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角松敏生 1981〜1987

J-POPの角松敏生のデビューから現在までのキャリアを振り返る第1回目です。時代ごとに指向するサウンドに特徴があり、中々面白いです。
実は私は彼とは同じ大学のバンドサークルの同級生。共に過ごした学生時代の思い出も合わせて振り返ってみます。

私たちがまだ大学3年生だった1981年6月、シングル「Yokohama Twilight Time」とアルバム『SEA BEEZE』で彼はメジャーデビューします。それまでのアイドル歌謡とフォークソングだけだった邦楽の若者向け音楽が、松任谷由実や山下達郎、大瀧詠一らに代表される、洋楽に影響を受けたアメリカン・ポップカルチャー指向のサウンドに取って代わり、フォークソングもニューミュージックなどと呼ばれて、日本の音楽界のメインストリームへと移行していく時代だと思います。

洋楽もお洒落な大人が楽しむサウンド(苦笑)としてAOR (Adult Oriented Rock)が流行し、Black系も汗臭く暑苦しいR&Bや70年代に大流行したディスコサウンドなどではなく、Black Contemporary Music (BCM)という小洒落たダンスミュージックが主流となり、Jazz系も即興ゴリゴリのものから、ロックやラテンの要素を取り入れながら、分かりやすい主旋律とアドリブパートが明確に区別された、いわゆるクロスオーバー(今ではフュージョン?、スムース・ジャズですか??) との呼び名が幅をきかせ始めました。

雑誌「Jazz Life」を刊行していたスイングジャーナル社の「ADLIB」誌が季刊から月刊誌となり、そんな時代の音楽情報を積極的に発信し始めます。デビュー当時の角松のサウンドは、まさにこうした音を指向して、時代との波長がぴたりと合ったのではないでしょうか。

・1981.06 Sea Breeze
・1982.04 WEEKEND FLY TO THE SUN
・1983.05 ON THE CITY SHORE
・1984.04 AFTER 5 CLASH
・1984.08 SUMMER TIME ROMANCE~FROM KIKI (Re-mix BEST)
・1985.05 GOLD DIGGER~with true love~
・1985.07 SPECIAL EDITION FOR DANCING "Kadomatsu de OMA" (12” single)
・1985.11 T's BALLAD (Re-mix BEST)
・1986.12 T's 12 INCHES (12” single BEST)
・1987.07 SEA IS A LADY

当時の角松は山下達郎などとともにシティ・ミュージックの旗手と呼ばれていました。歌謡曲や、フォークソングを起源とするニューミュージックとは明らかに異なる指向性の音楽がもてはやされた時代。今更ながら再燃するシティポップ・ブーム。それではJ-POPとの違いは何なのか、論争とまではいきませんが、今の猫も杓子もシティ・ポップという呼び名でくくってしまうことに、かなりの違和感を感じています。

さて当時の角松サウンドは、まさに80年代ど真ん中のテイスト。歌詞にもある、都会の喧騒から逃れて海を見にドライブしようよなど、普段の生活とは完全にかけ離れた、気分だけでも現実逃避できるような音楽だったのかなと感じるのは、歳を重ねたせいでしょうか。

一連のアルバムの中でオリジナルな音を指向するのは当然とはいえ、一方で彼の山下達郎への潜在的なオマージュもあり、『T’s BALLAD』吉田美奈子をコーラスに起用できたことで、いわゆる達郎路線に一つの決着をつけたように感じます。

更に時代のブラコンやFUSIONサウンドにも傾倒し、情報交換に余念が無かった当時のサークル仲間としては、『AFTER 5 CRUSH』で流れてきたファンク調のサウンドに思わずニヤリ。ルーサー・ヴァンドロスなどは死ぬほど聴き倒していましたからね。イヴリン・シャンペーン・キングなども今にして思えば、角松サウンドの下地に隠されているような気もします。
リゾート指向の強かったサウンドだけでなく、次はこちらと言わんばかりにダンス系の曲調を前面に押し出していきます。

更に更に『SHE IS A LADY』というオール・インストのアルバムを制作するに至っては、これでデビューするにあたり「こんな音楽をやりたい」という彼の望みを一通り叶えられたのではないかなと感じました。今でもブルーノートなどのライブで彼が選曲するフュージョン物のカバーに、学生時代に彼がサークルで演奏していたトム・スコットやニール・ラーセンの曲があったりするのは、彼の音楽性の中でこのジャンルは外せないのだろうなと思うのです。

詳しくは触れませんが、デビュー当初の所属事務所の問題を乗り越え、人の縁に恵まれてここまで活動を全うできたのは、本当に良かったと思います。

個別のアルバム評については別の機会にしたいと思います。
振り返りの第1回目はまずはここまでということで。


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