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Vol.78#挑め!Leading Article/難航するホームレス取締法改正

今日のテーマは”ホームレス取締法”です。

🔹🔸このコラムでは毎朝その日のLeading Articleから解釈の決め手となる語句を3つ選んで解説していきます。定着させて英語を読む事がどんどん”楽”にしていきましょう🔹🔸

現在のホームレス取締法はなんと1824年に制定されたものです。ナポレオン戦争や産業革命の進展により増えた路上生活者を取り締まる為に路上生活を刑罰の対象としています。
社会的な弱者に対する対応としてはあまりに時代遅れな内容であり、2年前の議会で廃止が決議されました。ところが、それに変わる法律の制定が遅々として進まず、現時点では施行に至っていません。
当時の法務大臣が作成した新しい法案はホームレスを”ライフスタイルとして路上生活を選択している者”と定義する等、疑問が残る箇所が多いのは事実です。しかし、そうした対象の範囲について調整し法律を制定していくのは議会制民主主義の日常的な営みのはずです。それができないとなれば国民に対して”有言実行の党”を掲げた選挙運動を展開しても、響かないのは目に見えています。

屋根ある所で暮らせるありがたさをかみしめ、読み進めていきましょう。


◎今日のLeading Article:Rough Patch

It is unfortunate that laws to tackle homelessness are being held up by political rows

The Vagrancy Act of 1824 — an act “for the Punishment of idle and disorderly Persons, and Rogues and Vagabonds” — makes begging and some forms of rough sleeping criminal offences in England. An antiquated piece of legislation that punishes vulnerable people for something that they often cannot help, the act nevertheless remains on the statute book. It is little wonder that parliament decided two years ago to get rid of it, but repeal will only take effect when ministers are satisfied that new laws are in place to replace the old ones. The government’s political weakness is making that exercise harder than it should be.

As part of the Criminal Justice Bill, ministers have proposed new powers to move on, and potentially fine or even imprison the homeless, where they are classed as so-called “nuisance” rough sleepers. The government says that the bill targets the true problem cases. Some Tory MPs are concerned that the powers are not targeted at all, and would criminalise homelessness all over again. The government has paused the legislation while it tries to negotiate with those rebels, the political range of which is striking. Some come, as might be expected, from the left of the party: the former deputy prime minister Damian Green, who chairs the One Nation group of Tories, has condemned the government’s plans as even worse than the Vagrancy Act they are to replace. Yet there is scarcely more support for ministers on the right. The former Tory leader Sir Iain Duncan Smith, a conservative’s Conservative who toughened up the benefits system during the Cameron government, is also against the measures, as is Bob Blackman, secretary of the 1922 Committee of Conservative backbenchers and a member of the so-called Common Sense Group of anti-woke Tories.

This is a political headache for the government, not least because the stalled bill contains a suite of other criminal justice measures to establish the Tories as “tough on crime” before the election. Ministers have surely not been helped in making the case for this package by the questionable political judgment of Suella Braverman, the author of the legislation when she was home secretary. Her protestations shortly before being sacked last year, that the new legislation was necessary to crack down on those “living on the streets as a lifestyle choice”, did little to persuade MPs that the bill was anything other than a vehicle for a leadership candidate to demonstrate her socially conservative credentials to party members.

She is now gone, however, and the government should be capable of a mature conversation with its own MPs about the detail of legislative drafting, without descending into an argument that threatens to derail one of the few big pieces of legislation that parliament has time to pass before the next election.

No doubt, the new powers — which define a nuisance as potentially including, for example, membership of a group where at least one member causes “excessive smells” — could be more tightly and humanely drawn. But bargaining over the parameters of legal definitions is the bread and butter of parliamentary democracy. If the government’s relations with its own MPs and peers are so strained that it cannot hash these out without halting its legislative agenda, the Conservatives will face an uphill struggle in persuading the country that they are a party of delivery.

□解釈のポイント■■■

①sleep rough/路上生活をする

ここでのroughは不快な状況にある事を指します。そんな状況で寝る、つまり快適な家のベッドじゃなく不快な屋外で眠る路上生活をするという表現です。
1824年以来のホームレス取締法は物乞と路上生活を一括して違法行為としています。これに対して政府は法案では”他人に迷惑をかける”路上生活という本当に問題となるケースを対象とするとして審議を進めました。ところが、保守党内部からそれじゃ結局全てのホームレスが対象になるのではという懸念の声があり中々まとまりません。
”他人に迷惑をかける”とは何かという話になりますが、政府案の定義では”過剰な臭いが発生している事”などの幾つかの条件があるそうです。それじゃあ”他人に迷惑をかけない”ホームレスが存在するのかと、その優良なホームレスは別の待遇を得るのかと。ツッコミどころが多い法案になってしまっているようです。

②descend into/好ましくない状況に発展する

descendは上から下に移動する事ですが、議論や状況が良くない方向に行く事を否定的に指す表現となっています。

初めは対象となるホームレスの定義をどうするかという議論だったのが、だんだんとその法案自体やめにしたらいいのではという議論に発展してしまう事が懸念されます。立法にはそれ相応の時間がかかりますので選挙前の追い込みの中で実績をひとつ失うのは保守党にとって良いことではありません。

③the bread and butter /基本的な問題

主食となるパンとバターの様に基本的で重要な問題という事ですね。日常茶飯事だと平凡な事になってしまいますので、それよりももっと大事な米と塩みたいな位置付けですね。日本語に飯を食っていかなきゃならないという言い方がありますが、それと近いかもしれません。

■試訳

ホームレス取締法が未だに存続しているのは政界の対立によるが、これは残念な事だ
1824年の浮浪者取締法の目的は、怠惰で秩序に反する人やならず者や放浪者を罰する事であった。これにより物乞いや路上生活は法に反する行為となった。現代にはそぐわない法律であり、他にやりようのない弱者を罰する事が多々あったが、それでもこの法律はまだなくなってはいない。2年前に議会が廃止を決議したのはごく自然な事であったが、法律の廃止が実施されるのは閣僚が新しい法律が古いものにとってかわる事を承認するのを待たねばならない。政府が政治力が弱まっている現状において、その難易度が必要以上に上がってしまっているのだ。刑事司法法案の一部として、閣僚達は新たな権限を推進する事を提言してきた。これによってホームレスに罰金を課す事や刑務所に収容する事さえも可能となる。その条件は”迷惑な路上生活者”として分類される事だ。政府によれば、この法案の対象は本当に問題となる様なケースであるとの事だが、保守党の議員にはこの法律の権限は全く限定されておらず施行されれば全てのホームレスを処罰の対象にする事になるだろうと懸念する者もいる。政府はこの立法を保留し、反対派と交渉を試みているが反対派の政治的な範囲は驚くべきものだ。
予想どおり保守党左派は反対している。前副首相のDamian Greenだ。彼は保守党内でOne Nation派閥を率いる人物だが、政府案は代替対象となる浮浪者取締法よりも酷いとして批判している。保守党右派はと言えば閣僚への支援という点ではほとんど変わらない。前保守党党首Iain Duncan Smith卿は保守派の中の保守派とでも言うべき人物でキャメロン政権時に社会保障制度を厳格化した人物であるが、この人も今回の立法には反対している。保守党幹部議員による1922委員会、そして反Wokeの立場をとる保守党議員の集まりで”良識派”と呼ばれるグループの漢字を務めるBob Blackmanも同じ意見だ。これは政府にとっては頭の痛い政治の問題だ。とりわけ中断してしまった審議には選挙に向け犯罪に対して厳しい姿勢をとる保守党という印象を確立する為の他の法案も含まれているからだ。この法案はSuella Bravermanが法務大臣だった際に疑問の残る政治的な判断に基づいて起案されたものだが、閣僚たちにとってもそんなものを支持するメリットがないのは確かだ。この抗議は昨年彼女が法務大臣を外される直前になされたものだ。その内容は新たな法律はライフスタイルの選択として路上生活をしている人を取り締まるのに必要であるというもので、議員達にとってはこの法案が党員に対して党首候補が社会的な保守派としての信憑性をアピールする手段にしか思えないものだった。彼女はもういないわけだが、政府は議員と立法内容の詳細について成熟した議論をすることができるという事があるべき姿だ。次回の選挙前に議会での成立にまでこぎつけられる数少ない法案の一つだ。成立を脅かすような議論に発展させてはならない。新しい法律がより厳密にそして人道的な言葉で書かれるべきであるのは疑いがない。現行のものでは迷惑の定義として、そのグループのメンバーに少なくとも1名”過剰な臭い”を発する物がいるというのがある。しかし法律の定義の限度を交渉するのは議会制民主主義の日常茶飯事だ。政府が自分の党の議員との関係が悪く、法案を止める事なく推進する事ができないとなれば、保守党は国民に対して自分たちが有言実行の政党であると説得するのには相当苦労する事であろう

◇一言コメント:

タイトルのrough patchは荒れた路面から転じて難局という意味の言い回しですが、解説で取り上げたrough sleepのrough(不快な状況で)と掛け言葉になっていいます。荒れた路面で寝るホームレスとその問題が保守党には政治的な荒れた局に発展しているという事ですね。

路上は誰のものなのでしょうか。公道という考え方をすれば国や自治体の持ち物であり、それを国や自治体にはそれを管理する権利があります。そこには当然路上で生活しようとする人を排除する権限も含まれるでしょう。
とすれば、路上で生活する事をライフスタイルとして選択しようとしている人は所有者の権利を侵害しようとしているわけで排除されても仕方ないとなります。しかし、人間をそのようにして扱って良いのかというのはまた別の社会福祉の問題です。ただ排除するだけではホームレスは一時的にどこかに退避し、再び隙があれば戻ってくるだけでしょう。どうすれば路上を管理できるのかを真剣に考えれば自然と保護や支援という事に検討が及ぶはずです。

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