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追悼

始まれば終わるものだというのが世の常である。
命というのも人との関係というのも、
青天の霹靂で突然終わりを告げるのだ。
アッと息をつく間に終わってしまうので、別れを惜しむ暇もない。

それは逆に幸せなことなのかもしれない。
祖母は静かに息を引き取るまでに一か月も痛みの中にいたと母から聞いた。
本人も辛いだろうが、別れを惜しみ続ける側も痛かろうと私は思う。
負け惜しみだとはわかってはいるが、それを思えばこそ。
斬首されるように終わってしまうのも慈悲なのかと。

終わってしまったものの死骸を手のひらで包んで悼む。
それを手のひらで包んだ私自身はまだ脈打っている。
息を吹けば生命は移るのだろうか。
命が千切れるほど叫べば、欠片が飛び散って
終わってしまったものはまた脈を取り戻すのだろうか。
もしくは声が枯れるほど啼けばそれに温度は戻るのか。

私の生は続いていく。
死んだもののかけらを宿して。
その温度差こそが私を生かすのだと思う。

悼む心で心が裂けようとも
魂に楔を宿し、けして消えぬ刺青となり
死んだものは私に命を課すのだろう。

歯を食いしばれ。
堕ちたのなら這い上がれ。
手足が千切れて動かぬとも
顎で地面をつかみ歯を折りながら
血の味を吐き出し這いすすめ。

思い出せ。
静止した死を胸に抱こうとも
お前の魂はまだ生きて脈動している。
凍るような死を抱きしめて
死に物狂いで前に進むのだ。
指輪のように全ては循環している。




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