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World Cancer Week2024リポート 【CancerX いのち】〜迷いを生きる - 主観と客観のジャグリング〜

2024年1月28日〜2月4日まで行われた、World Cancer Week 2024
このリポートは【CancerX いのち】について報告します


■開催概要

【日時】2024年2月3日(土)10:45〜11:45
【形式】オンライン
【登壇者】
勅使川原 真衣 氏 ( 組織開発コンサルタント)
村上 靖彦 氏( 大阪大学人間科学研究科教授 感染症総合教育研究拠点CiDER兼任 )
横山 太郎 氏 ( CancerX理事 / 医療法人社団晃徳会 横山医院在宅・緩和クリニック 院長 / 医療補助動画 / スマホセンター )
モデレーター:板橋 奈美 氏( CancerX / KDDI株式会社 )

セッション概要

「痛い」「つらい」「苦しい」……個人が抱える思い。感覚。
これにいつから「客観性」や「エビデンス」が必要になったのでしょうか。

また、未来のことは誰にもわからないでしょうが、だからと言って「エビデンスがないからわかりません」で会話を閉じず、なぜひとこと「わからないことが多いけれど、一緒に考えていこう」と言ってくれないのでしょうか。

主観と客観の行き来をしない人は恐らくいません。ですが、医療者も患者も、社会の少なくない人々が、どうその“我と汝“の大海原をおよぐべきか、迷っていると言えます。

CancerX いのち のセッションでは、これからの時代を自分らしく生きるために、個々の主観や客観的なデータとの向き合い方について、多様なメンバーとディスカッションを試みました。

■セッションサマリー

このセッションでは、がんを罹患した当事者、医療従事者、研究者のそれぞれの視点から、「迷いを生きる主観と客観のジャグリング」というテーマで語り合いました。

セッションは、「意思決定における主観と客観のバランス」「患者中心の医療の先にはなにがあるのか?」の二つの主題で展開されました。

セッションの模様

「意思決定における主観と客観のバランス」

セッションの中で「患者の主観も、医療者から提供される科学的根拠に基づいた客観的な情報も両方とも大事な情報である。ただ、患者の主観を話しているときに科学的根拠という客観的な情報で対話をするのではなく、患者が迷っていることを受け止めることも必要である」ことが挙げられました。

ディスカッションの中で、勅使川原さんは、自身の乳がん体験を踏まえ、医療者とのコミュニケーションにおける主観と客観のバランスの難しさについて語りました。また、村上さんは、看護師への聞き取り調査をもとに、患者が抱える迷いと、それを乗り越えるための方法について話しました。

勅使川原さんは、「逡巡することの価値を否定したり、その時間を生産性という言葉でなくしてしまうのは嫌だ」と話し、罹患してから本を書きはじめ、主観と客観どちらかに決めなければと思っていたが、結局「迷いながらしか生きていくことはできない」ということに気づかされたと話しました。

また、昨今の能力主義が重視される社会においては、個人の能力が過度に重視されることが多く生きづらさを抱える人が増えていること。これらの流れの中で組織は、個人の多様性を尊重し、能力以外の価値観も評価する必要があるという指摘もありました。

それを受けて、村上さんは、「能力主義じゃない(白黒つけることが正解ではない)ところに、大事なものがある」というのをヒアリングしながらみなさんに教えていただき、「小さな願い」を大事にしたいと話しました。

「患者中心の医療の先にはなにがあるのか?」

医療界では「患者中心」といっているが、介護者の高齢化や価値観の変化などから患者の想いを聞くがあまり、家族の離職や体調不良を許容できなくなってきている。『患者中心の先』があるのではないだろうか?また、これからは『場』が中心になるのではないかと問題提起がありました。

横山さんは、がんと向き合う時は、標準治療があるので「回答」からはじまっている。一方で、コロナ禍は未経験であったため「問い」からはじまった。「問い」からはじめたことで、医療者と患者の双方向性のコミュニケーションは、コロナ診療の方に生まれやすくなっていると話しました。

村上さんは、ヤングケアラーの聞き取りの際、貧困地域より普通の地域の方が困っていることに驚いた。それは相談できる『場』があるか、ということに気付かされたと話しました。

勅使川原さんは、「問いからはじまる/「回答」があるところから始まるの話は、”わからない”から始めるのか?”もうわかっている”との認識から始めるのか?という大きな違い。過信しすぎず、わからなさを泳ぐ感覚を大切にすることかもしれない。かつ、その道中は、支離滅裂さもあると思う。そこを許容しあう社会であってほしい、と訴えました。

セッションを通じて

生産性が求められることが多い現代において、ときには迷いながら生きる自分自身を受け入れ、相談する場を持ちながら生きていくことが大切と感じました。

全てのセッション内容はこちらへ


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