見出し画像

350 マタギの里を貫き走るローカル線・秋田内陸縦貫鉄道


秋田県の内陸部、角館に来ています。
桜並木の美しいこの街から県北の鷹巣(たかのす)に向かって、秋田県の山間部を抜けて走るローカル線があります。

それは秋田内陸縦貫鉄道。今は「スマイルレール秋田内陸線」という愛称ですが、なぜかAppleのマップではかつて使われていた「あきた♡美人ライン」という愛称が出てくる94.2キロの第三セクター路線です。国鉄鷹角(ようかく)線として建設が進められ、南側、角館駅から松葉駅までが国鉄角館線、北側の鷹巣駅から比立内駅までが国鉄阿仁合線として部分開業して運転されていましたが、両線とも昭和61年に廃止。秋田内陸縦貫鉄道が継承したのち平成元年に29キロの未成線を繋いで全線開業したものです。

今回は15:33に角館駅を出発する鷹巣行きの普通列車に乗車します。鷹巣駅着は18:15。途中で日が暮れてしまいますが、できる限り車窓を楽しみましょう。

角館駅で秋田弁で歓迎されました。2時間40分のローカル線の旅の始まりです。

乗客は私を入れて4名ほど。私が乗車したのは金曜日だったんですが、沿線に学校がないのかローカル線のお得意様である学生が乗っておらず、この路線の厳しい経営環境をいきなり目の当たりにするところとなりました。

角館駅を抜ければすぐに一面田園風景となります。沈みつつある太陽からの陽光が雲から漏れて何とも幻想的です。

八津を過ぎたころから地面に残雪が見られるようになりました。今年は12月になってもまだまだ暖かいですがさすがに北国の山間部は雪に包まれ始めようとしています。

かつての角館線の終着駅、松葉駅に到着しました。終着駅なのに周囲に民家がほぼないのに驚かされます。駅の周囲は赤蕎麦とよばれる蕎麦が栽培されており、花の季節は真っ赤な花が咲き乱れてとてもきれいだそうです。

ここからは秋田内陸縦貫鉄道が開通させた区間となります。徐々に山が迫るようになってきました。

南側はおおむねこの桧木内川に沿って走りますが鉄路は途中何度も川を渡ります。コストをかけながら橋を架けてまでも鉄道を通した地域の方の熱意を感じずにはいられません。

かなり雪深い地域に入ってきました。「阿仁マタギ」というちょっと変わった名前の駅に到着します。マタギは「又鬼」の字があてられ「狩猟を専業とする者」を指します。全国にマタギはいますが中でも有名なのがこの阿仁地域に住むマタギ。人も自然界に生きる生物の一つに過ぎす、獲物は自然からの授かり物だという価値観のもと、無駄な殺生はせず生きるのに必要な分しか狩猟は行わなかったといいます。今は狩猟だけでは生活できず、真の意味でのマタギはほぼいなくなり、マタギの暮らしぶりなどを伝える資料館がその歴史を今に伝えています。

日も暮れて車窓が暗くなってきました。列車は笑内駅に到着しました。「おかしない」というなかなかユニークな名前が印象的であるとともに、北海道の駅のような名前の響きの駅ですが、その予想通り語源はアイヌ語の「オ・カシ・ナイ」。「川下に小屋のある川」の意味をもちます。先の「マタギ」の語源も、阿仁の地名の語源もアイヌ語という説があり、古くはアイヌが多く住んでいた地域です。

周囲が暗くなってしまい車窓が見られなくなってしまいましたので車内を探検します。比立内駅ですべての乗客が降りてしまい、笑内駅あたりでは乗客は私だけになってしまいました。

実はシートの柄、秋田犬です。

ここにもそこにも、秋田犬の写真が飾られた列車でした。

17:00、列車は沿線最大の駅、阿仁合駅に到着しました。阿仁合はかつて銀や銅を産出した阿仁鉱山で栄えた街です。ここで19分停車するので休憩がてら駅前をぶらつきます。が、暗いですしそれ以上に寒くてすぐに駅内に戻りました。

もう営業が終わってしまいましたが、地域の中心駅らしく土産物店やレストランも併設されています。今度は営業時間内に訪ねたいですね。

内陸線応援社員を募集していました。この駅に「出社」したらタイムカードが押せるというユニークな取り組みです。タイムカードっていうのが懐かしいです。

寒空の中出発を待つ列車。さて、終点までもうひとっ走りです。

3駅先にまた立派な建物の駅がありました。阿仁前田温泉駅です。「クウィンス森吉」という温泉旅館が併設されており、今回ここでの宿泊や日帰り入浴も検討しましたが旅程を鑑みて断念。さっきの阿仁合駅への再訪も含めてこの地域はまたリベンジ訪問したいです。


その後やや乗客を増やして18:15に終点、鷹巣駅に到着。ここはJR奥羽本線との接続駅で、乗客は接続列車に向かって足早に去っていきました。

下校時間にあたるはずなんですが、この列車に乗っている間ローカル線の主役であるはずの学生が一人も乗ってこなかったのが気になりました。各地でローカル線の窮状を訴える報道が絶えませんがここも例外ではないと思います。小京都角館やマタギの里阿仁地区、その周辺には温泉施設もあります。秋田内陸縦貫鉄道を可能な限り使って地域輸送の足として末永く活躍できるよう、応援したいと思いました。


サポートいただけたら小躍りして喜びます! 今後一層フットワーク軽く旅先に向かい、情報提供に努めたいと思います。 よろしくお願いいたします!