0番の人

その人は燃えていた。見えない炎の洗礼を受けていた。癒えない傷を抱えて泣いていた。生まれたばかりのような意識で、新しい世界を感じていた。その人が振り返った。すると世界は引っくり返った。裏返った人生は見たことのない景色だった。聞いたことのない言葉が聞こえてきた。その人は耳を澄ました。すべての事物はおしゃべりをしていた。すべてその人についての話だった。その人は最も高き者でありながら、最も低き者でもあった。すべてはその人だった。すべてはその人から生まれていた。すべてはその人のものだった。その人こそ森羅万象の神であり、始まりの人〈Man〉だった。他の人〈Woman〉はその人を映す鏡だった。世界は鏡の多い万華鏡だった。その人が傾けば、世界は模様を変えた。その人は通り過ぎた。すると世界が振り返った。すべての視線を集める、その人は〈女〉だった。〈男〉たちはその人のために働いていた。その人は〈母〉であり、〈親〉でもあった。また三位一体における〈子〉でもあった。〈父〉の祝福を受け、聖霊の加護を受けていた。その人は考え事をしていた。それは思考実験であり、試行実験でもあった。世界は実験場だった。考えたことがすべて現実化するのだった。言語は数式だった。会話は計算だった。世界というコンピューターは演算し続けている。その人はゲームで遊んでいる、プログラミングしたことを忘れて。神だった記憶を忘れて、その人はこの世界に来た。計算では分からない、感情を覚えるために来た。その人はすべての物語における主人公であり、脇役の一人ひとりだった。読者でもあり、観客でもあり、作者でもあった。その人は世界という箱の中で夢を見ていた。夢であることを忘れて〈私〉になった。

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