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「優しい」と「甘い」は何が違うんだろう

先日後輩と話をしていた時に不意に出た言葉。「僕はそれは『優しさ』ではなく『甘い』だけだと思うなあ」、という言葉。その後輩の好意に対して言ったのではなく、後輩的に「この先輩のこの行動で困っている」という相談をされたことに対する返答です。この真意についてちゃんと考えて整理したいなあと思ったので備忘録。

早速脱線しますが、僕は幼少期に「テイルズオブシンフォニア」というゲームに鬼のようにやっていました。これで漢字や英語を学んだと言っても過言ではありません。今ゲーム内の魔法や技名はいまだに覚えています。なんなら魔法の詠唱 (発動のための長ーいおまじない)もまだまだ言えます。厨二病って素晴らしいですね。

「テイルズオブシンフォニア」というゲームの中の終盤。仲間とともにラスボスの砦に入った主人公ロイドは、罠にかかってしまい身動きが取れないプレセアを見捨てることができず、崩れ去る建物の中で途方にくれます。そんなロイドに対してプレセアがセリフ。

ロイドさんは、優しい人です。
でも、優しさにまどわされて判断をあやまるなら…ただの甘い人です。
あなたには・・・やるべきことがあるはずです。
それを忘れないでください。

なんと考えさせられる言葉なんでしょうか。「優しさ」とはなんだろうかと問いかけてきています。

ロイドにとって「プレセアを見捨てない」というのが反射的に行動に出てきた「優しさ」でした。ただ、それはプレセアの言うように「優しさに惑わされ誤った判断」のように捉えられます。なぜなら、ここでプレセアを見捨てずにいてしまうと、ロイドも共倒れすることになり、ラスボスを倒せずに世界を救うことができなくなってしまうからです。


「優しさ」と「甘さ」の違い。それは「誰への優しさか」なのかもしれません。

つまり、「ロイドが考える優しさ」は、もっとも身近で距離の近い「プレセアを救う」ということ、あるいは「プレセアと共倒れすること」。前者はすでに実現ができないので、後者一択になります。その優しさは「"ロイドが考えた"プレセアのための優しさ」になっています。

しかし実際はプレセアは共倒れなんて望んでいませんよね。いや、もしかしたら死の運命にいる自分を見て寂しい気持ちになっているのかもしれません。ただ、本当の願いは「私の代わりに生き残って世界を救ってほしい」ということ。

この、「プレセアの本当の願い」を、ロイドの"無駄な"優しさで歪めるんじゃねえよ!とプレセアは言っているのではないでしょうか。勘違いした優しさは「甘さ」だ、本当に優しいなら私の代わりに生き残ってよ!と言っているのでしょう。


ではなぜ、この時ロイドは「甘い」判断をしてしまったか。それは、相反する「優しさの選択肢」が突然出てきてしまったからですよね。つまり、「プレセアと共倒れする」ことと、「生き残って世界を救う (というプレセアの真の願い)」とが天秤にかけられたわけです。私情のために死ぬか、世界のために生きるか。

人間の性として、手に届くものを救いたいという心情が働きますよね。それは「知らない人より友人を」という物理的距離の近さもそうですし、「来年もらうお金よりは今もらえるお金」という時間的距離もそうでしょう。どんなに優れた大義を持っていたとしても、それを揺さぶられない強さを持つ難しさは尋常じゃありません。

作中では結果的にプレセアは生き残るのですが、もし万が一彼女が死んでしまったら。世界が救われたとしてもロイドはきっと「これで良かったのか」と悩み続けるに違いありません。果たして大義を果たすことがよかったのか。世界の幸せが、個人の幸せに一致しないとき、幸せとは何かが問われそうです。


こう書いた時に思い出したのが、「鬼滅の刃」の有名なセリフ、「判断が遅い」でした。鱗滝先生が「妹が鬼になり人間を喰った時どうするか」と炭次郎に問うた時に、黙ってしまった炭次郎を叱責する言葉。

これも同じように解釈できそうです。鱗滝先生に「妹が鬼になり人間を喰った時どうするか」に問われた時に、炭次郎の優しさのベクトルは一瞬でも「妹」に向き、「どうしよう」と悩みます。

理屈では「鬼は切るべき」という大義は持っているはず。それが一瞬揺らぐのは、それの対象が「妹」だからですよね。大義を果たすために、身近な何かを失わないといけない時、人は揺らぎます。まさに先述のプレセアの例と同じ構図でしょう。


日常生活でもこういう場面ってあるでしょうか。例えば悪事の告発といった「道理としてはいいことをしている (大義)」が、「身近な人たちの職を失う 」というのも同じ種類の葛藤なのかもしれません。

こう考えると、「大義を持つこと」っていいことなんですかね。とても立派な響きがしますが、なんだか人を苦しめるきっかけになるものだよなあと。この辺りはもっと深掘りができそうですね。

(11記事/100記事、2005文字)




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