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『エスター ファースト・キル』『シャザム!〜神々の怒り〜』

『エスター ファースト・キル』

『エスター』(2009)の続編で、位置付けとしては前日譚。ジャンルとしてはホラーになるが、同時にサスペンス的なテイストもある(主人公に何か特殊な能力があるわけではない)。実際は30歳だが、身長が伸びない体質から、子どものように見える女性、エスター(イザベル・ファーマン)。エストニアの精神科療養所に収容されていた彼女は、隙をみて脱出、そこからアメリカへ渡り、とある家の子どもとして暮らしていくことになるが……という物語だ。ビジュアル面でもキャラの立っている主人公エスター。アメリカでもたくさん人をあやめてくれるだろうかと期待に胸が高まった。

冒頭、療養所のシークエンスでは無敵の強さで脱出してみせたエスター。当然アメリカでも無双してくれるはずが、意外に苦戦するのがおもしろかった。あんなに強かったエスターが、思わぬ敵に対面して危うい立場に追い込まれる、という劇中での力のバランス変化がいい。なぜエスターは無双できなかったか。というのも、これまですべての人間を踏み台にし、利用してきたエスターが、初めて他者に対して愛着を覚えてしまったためなのだ。人を愛すると無敵ではなくなる。深い。アメリカの「家族」に対する過度の固執が見て取れるのもユニークだった。

『シャザム!〜神々の怒り〜』

スーパーマン、バットマンなどを擁する「DC」のキャラクター、シャザム。神様からすごい力を授かった少年が「シャザム」と合言葉を口にすると、スーパーパワーを持ったヒーローに変身できるようになるが、見た目がおじさんになってしまう、というコメディタッチの作品。迫りくる巨大な敵と戦うことになるが……という定番の展開で、さほど新鮮味はないのだが、とにかく楽しくて気分がいい作品。私は、ヒーロー映画は「見ていて気分がよくなること」が重要だと思っているので、好きな作品であった。同じ理由から、巷ではそこまで評判のよくない、マーベルの『アントマン&ワスプ:クアント・マニア』も応援している。楽しいんだから、それでいいじゃないか。

映画としての愛想がいい、観客に楽しさを振りまいている、という部分だけを取っても、ぐっと好感度が上がる。特にヒーロー映画は、この「愛想のよさ」が重要な気がしていて、それはヒーローという存在が、すべての人を分け隔てなく救ってくれるはずだという幻想で成立しているせいかもしれないと思う。観客を歓迎するフレンドリーな姿勢のある映画には、独特のチャーミングさが宿る。結果的に、プロットの雑さ(主人公が生き返っちゃうなら、もう何があってもOKにならない?)は気にならなくなることが多い。ユーモラスな場面が多いが、わけても、子どもたちが両親に自分たちの正体(実は変身できる)を説明する場面がよかった。

【この映画評を書いた私こと伊藤が、2月に出した本がありますので、ぜひ読んでください】

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