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『アダム&アダム』と、12歳の自分に会ったら何を伝えるべきか

SF・タイムトラベル・コメディ

Netflixで配信中の『アダム&アダム』(2022)は、2050年の未来から2022年の世界にタイムトラベルしてきた主人公を描いたSFコメディ映画です。主演はライアン・レイノルズ。監督のショーン・レヴィとは『フリーガイ』(2021)でもタッグを組んでおり、テンポのよい笑いと切ないドラマが味わえる楽しい作品です。これまでのタイムトラベル映画を冗談にしてみたり、どうしても破綻してしまう時間移動の論理をアラ探ししてみたりと、メタ的な視点の導入もうまい。何より「12歳の自分と一緒に行動する」というモチーフが秀逸で、誰もが自分に置き換えて考えてしまう場面の連続でした。

12歳のアダム(ウォーカー・スコーベル)は、学校でトラブルを起こして母親(ジェニファー・ガーナー)の手を焼かせる困った息子です。停学になった少年のアダムが家で留守番をしていると、自宅のガレージに不審者がいるのを発見。バットを持って男性に声をかけます。そこにいたのは、怪我をして腹部から流血している大人のアダム(ライアン・レイノルズ)でした。ふたりはお互いが同一人物であることを確かめます。大人のアダムは、未来から時間旅行をして2022年に戻ってきたのでした。理由を聞くと、本当には2018年に戻る予定だったが、タイムトラベルに失敗をして2022年に到着してしまったといいます。大人のアダムが乗ってきたタイムトラベル用の宇宙船が直るまで、アダムとアダムの生活が始まりました。

お父さん役はマーク・ラファロ

強くてニューゲーム

12歳の自分に会ったら何を伝えたいでしょうか。これが本作のテーマです。「もし12歳のときにこれがわかっていれば、自分の人生はずっとラクになっただろうな」と思うことが誰にでもあるはずです。自分はどういう性格で、何が得意なのか。家族や周囲の人たちとどう接すればいいか。何を頑張った方がよくて、何をがまんするべきではないか。別の可能性もあったはずですし、避けられた不幸もあるかもしれない。人生のなかで痛い思いをして学んだあれこれを、まだ無傷でつるんとした12歳の自分に伝えたいと思う人は多いでしょう。「高校の先生に専攻を英語にするのを止められたけど、英語の勉強を続けてもいい」と教えてあげたいし、「ホットドッグプレスに影響されすぎない方がいい」とも言っておきたい。他にも伝えたいことはいくらでもあります。劇中、大人のアダムがときおり見せる後悔が切なく、それは大人であれば誰もが共感してしまうものでしょう。

失われた家族の絆や、生きていくなかで積み上がっていく後悔の念。そうした感情をタイムトラベルというモチーフを使って成仏させつつ、すべてをからっとしたユーモアで笑い飛ばす姿勢が、ライアン・レイノルズとショーン・レヴィらしい陽性の物語につながっています。どの場面も会話の妙が光り、ひねりの効いたせりふの連打で観客を笑わせ続けます。そして何より、12歳の自分と接する物語は「自分を愛する」「みずからを肯定する」ことでもあると気付かされる展開には胸を打たれますし、そのポジティブな視点がすばらしいと感じました。

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