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バレエ感想「ジゼル」K-BALLET TOKYO 3/16初日


3月16日Kバレエのジゼル初日を見ました。主演はジュリアン・マッケイと岩井優花さんです。

①印象に残ったダンサー3名

ジュリアン・マッケイのアルブレヒト像は「愛すべきバカ」というのか「お人好しで、世間知らずで、性善説の世界に生きているボンボン」という感じでした。ジゼルが死んでしまった時は取り乱して大騒ぎしますが、後悔というよりは、自分が予期していなかったこと(可愛いジゼルちゃんの死)が起きてしまい、現実を受け入れることが出来ずにパニックになっている子どものように見えました。
2幕でもジゼルを失った後悔や悲しみというよりは、「僕をこれ以上いじめないで😭」と泣き叫んでいるだけに見え、本当に子供のような生粋のボンボンを演じていると感じました。普通ならこのような軽いアルブレヒト像は、特に女性から反感を買うと思いますが、高身長で抜群のルックスなので嫌になることはなく、ハンサムの威力は本当に凄いと思いました。

2人目はヒラリオンを演じた石橋奨也さんで、ものすごく下品で粗暴で野蛮な様子で、誰が見てもジゼルがアルブレヒトを選ぶことを納得させてくれる役作りでした。ジゼルが死んでしまった後に泣きながらナイフを喉元に突きつけて後追い自殺をしようとする様は、さながらDV男が彼女に暴力を振るった後に大泣きする姿にも見え、色々と強烈で印象的でした。

3人目はある美女で、自然なマイムがとても印象的でした。1幕ではラブラブのジゼルとアルブレヒトを見て「あの2人付き合ってるんだね」と周りに話しかけているようで、ジゼルの母がウィリの話をしている際は「死ぬなんて怖い。ウィリ怖い」とブルブル寒気を感じている様子が伝わってきました。
2幕ではウィリ役として出演されていましたが、第4アラベスクのポジションに腕を持ってきている時は、首の角度など相当工夫し、どうポーズすればお客さんから綺麗に見えるか、その方がかなり研究されたのがよく伝わってきました。ロシアのバレリーナのような美しさも感じさせてくれる彼女の主演舞台をいつか見たいです。

②今回の舞台で気になったこと

Kバレエ独自の演出である可能性も高いのですが、2幕の照明がとにかく明るくて、夜の墓場というよりも、まるで昼間の水中のように見えたことが気になりました。照明の色合いのせいか、ウィリ役のダンサー達の顔と体の色が全然違っており、顔だけ真っ白で、まるでメキシコの死者の日のように顔だけ骸骨のような化粧しているように見えました。
ただし、これは演出の可能性もあるかと思います。ダンサー達の顔だけが浮いて異質かつ人間離れして見えたので、これがKバレエ独自の見せ方なのかもしれません。

以前ネザーランドダンスシアター照明チーフの久松さんがジゼルの照明についてお話しされていましたが、Kバレエの照明もヨーロッパに近い緑をベースに使っているように見えました。私は日本の青味が強い暗い色合いのジゼルを見慣れていたので、Kバレエのジゼルは以前見たロイヤルバレエ団の舞台並みに明るかったため印象に残りました。

③お墓、その他

2幕は横浜の外人墓地みたいで、門が壊れていて、人気のなさを表現していると思いました。
面白いと思ったのが、ミルタもジゼルもお墓から起き上がるように出てくるのですが、ミルタの墓は立派な石造りです。それに対してジゼルのお墓は隅にあり、粗末な木の十字架のみです。お墓の豪華さからしてミルタはお金持ちの家系だったのでしょう。世の中金持ちが強いですが、生前のヒエラルキーは死後も存続するのかと感じました。
というか、ジゼルが死んだのはアルブレヒトのせいなんだから、反省してるならアルブレヒトは墓代くらい出してやれよと思ってしまいました。そこまで気が回らないあたり、やっぱりKのアルブレヒトはボンボン路線の演出なんだなと納得しました。

1幕ではジゼルや村人達の秋の落ち葉のような色合いの衣装が本当に美しかったです。舞台セットも豪華で、1幕では秋の収穫の時期の小麦畑のような背景が広がっており、木の橋などもあって本当に村にいるような気分になりました。
ジゼルの家も、アルブレヒトの家もどちらも粗末な木造ですが、ジゼルの家はよく手入れされており、花もあって可愛らしかったです。対するアルブレヒトの家は掘立て小屋のようなボロさですが、彼はそこには住まないので綺麗にしようという意識はないということを感じさせてくれました。

最後にオーケストラがとても良くて、特に1幕のジゼルのバリエーションのバイオリンがとても軽やかで美しかったことが印象に残っています。オーケストラの素晴らしさに心を打たれた観客は他にも沢山いたみたいで、カーテンコールではオーケストラへの拍手はこの日1番の爆音でした。
ラストで熊川哲也さんが出てきた時の拍手も凄く、Kバレエ1の人気者は今も昔も熊川さんなんだなとしみじみ。これだけ沢山の人に熊川さんは愛されているんだなと思いました。

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