肝転移の症状

先程の、今週カテをした3人の話の続きです。

肝臓って、一般的には

「沈黙の臓器」って言われています。

肝臓には原発性肝癌、転移性肝癌、肝炎、胆管炎、その他様々な
悪性疾患や良性疾患、炎症性疾患が起こります。

総じて言えることは、早期の肝臓の病気は症状が自覚出来ないことです。

肝臓に3センチの肝癌が出来ても
肝臓に5個の転移が生じても
本人は自覚できないことがほとんどです。
もしかしたら、腫瘍マーカーは上昇しているかもしれません。
しかし、マーカーの上がり方も人それぞれで、
がんの変化で鋭敏に上下する人もいれば
まったく動かない人もいます。
ですので、マーカーと症状だけ外来でみてたら
がんの本当の状態を把握できません。

ですので、抗癌剤治療をしてる人も、
根治的な手術をしてがんを取り切った人も
定期的に造影CTを撮影する必要があります。

さて、僕の患者さんたちがカテで逆に元気になる魔法の理由は?

肝転移の症状って、慢性的に、緩徐に、皆さんを苦しめているんです。

具体的には

倦怠感、食思不振、心窩部あたりの張り感、お腹が重い
これらが比較的早期の肝転移の症状です。
もともと沈黙の臓器ですので
症状を自覚されるってことは、そこそこがんは進行しています。
それが、ゆっくりと症状が出現し増悪すると
患者さんは、それが日常と自覚し
自分の体調はこんなもんだ、と思ってしまうんです。
ある日突然お腹が痛くなったら、さすがに皆さんもおかしいと思うと思うのですが、
肝転移のように、じわっと症状を出してくるときは
あれ?以前よりあまり長くあるけないな
食欲が最近ないな
最近身体が重くてお腹が張ってるけど太ったかな
こんな感じで、まさか肝転移が悪くなってるとは思わないわけです。

通常、肝転移は全身病です。肝転移がある方は
既に血液の中にがん細胞が浮いていると考えてください。
すなわち、他の臓器にも転移があってもおかしくない状態です。
だから、通常は全身的に薬物を投与します。
これが基本で、見えているところだけに着目した局所治療
カテも局所治療ですが
これを先に考えると、後で他の臓器に潜んでいるがんがどんどん再発してきて、局所治療でもし抗がん剤を先に中途半端に使っていると、全身的な効果が落ちてしまう(耐性化)ことも十分ありえます。
うちも、ですので、肝転移に対してカテをする場合は、

「有望な全身治療がない、切除が出来ない肝転移」

としています。

ここでいう有望な、って言葉は大切で、
保険上はまだ使える薬があったとしても、それはただ使えるだけで
効果が全く期待できないことが多々あります。
後半戦となるとかなりがんも悪性度が高く、同系統の薬に耐性化しているので、肝転移が縮小する確率は極めて低いでしょう。

大腸がんの後半戦の内服薬に関しても、肝転移が縮小する率は極めて低く、期待しないほうがいいでしょう
結果的に生存期間が1か月程度伸びるエビデンスはありますが、
そこにはいろんな患者さんが含まれたエビデンスであり
肝転移のせいで肝機能がかなり悪くなってる場合は、
のんびりしたこの手の薬剤ではあっというまに肝不全になります。

当科では、肺転移があっても肝臓が余命に一番影響する場合は、
まだ保険で使える薬剤と、うちのカテとどちらをするべきか十分に考慮して
カテを先行すべき場合はまずカテで肝転移を制御し、その後残された全身薬物療法に移行する場合もあります。

また話がぶっとんでましたが
結局、今週のカテをがんばった3人は、
実は皆さん、ご本人が自覚できないレベルで
肝転移の症状を持っていたのです。
倦怠感、食思不振、肝臓の腫脹
その状態が日常であって、特別なこととは理解できなくなっていたわけです。

一方、カテは、反応がいい人はキレが非常にいいです。
抗癌剤の副作用で多少倦怠感が出たとしても、
肝転移が急激にブレーキがかかることでの、腫瘍による倦怠感の改善の方が強く本人が自覚できる。その場合は、カテの翌日に
「先生、身体が軽くて調子がいいです、ありがとうございます!」
こうなります。
みなさん、カテの翌日も結構コンビニで好きなもの買って食べてます。
元気ですよ。

本当に全身状態が悪くて、車いすで緊急入院となった肝転移の患者さんも過去に何人もいましたが、このような患者さんを日常生活が出来るようにうまくカテを導入し繰り返すと、勝ったな、と自分をほめてます(笑)

ちなみに、現在カテをしている患者さんの多くが10回以上のベテランさんばかりです。皆さん、他の施設で有効な治療法がないと言われた肝転移の方ばかりです。

もちろん、せっかくカテを頑張って頂いても効かない人もいます。
がんの種類によっては、まったく太刀打ちできないこともあります。
その場合は、2-3回実施し、その経過でそれ以上継続しないほうがいいことをお伝えし中止しています。


こんな感じで、毎日ご自身の腫瘍マーカーで頭がいっぱいの毎日より
がん治療で元気になって、少しでもがんのことを考える時間が少なくなってほしいですね。


いろんな臓器に転移があっても、
命に関わる臓器転移は限られています。
肝転移、胸膜播種、腹膜播種などは命に直結します。
完全に全身化した場合の悪液質もそうです。
小さな肺転移が何十個あってもそれが直接の原因で亡くなることはほとんどありません。

どこの臓器を救えば、自分の命が長くなるのか
自分が楽になるのか

それは医療の素人や、そういうことを考えずに
機械的に抗がん剤を投与している先生方にはあまりわからないと思います。

興味のある方は、やはり話をしませんと適応になるかどうかわかりませんので、初診外来にお越しください。



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