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『ジョン・ウィック:コンセクエンス』と、地獄めぐりの終わり

シリーズの完結

2014年に始まったシリーズの4作目にして、シリーズの完結にあたる作品が『ジョン・ウィック:コンセクエンス』です。キアヌ・リーブス扮する殺し屋ジョン・ウィックを主人公にした本シリーズは、ユニークな世界観とハイレベルなアクションを見せてくれる人気作品。一度は殺し屋を引退したものの、妻の死をきっかけに、ふたたび壮絶な殺し合いの世界、暴力に満ちた修羅の道へと舞い戻ってきた男、ジョン・ウィックが主人公です。およそ10年に渡るシリーズの締めくくりにふさわしい、無数のアイデアと工夫がつまった最高のアクション映画だと感じました。

1作目『ジョン・ウィック』冒頭、愛する妻を亡くす場面で、彼はすでに生きる目的を喪失しています。私たちが見ているのは、人生にいかなる目的も見いだせなくなった、虚無に満ちた男の姿です。さらには妻から託された愛犬を強盗に殺されてしまったことで、その虚無は決定的となり、主人公はまるで希死念慮を抱えた人物のように、恐るべき地獄めぐりへと突き進んでいきます。『ジョン・ウィック:コンセクエンス』は、主人公がようやく安住の地としての「死」へ到達するまでの過程を描きます。より戦いが激しくなるほど、彼の虚しさはたかまり、完全無欠の戦闘マシーンとして敵をなぎ倒しつつも、早く自分をこの牢獄から解放してほしいと願っているかのように見えます。彼はしだいに口数も少なくなっていき、誰かに何かを言われても、「イエァ……」と答えるだけの男となっていました。

「数字の多い方が勝つ」というシンプルルール

世界観の構築、斬新なアクション

私がもっとも魅了されたのは、この映画の世界だけに通用する「殺し屋界隈のルール」設定です。こうしたアイデアがなければ、「ジョン・ウィック」シリーズはヒットしなかったように思います。ルールはせりふで解説されるわけではなく、主人公たちの行動によって提示され、観客は「なるほど、この界隈はこんなルールで成り立っているのだな」とそのしきたりを推測します。殺し屋をとりまとめ、厳格なルールで仕切る「主席連合」なる組織があること。世界各地には「コンチネンタル・ホテル」と呼ばれる殺し屋のための宿があり、殺し屋の休息と情報交換の場となっており、そのホテル内では殺しを行っていけないこと(身の危険を感じた殺し屋はホテルに逃げ込みます)。殺し屋界隈でのみ流通する金貨があり、取引の際に使用されること。こうしたルールが説明的ではなく、ごく自然に描かれることで、観客はこの抽象世界を楽しむことができます。コンチネンタル・ホテルのコンシェルジュ、シャロン(ランス・レディック)の礼儀正しさなど、実にユーモラスで笑いを誘います。

作品に影響を与えた "The Hong Kong Massacre"

『コンセクエンス』最大の魅力は、新しいアイデアを無数に取り込んだ、斬新なアクションシーンの連続です。わけても、テレビゲーム「The Hong Kong Massacre」に触発されたという、見下ろし画面からの銃撃戦をカットを割らずに見せていく場面のみごとさには唸りました。このようなアクションシーンを見たことがありません。防弾スーツの性能が高い、という設定もアクションのバリエーションを増やすのに寄与しており、アクションと銃撃戦を組み合わせた独自の動きを楽しむことができます。そして何と言っても、クライマックス直前で描かれる、執拗なまでの階段落ち。階段を登る=ラストバトルへ挑む、という展開を盛り上げる階段の場面に、あられもなく興奮しました。169分という長尺が気にならないほど、アクションのバリエーションが豊富なのです。最終的には、この長い地獄めぐりを終えたジョン・ウィック最後の姿に納得させられる、明快なシリーズの締めくくりだと感じた『コンセクエンス』でした。

【ジョン・ウィックはスキンケアをすれば殺し合いをせずに済んだのではないか、そんなことを思っています】

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