見出し画像

[イベントレポート]エンジニア組織に◯◯人の壁はない!?カンリー×Chatwork×ヌーラボが語る上場までの開発組織の落とし穴と、その対策

2023年8月24日に開催されたイベント「[カンリー×Chatwork×ヌーラボ]上場までの開発組織の落とし穴と、その対策」に、Chatwork株式会社 執行役員CTO(2023年8月24日時点)の春日 重俊さん、株式会社ヌーラボ 取締役兼サービス開発部長の馬場 保幸さん、そして株式会社カンリー 技術執行役員の長谷川 稜が登壇しました。

イベントのテーマは「上場までの開発組織の落とし穴」。
会社のフェーズに併せて目まぐるしく変化するエンジニア組織について再編や上場準備等を行っていく中で現れるさまざまな落とし穴を、シリーズBで大型の資金調達を行ったカンリーと、一年前に上場を果たしたヌーラボ、上場して4年が経つChatworkが実例を交えながらお話ししました。

本記事では、イベント内のトークセッションの様子を編集して掲載しています。

<プロフィール>

株式会社カンリー 技術執行役員 長谷川 稜
システム開発会社にて1年ほど正社員として、システム開発に従事。その後、アプリ広告 ASPの会社の立ち上げに1年ほど関わる。その後、フリーランスエンジニアとして4年ほど活動。2019年から株式会社カンリーにジョインし、初期のサービス立ち上げを経て、現在は30名ほどの開発チームを統括。

Chatwork株式会社 執行役員CTO(2023年8月24日時点) 春日 重俊
明治大学経営学部を卒業後、電通国際情報サービスに入社、大手企業の基幹会計システム導入の経験を積む。その後リクルートに入社、新規事業の業務に従事し、組織マネジメント・サービス企画・BPRなどに携わり、2016年1月にChatworkに開発本部長として入社。2020年7月に執行役員CTO兼開発本部長に就いた後、2023年3月に執行役員CTOに就任、2023年10月に、グループ全体の技術基盤となるインフラ・データ・AIの構築を推進する技術基盤戦略室室長に就任。

株式会社ヌーラボ 取締役兼サービス開発部長 馬場 保幸
2006年に株式会社ヌーラボへ入社。2013年から「Backlog」をはじめとするヌーラボのプロダクト開発に携わる。2020年9月より現職にて開発チームの統括を行う。

各社の組織変遷のおさらい

カンリー

2018年に創業し、GoogleビジネスプラットフォームやHP、各SNSの一括管理サービス「カンリー」を提供。
2020年から2023年にかけて、社員数が10名から70名、エンジニア組織は5名体制から30名体制へと急成長中。
コーポレートサイト

Chatwork

2000年に創業し、2011年にビジネスコミュニケーションツール「Chatwork」をローンチ。2019年にIPO(新規上場)。
2016年には30〜40名ほどの開発組織が、2023年現在では100名を超える規模まで成長。2023年からは、中小企業の生産性向上・DX推進を企図したBPaaS構想を掲げ、オンラインアシスタントサービス「Chatworkアシスタント」の提供を開始。各組織の生産性向上やコミュニケーション活性化に貢献している。
コーポレートサイト

ヌーラボ

2004年に創業し、2006年にBacklogをローンチ。その後Cacoo、Typetalkと複数サービスをローンチ。2022年にIPO(新規上場)。
2016年には30人に満たなかった開発組織が、2023年現在では約90人規模に成長。
コーポレートサイト

「◯◯人の壁」はない? 組織によって変わる課題と対策

- 早速最初のテーマですが、「◯◯人の壁」についてお聞きしたいです。
このテーマは長谷川さんからのリクエストなのですが、長谷川さん、補足いただけますか?

(長谷川)
カンリーは今、いわゆる30人の壁に直面しています。
以前は、私を含めてメンバーがそれぞれ一対一でコミュニケーションを取れていました。それが30人を超えてくると、マネジメント層とメンバーのコミュニケーションの総量が減ってきたり、それによって組織全体の生産性が下がってしまうことを危惧しています。

「◯◯人の壁」のような組織拡大のタイミングで、Chatworkさんやヌーラボさんがどんな取り組みをされているのかお聞きしてみたいです。

(春日)
30人や50人の体制のタイミングでは二階層組織(本部→部)がある程度機能したフェーズだったので、大きな壁を感じることなく組織拡大できました。
Chatworkの時系列でいうと、私が着任した2016年当時はCTOがワントップで全部を見ていて、その後「開発本部」が生まれ、二階層(本部→部)の組織構造になりました。
2019年に上場するまでは30〜50人ぐらいの開発組織でしたが、この本部体制のままでしたね。

(馬場)
ヌーラボでも特に30人や50人の壁は感じなかったです。組織的な動きとしては、30人を過ぎた頃から評価などの人事領域で属人的な業務をなくしていきましたが、明確な壁というものはありませんでした。

(春日)
私が考えているのは、「〇〇人の壁」という言葉に縛られず、前提をクリアにすることで適切な対処が見えていくということです。

例えばChatworkの場合、ビジネスチャット「Chatwork」を軸に成長を続け、開発組織が100人くらいまで拡大しました。
一方で、カンリーさんのように複数プロダクトを展開されていると管理形態が全然違うでしょう。
なので、組織管理のケイパビリティによって壁の有無やタイミングは違うんだと思っています。

(馬場)
僕もほぼ同じ意見ですね。どんな組織、何をやるための組織なのかによってどんな準備をするかが変わってくると思います。
一般的な対策よりも、組織拡大にあたって感じた壁の原因、課題をどうやって明確にしていくかということが大切だと考えています。

- コミュニケーションにフォーカスすると、何か対策はされたんですか?

(馬場)
「できるだけ情報の透明性を保つ」ということは大事にしています。
チャットやBacklogの課題など、誰でもさまざまな情報にアクセスできる状態を作っています。

もう一つ面白い施策としては、2023年から出張予算、会社のイベントを増やして、メンバー同士がオフラインで会う機会を増やしています。
ヌーラボは新型コロナ以前からリモートワークに慣れている組織ではあったのですが、やはりフルリモートワークでの弊害もありました。メンバー同士が直接会って人となりを知ることで、テキストコミュニケーションの捉え方も変わっていっているように感じています。

(長谷川)
カンリーも地方在住のメンバーが3割くらいのリモートワーク主体の組織ですが、テキストでのコミュニケーションだけだと違和感を感じることがあります。
Discordで気軽に会話できる体制を作ったり、ヌーラボさんと同じように会社のイベントを開催して直接会う機会を作っていますね。

(春日)
Chatworkもオフラインコミュニケーションの機会を設けています。
やっぱり人間がWeb画面上で感受できる情報には限界があると感じていて、「オンラインでできること/できないこと」を理解した上で、適切なツールや手法を選んでいく重要性を感じていますね。

- お話を聞いていると、基本はリモートワークで、コミュニケーションのために、オフラインの場を設けるというスタイルが今のところベストという考えでしょうか?

(春日)
全ての業務を出社して行う必要はないと考えていますが不確定要素が多いプロジェクトを進める時など、オフラインだから得られる情報量を活かしていく必要を感じていますね。

上場準備で変えたこと、変えなかったこと

- 上場準備で開発組織として行ったことをお聞きしたいです。技術負債やセキュリティの話をよく聞く印象ですが、Chatworkさんはいかがですか?

(春日)
上場も通過過程でしかないので、貴重なエンジニアリソースを効率よく利用しつつ、健全にアウトカムを最大化するか、それを常にやり続けていくということはずっと大事にしてきました。

強いて挙げるなら、コスト削減への注力という対応がありました。
Chatworkでは、サービスの急成長に併せて一気に複数の開発を行った影響もあり、システム構造の刷新が必要でした。
以前にログミーの記事でも書かれていましたが、一時期はサーバコストだけで原価率が60%まで上がってしまったこともあったくらい、コストの問題は大きいものでした。

上場を目指すにあたり、コストを下げないとビジネスモデルが成り立たなくなってしまう、そのためこの改善には注力しましたね。

(馬場)
ヌーラボは社内のルールがあまりない自由文化を持つ会社でした。しかし、上場を視野に入れる中で、統制を強化し、ルールを明文化する必要性が増してきました。上場とは別ところでセキュリティの強化の必要性が増してきており、セキュリティの専門チームを設立していました。このチームは、統制の強化にともなうルールの作成や社内教育にも取り組んでくれました。
一方で、上場に向けた統制の強化が進む中で、社内の文化が変わる可能性を考慮していました。ここで、ヌーラボが以前から設けていた部署を横断した文化を発信するためのチームが役立ちました。彼らは、ヌーラボが大切にしている「周りを巻き込む」などの文化を維持する努力をし、さらに社内コミュニケーションなどの課題解決にも取り組んでくれました。

- カンリーでも上場や組織拡大に向けて対策はもう進めているんですか?

(長谷川)
上場に関して具体的な話ができる段階ではないですが、組織拡大に向けてセキュリティ対策も担うSREチームを新設しました。

プロダクトの初期フェーズでは、セキュリティ対策は後手に回ることが多いと思います。
実際にカンリーもそうだったんですが、最近のサービス成長ペースを考えると、ここで手を打たないと1年後、2年後に更に大きな課題になると考えて組織設計をしました。

スタートアップの成長スピードを考えると、課題が顕在化してから対応してもどうしても対策が後手に回ってしまいます。これから起こり得る課題を想定しながら先手を打っていく、それが大事だと思って取り組んでいます。

(春日)
上場とは直接関係ないですが、提供しているプロダクトの性質上Chatworkは「通信事業者」になるので、戦略的にセキュリティ強化に取り組んでいます。

セキュリティ領域は変化が激しいので、昔の認識のまま進めてしまうと事業継続性の命とりになってしまうことにもなりかねないです。私自身も常にキャッチアップしていく必要があるトレンドの一つだと思っていますね。

エンジニアリングマネージャーの役割、そして採用の難しさについて

- 組織拡大において、エンジニアリングマネージャーの重要性をよく聞くのですが、みなさんもそう実感することはありましたか?

(春日)
重要性もそうですが、難しさも実感しました。
以前に、メンバーからマネージャーを抜擢したんですが、本人にとって重荷になってしまったことがありました。

抜擢すること自体は問題ではないんですが、組織のファンクションの成熟度合いやフェーズによってメンバーを抜擢するか、社外から採用するべきかは変わってくるのではないかと考えています。

- 抜擢してもポテンシャルを発揮できなかった、という場合、日本ではキャリアダウンとして受け入れづらい雰囲気があると思っています。個人的には、マネージャーでもメンバーでも、役割が変わるだけだと思いますが……

(春日)
おっしゃるとおりですね。
結局は、会社にどうやって貢献するかということが本質的な問いだと思っています。

(馬場)
ヌーラボでもキャリアダウンについては気をつけています。役割が変わるだけでも、転職の時などはマイナスのイメージがついてしまうことが多いですから。

その対策として、ヌーラボでは「キャリア証明書」という制度を作っています。
これまでに10名以上に対して発行しています。こういう人に寄り添う施策もヌーラボらしさなのかなと思いますね。

- 素敵な制度ですね!話がそれてしまいましたが、本筋に戻して……カンリーではエンジニアリングマネージャーの役割の難しさは感じましたか?

(長谷川)
大いに感じています。
これは私の失敗談なのですが、私がCTOだった時に、エンジニアリングマネージャーを介さずにメンバーとコミュニケーションを取って課題を解決してしまったことがありました。
課題解決できたこと自体は良いことですが、マネージャーの権限を侵したり、役割を無下にしてしまうことで、ボトムアップな体制とは真逆になりかねない失敗でした。

手や口を出す部分を考えて、エンジニアリングマネージャーとCTOの棲み分けを行う、それを行っていかないといつまで経ってもスケールしない組織のままだと感じましたね。

あと、役割とは関係ない話ですが、エンジニアリングマネージャーの採用は難しいと日々実感していますね。

(馬場)
難しいですよね。ヌーラボでもようやくエンジニアリングマネージャーを採用できたんですが、3月ぐらいから採用活動を開始して、ようやく10月に入社できるぐらいのリードタイムです。
皆さんはどうですか?

(春日)
Chatworkでも去年、エンジニアリングマネージャーの採用施策を進めたのですが苦戦しています。
エンジニアリングマネージャーの採用で難しいと思っているのは、求めるスキルや素養が一般化されていないことだと思っています。
Chatworkでは全メンバーで採用活動をしているので、それぞれの判断がぶれないように認識を揃えることが重要だと思って取り組んでいます。

(長谷川)
カンリーでも、他のエンジニア職種と比べると苦戦していますね。
仮に良い人に巡り会えても、現職で責任を持っているはずなのですぐには転職しないという問題もあるように感じています。

なるべく普段から接点を持って、良いタイミングを逃さずに採用に繋げられるような取り組みが必要だと常々感じていますね。
エンジニアリングマネージャーの採用は、カンリーの開発組織にとって非常に重要だと捉えています。

- やはり組織拡大へのエンジニアリングマネージャーの貢献は大きいですよね

(長谷川)
採用もそうですし、どのように貢献してもらうか、そのためにエンジニアリングマネージャーの役割をきちんと定義していくことが重要だと思っています。

おわりに

「◯◯人の壁」「上場準備」「エンジニアリングマネージャー」トークセッションで取り上げたこれら3つのテーマに共通していることは「自社にあった課題・対策をしっかりと見つけること」でした。

起きている問題に目を向け、これから起こり得る問題に頭を巡らせながら、型にこだわりすぎずに自社に合った解決策を実直に進めていくことが、組織拡大の成功の鍵なのかもしれません。

カンリーでは、今後もエンジニア向けの組織や技術に関連したイベントを開催します。
connpassページSNSで告知いたしますので、気になるイベントがあればぜひご参加ください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?