと楽屋に行けない構造となっていたので、ここで待っていればミュージャンに必ず会えると、公演終わりには多くのファンがたむろしていました。そして出てきましたトム。何組かのファンに囲まれた後に勇気を持って接近。「今日のステージはとても良かったです。写真を撮らせてもらっても良いですか」と拙い英語で話しかけOKをもらった一枚。写真の顔はぼかしていますけど、実にニヤけた表情で・・・本当に嬉しかったようです(苦笑)。
握手してくれたトムの手の、大きくて柔らかかった感触は今でも覚えています。

暗がりで見えていませんが、後に当日のメンバーのハイラム・プロックもいました

そんなトムも今年76歳と、それほどの年齢ではありませんが、最近のライブ動画などを見ると、顔つきも変わり、ご病気ですかというほど太ってしまい心配になってしまいます。当然、当時のようなキレのあるプレイはありません。

とはいえ作品の魅力は永遠です。まだ若くて元気だった頃の名ブレーヤー達の名演奏を、グラス片手にいつまでも楽しみましょう。

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