見出し画像

53  手と手首の痛みHand and Wrist Pain              Firestein & Kelley's Textbook of Rheumatology, Eleventh Edition 



キーポイント

・手根管症候群の患者は夜間の知覚障害が典型的で、日中も断続的な痛みや知覚障害を伴うことがある
・ガングリオンは関節包や腱鞘から発生するムチンを含んだ嚢胞であり、痛みを伴う場合はステロイド注射が試みられる。再発することが多く、外科的切除が必要になることもある。
・ドケルバン病(De Quervain病)は手背第一コンパートメント腱(母指伸筋と長母指外転筋)の炎症で、女性に多く、乳幼児の世話など持ち上げ動作を繰り返すことに関連する
・母指のCMC(手根中指)関節に痛みを伴う変形性関節症は、スプリント(装具)と、NSAIDでうまく治療できることが多い
・トリガーフィンガー(ばね指)は、手掌のA1 pulleyの肥厚が原因でおこり、通常はステロイド注射で治療できる

はじめに

・日常生活において手が果たしている様々な機能は、手が病気や怪我によって侵されてはじめて気づかれる。
・本章では一般臨床医や手の外科医に最もよく見られる疾患を取り上げる。これらの疾患は、手関節の掌側、背側、橈側、尺側、親指の付け根、および手のひらと指に限局した痛みなど、解剖学的部位ごとに分類されている。

pearl:変形性関節炎の痛みは、持続する局所的なうずくような痛み、腱炎の痛みは、動かした時のみ出現する、びまん性の鋭い痛みである。

Comment:The pain of degenerative arthritis is often described as a localized, aching pain that is always present. In contrast, tendinitis is often associated with sharp, dif- fuse pain, which is only present with activity. 
・手根管症候群のような末梢神経の巻き込みは、患者が "針とピン”で刺されたように感じると表現する夜間の知覚障害を伴う。トリガーフィンガー(ばね指)では、通常朝に悪化し、一日を通して改善する痛みを伴う指のロックが起こる。痛みを誘発するような行為にも注意が必要である。親指の付け根の関節炎(1stCMC)は、瓶を開けたり、ドアノブを回したり、針仕事や他の趣味をすることによって悪化することがある。
・①関節炎は鈍い痛み、②腱炎は動作時の鋭い痛み、③神経がからむ場合は知覚障害を伴う”びりびり・ぴりぴりした”痛み、という印象です。問診だけでもある程度絞り込めます。
・表現すると、腱の痛みは「動かした時にびんと痛い」、関節炎のいたみは「ずっとじーんと痛い」でしょうか。

Myth:画像検査は想定していない診断を見つけるために使用される

Reality:With the multitude of ancillary studies available, it is important to be selective in using these tools. With cost containment in mind, imaging studies should be used most often to confirm a diagnosis rather than to find one.
・多数の補助検査が利用可能であるため、これらのツールを選択的に使用することが重要である。コスト削減を念頭に置いて、画像検査は診断を見つけるためではなく、診断を確定するために最も頻繁に使用されるべきである。
・X線、CT、MRIなど様々な検査を我々は武器としてもっていますが、予想していない偶然みつかった所見は、重要でないことが多く、逆にひっぱられて診断が定まらないことは、日常臨床で確かにありますよね。
・あくまで病歴と身体所見で可能性が高い疾患名をあげて、画像で再確認する、という診断学の基本は同じということだと思います。

Myth:エコーを使わなくても腱鞘内への注射はある程度正確に施行できる

Reality:Ultrasound-guided injections were found to be in the tendon sheath 70% of the time versus 15% of the time when ultrasound was not used.
・超音波ガイド下での注射は、超音波を使用しなかった場合の15%に対し、70%の確率で腱鞘内にあることがわかった。
・関節エコーは、ルーチンで定期フォローは推奨されていませんが、例えば患者と医療者の関節炎の活動性の認識が異なるときや、治療を変更するとき、また今回のような関節・腱鞘内注射のときには有効です(Joint Bone Spine. 2021 ;88:105187.)
・個人的には、関節液があまりたまっていない関節や小さい関節への穿刺、そして腱鞘内への注射ではエコーガイド下で行っています。

Pearl:様々な全身疾患が手根管症候群の原因となる

Comment:It usually occurs as an isolated phenomenon, but symptoms of CTS can accompany many systemic diseases, such as congestive heart failure, multiple myeloma, and tuberculosis.More commonly, CTS is associated with conditions such as pregnancy, diabetes, obesity, RA, and gout. 
・手根管症候群は通常、単発的に発症するが、うっ血 性心不全、多発性骨髄腫、結核など、多くの全身性疾患に 伴って発症することもある。より一般的には、CTSは妊娠、糖尿病、肥満、 RA、痛風などの疾患と関連している。
・Phalenテスト(B 手関節屈曲)に検者による正中神経の圧迫を加えたPhdurkanテスト(D)が手根管症候群の検出に最も感度が高いようです(J Hand Surg Glob Online. 2020;2:121-125)

手根管症候群の診察

・手をふると改善する特徴をflick signといいます。1984年のオリジナルの文献では感度93%、特異度96%と非常に有用な所見ですが(JAMA 2000; 283: 3110-3117)、その後の報告では、感度も特異度もそれほどでもないというものもあり(Am J Phys Med Rehabil. 2004;83:363-7.)、このflick signのみで診断というわけにはいかなそうです。
・CTSの保存的治療は、手首をニュートラルポジショ ン(まっすぐ)に固定し、疼痛コントロールのために非ステロイド性抗 炎症薬(NSAIDs)を内服することである。スプリントは、二次的な筋力低下と疲労を防ぐた め、日中は控えめに使用する。スプリントは手首を10度以上伸展させないようにする。

Pearl:手根管症候群は緩徐発症、Guyon管症候群は急性発症である

Comment:In contrast to carpal tunnel syndrome, in which patients usually have an ill-defined onset of symptoms, ulnar nerve compression in the canal of Guyon is often of more acute onset. 
・手根管症候群では通常、症状の発現が明確でない のとは対照的に、ギヨン管における尺骨神経圧迫は、 より急性に発症することが多い。
・Guyon(ギヨン)管は手関節の掌側尺側にある尺骨神経と尺骨動脈が通過するトンネルです。ここで尺骨神経が圧迫されるとGuyon管症候群をおこします。症状は肘の肘部管症候群と同様、小指や環指の知覚障害、しびれです。両者の鑑別には神経伝導速度検査などが有用です。
・繰り返される鈍的外傷、有鉤骨や中手骨基部の骨折、時には橈骨遠位端の骨折に伴うこともある。ガングリオン、脂肪腫、異常筋などの空間を占める病変も圧迫の原因となる。

ギヨン管と手根管の関係

Myth:ガングリオンは完全に穿刺吸引すれば完治する

Reality: Intermittent complete resorption fol- lowed by reappearance months or years later is common. 
・間欠的な完全吸収の後、数ヵ月または数年後に再出現するのが一般的である。
・ガングリオンは手および手首の軟部腫瘍全体の50%〜70%を占める。このうち60%〜70%は手関節背側に発生する。これらのムチン充填嚢胞は通常、隣接する関節包または腱鞘から発生する。
・自然破裂は一般的であり、かつては、大きな本などの重いもので嚢胞を破裂させることが治療法として推奨されていた。吸引を行うこともできるが、嚢胞内の液体が厚いゼラチン状であるため、結果はまちまちである。嚢胞の十分な減圧が達成できたとしても、通常、液体が再貯留する。
・重い本でガングリオンを破裂させるのが治療だったという。。なかなかワイルドです。
・切除は一般に治癒的であるが、手術の瘢痕の結果、短期間のこわばりや末端の屈曲不全が生じることがある。患者が美容上の理由から嚢胞の切除を希望することもある。適切な切除を行えば、再発率は10%未満である。

Pearl:若年成人の手首の痛みとこわばり、背側の腫脹圧痛をみたらキーンベック病を疑うべきである

Comment:Kienböck’s disease should be suspected when a young adult presents with pain and stiffness of the wrist and swelling and tenderness around the region of the dorsal lunate. 
・1世紀近くたった今でも、この疾患の原因は不明である。若年成人に手首の痛みとこわばり、月状骨背部周辺の腫脹と圧痛がみられたら、キエンベック病を疑うべきである。この疾患は、解剖学的に尺骨が橈骨より短い(いわゆる尺骨ネガティブバリアンス)患者に起こりやすい。
・初期の徴候は月状骨の線状骨折または圧迫骨折である。後期には月状骨の硬化がみられ、月状骨の崩壊と手根骨の高さの低下が続く。最終段階では、手根骨にびまん性変形性関節症の徴候がみられ、月状骨の完全な崩壊と分断がみられる。
・月状骨の血行障害によって月状骨が潰れる疾患です。壮年層の男性で手をよく使う人に多いです。手首が痛い、でも原因がはっきりしないときに一度考えておきたいです。病初期にはX線で所見が出ませんが、MRIでは所見が得ることができます。

キーンベック病

Myth:ドケルバン病の腱鞘注射の有効性は高い

Reality:Anatomic studies have shown that a high percentage of patients have a divided first dorsal compartment, with separate compartments for the EPB and APL slips, and this feature can account for failure of conservative treatment and injections. 
・手首周辺の腱刺激で最もよくみられる部位のひとつは、第1背側伸筋区画で、ドケルバン病として知られる現象である。関与する腱は、母指伸筋(EMB)と長母指外転筋(APL)である。この2つの腱は、橈骨の浅い溝とその上にある靭帯からなる骨靭帯性トンネルを通過する。解剖学的研究によると、EPBスリップとAPLスリップのコンパートメントが分かれている第1背側コンパートメントを持つ患者の割合が 高く、この特徴が保存的治療や注射の失敗の原因となっている。
・ドケルバン病は、産後の女性に発症する最も一般的な腱障害であるが、その理由は、乳児の世話において手と手首の位置が特異的に要求されるからである。親指の外転と伸展を繰り返し、手首の橈骨と尺骨の偏位を伴う運動は、この問題を悪化させる可能性がある

・手関節の伸側には伸筋腱があり、6つのコンパートメントにわかれます。
・この第1背側伸筋腱区画は、短母指伸筋腱と長母指外転筋から構成されますが、ドケルバン病の患者はなんと89%がコンパートメントが別れていると報告されています(Hand (NY). 2020 ; 15: 348–352.)。腱鞘にステロイド注射をしても、どちらかにしか効いていない、ということですから、確かに有効性はあまり期待できませんよね。。
・親指をにぎりこんで、手首を尺側偏位させるFinkelsteinテストで疼痛が惹起されます。(絵)

Finkelstein法

Pearl:腱交叉症候群(Intersection syndrome)は第1背側コンパートメントと第2背側コンパートメントの摩擦でなく、第2背側コンパートメント内の長・短橈骨手根伸筋の腱障害である

Comment:A less common condition that may occur in the same general location in the wrist is intersection syndrome. Although initially attributed to friction between the first and second dorsal compart- ment tendons, Grundberg and Reagan  subsequently showed that the condition represented a tendinopathy of the radial wrist extensors within the second dorsal compartment. 
・ドケルバン病と手首の同じ部位に起こるあまり一般的でない症状として、腱交叉症候群がある。当初は第1背側コンパートメント腱と第2背側コンパートメント腱の摩擦が原因であるとされていたが、GrundbergとReaganはその後、この症状が第2背側コンパートメント内の手関節の橈側伸筋の腱障害であることを示した。
・ドケルバン病も腱交叉症候群ともに治療はスプリントを用いた安静である。
・手関節伸側の6つのコンパートメントを示します。RAで遠位橈尺関節炎が遷延すると、みてわかるように、第5コンパートメントの小指伸筋が影響され、断裂することがあります。さらに関節炎が遷延すると、その横の総指伸筋腱に波及し、環指の進展障害が続きます。

6つのコンパートメント

Myth:母指手根関節(1st CMC関節)障害は、高齢者の変形性関節症でもっぱらみられる

Reality:Inflammation and pain related to the carpometacarpal joint of the thumb are common and can occur at any age. In younger patients, instability secondary to ligamentous laxity is associated with joint subluxation and abnormal cartilage wear and may lead to pain with mechanical activities. In women older than 45 years, stud- ies show that 25% have radiographic evidence of degeneration of the basal joint.
・母指手根関節に関連した炎症と痛みは一般的であり、年齢に関係なく起こりうる。若年者では、靭帯の弛緩に起因する不安定性が関節亜脱臼や軟骨の異常摩耗と関連し、機械的動作による疼痛を引き起こすことがある。45歳以上の女性では、25%に基節関節の変性がレントゲン写真で認められている
・1st CMC関節症は、OAで有名ですが若年者でも、しばしばRAや痛風でもみられることがあります。瓶や蓋をあけたり、ドアノブや鍵を回したりする動作で痛みが誘発されます。

Pearl:トリガーフィンガー(ばね指)は関節リウマチ、糖尿病、痛風に関連することがある

Comment:Primary trigger finger is the most common type and is found most often in middle-aged individuals. Triggering of the thumb is four times more frequent in women than in men.Secondary triggering is seen in association with such diseases as RA, diabetes, and gout. 
・一次性トリガーフィンガーは最も一般的なタイプで、中高年に多くみられる。母指の誘発は、男性よりも女性の方が4倍多い。 二次性トリガーフィンガーは、関節リウマチ、糖尿病、痛風などの疾患に関連してみられる。このタイプでは、トリガーフィンガーが多発することが多く、ドケルバン病やCTSなどの他の狭窄性腱障害と併発することもある。
・指の屈曲時に痛みを伴うクリックやロッキングは、手の痛みの最も一般的な原因のひとつである。この症状は、手のひらのA1 pulleyの肥厚によって引き起こされ、一般に トリガーフィンガーとして知られている。 罹患する指は親指が最も多く、次いで環指と中指である。
・報告によりますが、頻度は母指=環指>中指>他の指、という感じです。
・A1 pulleyは手指屈筋腱を骨に基節骨にとどめておく役割ですが、過度な使用(一次性トリガーフィンガー)やRA、DM、痛風によって(二次性トリガーフィンガー)肥厚すると、屈筋腱の肥厚した結節が、指や母指を深く屈曲させる際にA1プーリーを突き破って近位側に飛び出し、指を伸ばそうとする際にA1プーリーにぶつかるため、指や母指をまっすぐに伸ばすことが困難になり、しばしば痛みを伴うようになります(下図)。


ばね指の機序

https://orthoinfo.aaos.org/en/diseases--conditions/trigger-finger/)

・スプリントとステロイド局所注射が有効です。スプリントは手指足趾のロッキングを防ぐために夜間に行うのが最も効果的です。

Myth:手指変形性関節症にともなって生じた粘液嚢胞は穿刺吸引が有効である

Reality:A mucous cyst may appear in association with degenerative arthritis. Mucous cysts appear on the dorsum of the joint and can cause nail growth deformities as a result of pressure on the germinal matrix (Fig. 53.11). The changes in nail growth may precede clinical detection of the cyst. These cysts should not be aspirated with a needle because of the close proximity of the DIP joint and the risk of secondary joint infection.  
・変形性関節症に伴って粘液嚢胞が出現することがある。粘液嚢胞は関節背側に出現し、生殖基質を圧迫する結果、爪の成長の変形を引き起こすことがある。爪の成長の変化は、嚢胞の臨床的発見に先行することがある。これらの嚢胞はDIP関節に近接しており、二次的な関節感染のリスクがあるため、針で吸引すべきではない。
・ガングリオンとはできる場所が違うので間違わないとは思いますが、、注意が必要です。

(https://www.aocd.org/page/DigitalMucousCyst)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?