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B)朝。僕らは目を覚ます。それは何度も何度も繰り返されていること。1日1回、1年を365日、一生を80年として計算すると、生まれてから死ぬまでの間に29200回繰り返していることになる。飽きもせずに、僕らは同じことを繰り返す。何度も何度も繰り返す。

A)それは呪い。

B)それは祈り。

A)それは幻。

B)それは現実。

A)それは偽り。

B)それは真実。

A)それは悲しみ。

B)それは喜び。

A)それは苦しみ。

B)それは楽しみ。

A)分かっているでしょう。

B)いや、分からない。

A)何が分からないの。

B)分からない。

A)嘘つき。

B)それは君だよ。

A)偽善者。

B)それも君だ。……いや、偽悪者かな。君は逃げてる。

A)何から?

B)全てから。

A)逃げちゃ悪い?

B)悪いなんて言ってない。普通のことだ。

A)普通って何。

B)当たり前にあるもののこと。

A)当たり前?

B)だから気付かない。

A)……よく分からない。

B)分かろうとしていないだけ。

A)分かったようなことを。

B)分からないフリするよりマシじゃない?

A)さっきと逆のこと言ってる。

B)さっきって?

A)さっき分からないって言ったじゃない。

B)言ったよ。けど話が違う。

A)話って?

B)もう忘れたの?

A)何を?

B)……。君は、いつからここにいるの?

A)今来たばかりだけど。それがどうかしたの?

B)どうもしない。

A)嘘。

B)どうして。

A)何となく。……あなたはいつからここにいるの?

B)忘れた。

A)そう。

B)嘘だって言わないんだ?

A)だってずっと待っているような顔をしているもの。

B)そうか。

A)誰を待っているの? それとも、何を?

B)それは……。

救急車が近くを通り過ぎていく。

A)誰か死んだのかな。

B)死んでたら救急車はいらない。

A)もうすぐ死ぬかもしれない。

B)まだ生きてる。

A)もうすぐ死ぬ人間は、生きてるって言える?

B)人間はいつか必ず死ぬ。それは明日かもしれないし、何十年後かもしれない。でも、今日生きてることは確かだ。

A)それはいつ死ぬか分からないからでしょう。だから忘れていられる。もし分かってたとしたら……例えば、癌で余命が1ヶ月だと宣告されたら、それからの1ヶ月は本当に生きてるって言える?

B)もうすぐ死ぬからこそ、1日1日を大切に、充実した日々を過ごそうとは思わないのかな。それこそ生きてるってことじゃない? 死を意識することなく、ただ無意味に日々を過ごすよりはずっと。

A)あなたとは根本的に合わないみたいね。

B)まったくだ。……というところで一致する。

A)まったくね。

B)最近、どう?

A)変わらない。日常で、何かが変わることなんてそうそうない。

B)だけど全てが同じな訳じゃない。何かは少しずつ変わっている。

A)変わらない。人間のすることは、いつの時代も大して変わりない。

B)変わっているよ。知らない間に少しずつ、世の中は変わっている。歳もとっていく。洋服も、季節も、人もどんどん移り変わっていく。変わらないものはない。

A)たった一つ、確かなものがあればいいのに。

B)神は死んだ。

A)私は何処へ行けばいいの?

B)行きたいところへ行けばいい。

A)何を信じればいいの?

B)自分を。君は自由だ。

A)自由? 全然、自由なんかじゃない。

B)自由だよ。

A)私は何をすればいいの。

B)好きなことをすればいい。

A)私、何が好きなんだろう。

B)悩むこと?

A)ピアノが好きって言えば、育ちが良いと思われる。料理が好きって言えば、家庭的だと思われる。読書が好きって言えば、勉強家だと思われる。

B)打算?

A)分からないの。

B)何が?

A)……何だっけ。

B)もう忘れたの?

A)忘れた。何を。

B)疲れてる?

A)疲れてる?

B)取り憑かれてる?

A)何に?

B)運命に。

A)すべてはずっと前から決まっている。

B)それは悲しいこと?

A)嬉しいこと?

B)どうしてそう否定するの。

A)どうしてそう肯定できるの。

B)じゃあ。

A)どこ行くの。

B)どっか別の場所。

A)どこへ行っても同じよ。行った場所が“ここ”になる。

B)それって引き止めてる?

A)そんなつもりじゃ、

B)冗談だよ。

B、去る。

A) 分かってる。分かってた。だから終わりにしたのに、どうしてまたやって来るんだろう。まるで転んでも起き上がるダルマ、あるいは沈んでは昇る太陽。七転び八起きとはいうけれど、それでも繰り返されるとうんざりする。例え好きでも、同じ曲を何度も何度も聞くと飽きてくるように。私はもう、終わりにしたい。だけど終わらない。どうして? もう嫌なのに……。

B)眠りと目覚めは何度も何度も繰り返される。食事も朝・昼・夜と繰り返す。だけどそれに飽きることってあるのかな?そりゃ確かに、毎日、朝・昼・晩カップ麺だったら飽きるよ。でも飽きたから食べないなんて日は無いんだし、日常は習慣から生まれるものだよ。

A)聞いてたの。

B)聞こえてきたんだよ。

A)同じことじゃない。

B)ニュアンスが違う。

A)どっかへ行ったんじゃなかったの?

B)どこへ行っても“ここ”になるんじゃなかったっけ?

A)どこへ行ったの?

B)トイレ。

A)……そう。

B)君はここで何をしているの。

A)何も。

B)だったらどうしてここにいるの。

A)じゃあ、あなたはどうして生きているの?

B)……。

A)それと同じよ。

B)極論だね。

A)正論よ。だって“ここ”は“ここ”だもの。

B)どこへ行っても“そこ”が“ここ”になる、か。

A)違う?

B)君のいうことは間違ってないけれど、暴論だね。

A)分かりやすいでしょう。

B)大雑把過ぎるんだよ。

A)細か過ぎるのよ。

2人ほぼ同時に、

B)O型?

A)A型?

A・B)……。

A)合ってるけど。

B)合ってない。

A)何型?

B)不明型。

A)……。

B)本当だって。

A)献血行かなかったの?

B)行かなかったんじゃなくて、行けなかったんだよ。

A)どうして?

B)……。

A)怖かったんだ。

B)……悪い?

A)悪くない、悪くない。

B)君はないの? 怖いもの。

A)怖いものって言うより怖いこと、かな。

B)何。

A)教えない。

B)不公平だよ。

A)平等なんて幻想でしょう。

B)でもそれを理由にしちゃいけないよ。

A)個人情報保護法。

B)教えたら、教え返すのが普通だろう。名前とか。常識だよ?

A)常識も所詮共同幻想。日本では常識でも、外国では常識じゃないことなんていくらでもあるでしょう。所詮、色眼鏡でモノを見ているだけ。

B)カントだね。

A)カント?

B)知らない?

A)知ってる。

B)……。

A)勝った。

B)勝負してない。

A)負けるの嫌なんだ。

B)……。

A)分かった。図星の時は喋らないんだ。嘘を吐くぐらいなら黙ってる。

B)勝手に人の心を読まないでくれるかな。

A)だって分かるから。

B)分かっていても言わない方が良いってこともあるだろう。

A)知らない。

B)子供。

A)あなたが大人ぶってるだけ。

A・B)……。

A)何を待っているの?

B)教えない。

A)ケチ。

B)教えてくれたら教えてあげるよ。

A)教えない。

B)じゃあ教えない。

A)ケチ。

B)お互い様だろう。

A)意地っ張り。

B)どっちが。

A)どっちも。

B)……分かってやってるのか、分からないでやってるのか。

A)何が?

B)君はどこにいる?

A)私はここにいる。

B)……。

A)何が言いたかったの。

B)分からない。

A)嘘。

B)そうだね、分かっているんだ。だけど上手く言葉にならない。

A)そういうことってよくある。

B)意見の一致。

A)たまにはね。

B)……どっか行かない?

A)どこへ行っても“ここ”になるって言ったでしょう。

B)知ってる。

A)また同じことを繰り返すの?

B)覚えているの?

A)何を?

B)……何でもない。

A)そう。……神様っていると思う?

B)いると思う人にとってはいるし、いないと思う人にとってはいない。

A)曖昧ね。

B)君は信じてるの?

A)何を?

B)神様。

A)別に。あなたは?

B)僕が神様。

A)……。

B)冗談だよ。

A)一つ間違えば(頭がおかしい人)ね。

B)ははっ。

A)病院に行ったら?

B)“ここ”が病院だよ。

A)え?

B)どこへ行っても“ここ”になるなら、“ここ”が病院でもおかしくないよね。

A)……。

B)どうですか? 今日の調子は。

A)……眩しいの。眩しい太陽が、私の目を灼いて……くらくらする。

B)目を灼かれて、どんな感じがしますか?

A) 熱くて、痛くて、苦しくて、辛くて、泣きそうで、どうしようもなくて、逃げたくて、逃げられなくて、追い詰められて、どうにかなりそうで、どうにもならな くて、押し潰されそうなほどに、息が出来なくなるほどに、圧迫されて、逼迫しながら、責められるように、詰られるように、じりじり、じりじりと灼き尽くす。少しずつ、少しずつ、少しずつ、私の居場所はなくなっていく……。

B)大丈夫ですか?

A)大丈夫じゃありません。

B)どうすればいいですか?

A)分かりません。

B)何がしたいですか?

A)分からない。……あなた医者なんでしょう? 何でも知ってるんでしょう? だったらなんとかしてよ、

B)何でもは知りません。あなたはただ、病気なだけです。

A)病気って何。

B)普通ではないことです。

A)普通って何。

B)……。

A)私は病気じゃない。

B)病気です。

A)どこが?

B)苦しくはないのですか?

A)……。

B)治したくはありませんか?

A)治せるものなの?

B)もちろん。

A)無理よ。

B)そんなことはありません。

A)無理。

B)そんなこと、言わないで下さい。

A)どうして。

B)治るものも治らなくなります。

A)だったら最初から治らないのよ、私は治らない。

B)治す気がないだけでしょう。

A)苦しいのは嫌。

B)人間は、知らず知らずのうちに苦しみを求めてしまうこともあるんです。

A)どうしてあなたに私のことが分かるの?

B)医者だから。

A)医者だから。何でもお見通しって訳。

B)何でもは知りません。

A)さっきも聞いた。

B)そうですね。

A)治らない病気だってあるでしょう。

B)あなたがかかっているのは治せる病気です。

A)嘘。

B)嘘ではありません。

A)じゃあ嘘じゃないって証明してみせてよ。

B)では嘘だと証明してみせて下さい。

A)……。

B)あなたはただ、病気なだけです。

A)何回も言わないでよ。

B)治すこともできるんです。

A)分かったような口を利かないで。あなたに私の何が分かるって言うの!

B)分かりません。ただ、想像することならできます。

A)あなたは私じゃない。

B)ええ。

A)出て行って。

B、去る。

A)分かっているの……分かっていた。だから終わりにしたのに、どうしてまたやってくるんだろう。ぐるぐる、ぐるぐると同じことを繰り返す。コマが回り続けるように。地球が回り続けるように。太陽は再び昇り、じりじり、じりじりと私を押し潰そうとする、私の居場所を奪っていく……。(ぐったりとする)

B)(ノートを開いて読む)少女A、幻覚を見る。太陽が自分を押し潰そうとしていると訴え、直射日光を避ける。治療に対しては非協力的。

A)だって病気じゃないもの。

B)……起きていたんですか。

A)私はいつでも覚めている。いつまでこんなお芝居続ける気?

B)そうだね、そろそろ終わりにしようか。

A)嘘。“ここ”はどこなの?

B)それは君が決めることだよ。君はどこにいる?

A)私は“ここ”にいる。

B)“ここ”ってどこ?

A)私がいる場所。

B)そう。

A)あなたはどこにいるの。

B)僕はどこにでもいるよ。

A)役、逆の方が良かったかもね。

B)僕が患者?でも、君は医者になれないよ。

A)どうして。

B)(頭を指差して)ここの問題。

A)いつまでこんな話を続けるの。

B)さぁ。

A)そろそろ終わりにしたいんだけど。

B)どこへ行っても“ここ”になるんだろう?君は逃げられないよ。

A)あなたもね。

B)さて、そろそろ始めましょうか。

A)……。

B)君は、自分のことが好き?

A)嫌い。

B)他人のことは?

A)……。

B)何故。

A)……怖いから。

B)何が怖いの。

A)だって、みんな私のことが嫌いなんでしょう?

B)どうしてそう思うのかな。

A)私、邪魔でしょう? いらないでしょう?

B)そんなことはない。

A)嘘。

B)嘘じゃない。

A)嘘よ。

B)本当だ。

A)どうして? どうしてそんなことが言えるの。

B)好きだから。

A)……。

B)もっと自分のことを大切にして欲しい。

A)……。

B)それが始まりだった。

A)それが終わりだった。

B)出会った時から別れることは決まっている。

A)だったら、出会わなければ良かったのに。

B)生まれた時から死ぬことは決まっている。

A)だったら、生まれて来なければ良かったのに。

B)……。

A)何故、生きるの……。

B)君と出会えて良かったよ。

A)本当にそう思う?

B)……。

A)嘘は嫌い。

B)だけど、好きだと思ったことは嘘じゃない。

A)……。

B)幸せになって。

A)身勝手ね。

B)知ってる。

A)さよなら。

B)さよなら。

A)……そして、私はまた同じ場所に帰ってくる。

B)お帰り。

A)ただ今。

B)どうだった?

A)駄目だった。

B)もういいよ。

A)まだ駄目。

B)もういいんだ。

A)……。

B)頑張らなくても。

A)……。

B)君がいるだけで、僕はそれだけでいい。他に何もいらない。

A)……やめてよ。

B)どうして。

A)怖い。

B)怖くない。

A)怖い。

B)僕のこと、嫌い?

A)嫌いじゃないけど……。

B)他に好きな人がいるの?

A)いない。

B)だったらどうして?

A)……。

B)僕をこんな風にしたのは君なんだよ?

A)……。

B)責任とって。

A)何で。

B)そうじゃないと、不公平だよ。

A)やめて。

B)嫌だ。

A)やめてよ。

B)卑怯だ。

A)やめてったら。

B)……。

A)……放して。

B)愛してるんだよ。

A)勝手すぎる。

B)君も僕のことが好きだったんじゃないの? だから付き合ったんじゃないの?

A)……そんな昔のこと。

B)今だよ。今、君はどう思ってるの。

A)分からない。

B)分からないじゃ分からないよ。

A)だから分からないって言ってるでしょう。

B)いつまで逃げる気?

A)逃げてなんか、

B)逃げてるよ。だってその目、

A)私の目がどうかしたの。

B)怖がってる。

A)だから怖いって言ったじゃない。

B)どうして怖いの? 何が怖いの? 怖くなんかないよ。

A)イカれてる。

B)イカれてるのは君の方だよ。

A)多数決をとりましょう。(客席に向かって)私がイカれてると思う人? ……ほら。

B)待って。それじゃ、比較にならない。僕がイカれてると思う人? ……ほら!

A)止めなさいよ、戸惑ってるじゃない。

B)君が先に始めたんだろう?

A)先に始めたのはあなただった! もういい加減にしてよ。

B)それはこっちのセリフだよ。

A)もうどっちだって良いじゃない。終わりにしましょう。

B)君はやっぱり僕のことが嫌いなんだ。

A)そんなんじゃないって。

B)じゃあ好き?

A)……分からない。

B)ほら、またそうやって人を傷付けて。楽しい?

A)……。

B)楽しいでしょう?

A)楽しくない。

B)嘘だよ。

A)嘘じゃない。

B)だったらどうして笑ってるの?

A)(はっと口許を押さえる)

B)嘘つき。

A)(ぱっと駆け出す)

B)そうやって、また逃げるんだ?(笑っている)

場転。

B)ごめん。ごめんね……。

A)いいの。

B)ごめん……。

A)いいの。

B)僕が悪いんだ。

A)私が悪いの。早く決めなかったから……。もう終わりにしましょう。

B)見捨てるの?

A)……。

B)愛してるんだ。

A)だから?

B)僕を嫌いにならないで!

A)だったら私はどうすればいいっていうの!

B)見捨てないで……!

A)私はあなたを愛せない……愛することができない!

B)どうして!

A)ごめんなさい!

B)好きでもないのにこんなことしたの!?

A)ごめんなさい!

B)(手を振り上げる)

A)私を嫌いにならないで……!

B)……。

A)……。

B)……思い出したよ。

A)……そう。

B)同じだったね。

A)だから惹かれた。

B)だけど違った。

A)だから近付いた。

B)そうして同じことを繰り返す。何度も何度も繰り返す。

A)……呪いよ。

B)祈りだ。

A)終わりにしましょう。全部、なかったことにしましょう。

B)それは出来ない。時間の矢に逆らうことは出来ない。

A)でも、だけど……!

B)僕のこと、忘れないで。

A)……。

B)覚えていて欲しい。

A)……さよなら。

B)さよなら。

B、いなくなる。

A)……覚えてる。ずっとずっと覚えてる。忘れない。この身体に染み付いた言葉、香り、暖かさ。そして痛み。忘れない――嫌!

身体を引っ掻き出す。

A)忘れるの、忘れるの、忘れるの、忘れるの、全部なかったことにするの、全部なかったの、いらない、いらない、いらない、いらない……!

B、駆け付けて止めさせようとする。

A)嫌!触らないで!

B)止めなさい!!

A、ビクッとして自傷を止める。

B)どうしてこんなことをするんですか?

A)……忘れたいから。

B)傷は抉るものではありません。癒すものです。

A)これは罰なの。あの人を裏切った、私への罰なの。

B)止めなさい。

A)放っておいて。関係ないでしょう。

B)人は皆助けられねばならない。

A)偽善者!みんな私のことなんかどうでもいいと思ってるんだ、みんなにとって私はいらないんだ、いらない、いらない、いらない、いらない……!

B、Aを抱き締める。

A)(落ち着く)

B)あなたはもっと自分を大切にするべきです。自分に自信を持つべきです。けれど……あなたはそれが難しいのですね。だから嫌われないように、他人の顔色を伺って、自分に嘘を吐いて……辛かったでしょう。苦しかったでしょう。でもそれも、もうすぐ終わる……。

A)……。

B)おやすみなさい。

B、Aを横たえる。ナイフを取り出し弄ぶ。やがてAに突き立てるような動作をするが、寸前で止める。今度は自分の喉に向かって掲げる。じっと見つめる。目を閉じる。暫しの沈黙、やがて手を下ろす。Aに自分の来ていた白衣を被せる。

B)……おやすみ。

B、出ていく。

朝になる。A、目を覚ます。被せられている白衣に気付いて首を傾げる。本を見付け、パラパラとめくる。あるページでふっと止まる。

A)……全ての大いなる愛が求めるものは、愛ではない。それ以上のものだ。

B)ニーチェだよ。

A)これ、あなたの?

B)まあね。

A)……愛って何?

B)一緒にいること。

A)分からない。私はずっと独りだったから。

B)そう。

A)私はね、ずっと旅をしているの。ずっとずっと、長い間……。

B)いつから?

A)分からない。

B)いつまで?

A)分からない。

B)ねえ、君。名前は?

A)(満面の笑みを浮かべ)……○○!

2人はもう一度出逢う。そして別れる。すれ違い、行き違い、人は同じことを繰り返す。

幕。

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