木ノ葉ねい

一度筆を捨てましたが、もう一度筆をとります

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舞台と舞台裏はひっくり返る

命懸けで舞台に立っていた。スポットライトを浴びるとき、わたしは真に生きていた。死んだような日々のなかそれは確かな悦びだった。恍惚、陶酔、歓喜。いいようもないエクスタシーがそこにはあった。 舞台裏は劇より劇的だった。刺激に満ち、そのために負荷が大きく、死の一歩手前ということもあった。死んでもよかった。舞台で死ねるなら本望だった。けれど死ぬことはできなかった。その代わりに一生モノの傷を負った。 悲しかった。苦しかった。辛かった。けれどその後に、生きる喜びを知った。幸せを教えて

    • 帰宅

      影法師が歩いていくと、一軒の家がありました。 トン、トン、トン。 鍵は開きました。 扉は開きました。 けれど、そこには誰もいません。薄暗い廊下が奥へと伸びているだけです。 影法師は首を傾げました。はて、これは誰の家だろう。 答えが見あたらなかったので、中へ入ってみることにしました。 滞った埃っぽい空気が、家人の不在を告げます。 誰も住んでいないようです。 ポッポゥ。 鳩が鳴きました。時計は動いているようです。 けれどこれが何周目なのか、数える術はありません。

      • 色々なりたい

        俳優になりたい 色んなひとになりたい 本や映画、漫画やアニメの中のひとになりたい 着ぐるみの中のひとになりたい TVの中のひとになりたい たくさんのひとに褒められるひとになりたい 尊敬されるひとになりたい 真似されるひとになりたい 噂のひとになりたい 行方不明になりたい 幽霊になりたい 天国に行けるようなひとになりたい 努力ができるひとになりたい 馬鹿みたいな天才になりたい 神様になりたい 猫や植物になりたい 梅の木になりたい 北島マヤになりたい 風になりたい チリンと涼し気

        • おもいびと

          あなたがいるから わたしはひとりじゃいられなくて わたしはきょうも あなたのことをかんがえてる たいせつなひと だけどいってしまえば とけてしまいそうで だいすきなひと だけどいってしまえば うそになるきがして なにもいえなくなる だからどうかわたしに うそをいわせないで あなたはわたしの

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          0番の人

          その人は燃えていた。見えない炎の洗礼を受けていた。癒えない傷を抱えて泣いていた。生まれたばかりのような意識で、新しい世界を感じていた。その人が振り返った。すると世界は引っくり返った。裏返った人生は見たことのない景色だった。聞いたことのない言葉が聞こえてきた。その人は耳を澄ました。すべての事物はおしゃべりをしていた。すべてその人についての話だった。その人は最も高き者でありながら、最も低き者でもあった。すべてはその人だった。すべてはその人から生まれていた。すべてはその人のものだっ

          溺れている太陽

          やさしい掌が額を包み込む ちくりと刺す痛み 傷は血を流す 涙を流しはじめる瞳 震える瞼は夢を見ている その瞼を裂いて射し込む光 目映く眩暈するほどに強く 脳裏を灼いて激しく 鼓動を打ち鳴らし 崩れる身体 震える唇は夢を紡いでいる 唇を裂いて零れる言葉は鋭く 心臓を貫いて 呼吸を止めるほどの衝撃にシェイクされた脳 点滅する思考 眼差し 太陽が瞼に張り付いて消えない 掌は蝶となって瞼の上に止まった 震える指先は夢を描いている その指先から滴り落ちる血には命が宿っている 幻影は生き

          溺れている太陽

          神話

          セーラームーンでは、あなたはまもちゃん、わたしはうさこ。ドグラ・マグラでは、あなたはお兄様、わたしは妹にして妻。聖書では、あなたはアブラハム、わたしはサラ。青い鳥では、世界で一番不幸になっているから見つけて、と再会を約束したね。いろんな物語でわたしたちは恋人同士だった。地上の神話は、あなたとわたしの人生のパロディ。読めば思い出す記憶。書かれてしまった預言。決定稿の台本なの。わたしたちは婚約者。あなたは父で、わたしは母。あなたは先輩、わたしは後輩。噂話に耳を澄ませば、わたしたち

          ゆめかうつつ

          かいりしています どうりでわけがわからないはずです いみもわからないはずです ひらいするびしょう ついおくするみらい もうすこしこちらまで あとすこしかえれなくなるまで どこへもゆけないことがこんなにも なんてことを なんでここまで あとすこしでまたおぼれます おぼえていますかやくそくしたこと おぼつかずにたどたどしく せんをひかれてしまいました こえてしまいましょう ほら、われてしまいましたね かさなりあって ほどけあって これはなんとい

          ゆめかうつつ

          さんざめく

          記憶が降ってくる 貫かれて磔 どこへもゆけなくてもこちらに どこへもゆけないからそちらに ひらきなさい目の前で はなしなさい臆さずに 燦々と身に浴び 絶え絶え まだ夢の中にいらっしゃる かわいいひと 宛先不明の手紙、食べちゃったのでしょ 裏は読めまして?表も読めまして? 消えることはありませんので いかに隠すかを思案すればよいのでしょ なんて贅沢なのでせう なんて馳走なのでせう 罪、さあ、崩してまいりましょ まだ宙吊りなのですか なにか問題

          飾られた言葉

          机の上には書きかけの原稿があった。 「言葉とは文字通り、言語の葉っぱである。 ならば火をつけて燃やすことも、餅を包んで食べることもできるだろう」 台所へ行って、蛇口をひねってみた。 これで燃焼を止めることができる。 ポケットの中からライターを取り出し、火をつけた。 口の中に入れた。 「言葉とは文字通り、言語の葉っぱである。 葉っぱはそれだけでは役に立たないが、燃焼させることでエネルギーとなるだろう」 それが遺言となった。 「遺言とは文字通り、遺された言葉のことであ

          飾られた言葉

          追いかけるときには追いかけるものから逃げていて、きっと捕まえたときに捕まるのでしょう

          追いかけるときには追いかけるものから逃げていて、きっと捕まえたときに捕まるのでしょう

          おまえの悲嘆にはほとんど濁りがない

          おまえの悲嘆にはほとんど濁りがない

          死という楽しみについて

          死にたくなるのに明確な理由はない。ただ、何となく。窓から飛び降りたいとか、車の前に飛び出したいとか、遮断機が下りている踏切に入りたいとか、思う。それは好奇心に似ている。長いトンネルに薄っすらと射し込む光、それが死だ。光のないトンネルなら、歩くのはもっと大変だっただろう。トンネルの壁には美しい、幾何学的な紋様が描かれていて、それは動くのだけれど、触れるとそこから波紋が広がって、また新しい紋様を生み出していく。それが面白いから、もっと眺めていたいから、歩き続けている。死ぬ、という

          死という楽しみについて

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          掌握されてしまった。いえ、掌握していただいた。震える。泣いた。倒錯と陶酔とを滔々と注がれどこへもゆけなくなってしまうこれは こどくならここに ああいたい こころならここに ああいだい 逃げたいなら逃げな 逃がしてくれないんでしょ 逃げたくないんでしょ 、なんか食べる音って、ねえ なんで泣いてるの たぶん嬉しいの ならよかったね よかったのかな だって嬉しいんでしょ どうしようもなく逃げ道なんてどこにもなくしてしまってください ほんとどうしようもないねどうしてやろうか 死んじゃ

          さてはていかにしようかと

          言った言葉と言われた言葉と 返す返すし返し返し ね どこへもいけなくなった気分はどう? このまま ああこのままでいい もういいや もうたくさんなんだ もういっぱいいっぱいなんだ はきだしちゃえばいいんじゃないかな そんなことできるか おまえにできるのか くそったれ ああくやしいさ なんてのろいだちくしょう かんべんしてくれ ああ堪忍な なんて残忍な もう嫌になっちゃったの? まだまだこれからなのに これは このはこにはね あなたの死

          さてはていかにしようかと

          後悔なんてない(ふりをしているだけ)

          どこへもいけなくなって どこかへいきたくなって ないてしまうことさえ だからもういいんだよね だからもういいんだよね なくしてしまったもののことをかんがえるのは あげてしまったもののことをかんがえるのは あたまからっぽにしておがくずつめてみずにしずめて ほら また なあんにもみえなくなる かわいそうでかわいいひと どうしよう(どうしてやろうか) かくすばしょもなくなって みつかっちゃったね、ごめんね どうしようもなくなって なきくずれたって、ゆ

          後悔なんてない(ふりをしているだけ)