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『スティルウォーター』と、人生を台無しにする瞬間

定番の展開を崩すストーリー

マット・デイモン主演のサスペンス映画。とても変わった作品で、めずらしいものを見たという満足感がありました。物語中盤になると、このストーリーがどこへ向かおうとしているのかあまりよくわからなくなってくるのですが、そこも含めて興味が尽きない。つねに不穏さがつきまとってきて息苦しいのが特徴です。映画における定番の展開を崩してくるのもおもしろかったし、苦い結末も印象に残りました。このようにゴツゴツとした感触の映画はあまりないかもしれません。

主人公のビル(マット・デイモン)は、オクラホマ州に住む労働者。石油掘削の作業員だった彼ですが、職を失い、いまは日雇いの肉体労働で糊口を凌いでいます。彼には娘のアリソン(アビゲイル・ブレスリン)がいるのですが、彼女はフランスの刑務所で服役中です。ビルは定期的にフランスへ行き、娘に会ったり、無罪を主張する彼女のために弁護士と相談をしながら、どうにか娘の無実を証明できないかと画策していました。フランスへ渡った彼は、泊まっていた宿で知り合った女性ヴィルジニー(カミーユ・コッタン)の助けを借りながら、娘を釈放するために必要な情報を集めるのでした。

マット・デイモン(ヒゲあり)

「行動がもたらす結果」に関する物語

ビルはアメリカの田舎に暮らす、保守的な白人労働者の典型です。家には銃を保持し、共和党を支持する無骨な男ですが、心優しく、良き人間になろうとする信心深さがあります。かつては麻薬や酒で身を持ち崩した経験もあり、さまざまな失敗を重ねた過去もある彼は、ほんらいであればオクラホマから出ずに人生を終えてもおかしくはなかったのですが、娘が刑務所に入るというアクシデントがきっかけでフランスという未知の土地へ踏み出し、新しい暮らしを始めます。娘は牢屋から出ることができず、ビルはフランスでも苦労するのですが、同時に、思いがけず開けた新しい世界はフレッシュな喜びに満ちています。ビルが次第にフランスの土地になじみ、周囲との関係性を築いていく過程を見ながら、「人生って不思議だな」という感慨にふけりました。

監督はこの映画を「行動がもたらす結果」に関する物語だと説明しています(劇場用パンフレット内記述)。原語でどう話したかは書かれていないのですが、おそらく consequences という言葉を使っているはずです。本作における行動はすべて結果として(より正確に言えば「報い」として)登場人物たちに跳ね返ってきます。娘を救うため、よかれと思って取った行動も、望まない結果を生んでしまう場合がある。いかなる選択も、何らかの結果として登場人物に返ってくるという描写が実に残酷ですし、実際に私たちは自分の人生を台無しにしてしまうような行動をすることが可能です。劇中、「人が人生を台無しにしてしまう瞬間」が収められているように思えて、見ながら震撼してしまったし、ものの10分あれば私たちは取り返しのつかない失敗ができてしまう。そのことを考えると実に落ち着かない気持ちにさせられるのでした。

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