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【ケアまち座談会vol.1】「アートと社会的処方の交差点」開催レポート

2023年6月19日21:00-22:00、【ケアまち座談会vol.1】「アートと社会的処方の交差点」をオンラインで開催しました!

ケアまち実験室は、"ケアとまちづくり”の実践者やそれを体験したい人が、スキルや知恵を持ち寄り、深めていくオンラインコミュニティです。
vol.1の前半では、可児市文化創造センターalaの栗田康弘さんをお呼びして、alaで行われるアートを通じた社会的処方の取り組みをご紹介いただきました。続く後半では、アートと社会的処方の交差点について対話を深めていきました。

【登壇】栗田康弘さん 可児市文化創造センターalaプログラムディレクター
【進行】沖村・密山・守本 ケアまち実験室ラボマネージャー


ご登壇いただいた栗田さん



インプット|alaの”社会包摂型劇場経営”その創造的マーケティング

座談会前半では、alaが行っている社会的処方について栗田さんからお話をいただきました。
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栗田さん:
我々の仕事はチケットを「売る」ことではなく、人と人のつながり(環境)を「創る」ことなんだと考えているんですね。
愛好家のためではなくalaから一番遠い人、(可児市の)「全市民10万人」を対象としたマーケティングを考えることが結果的に”創客”へ考え方を切り替えていくことになるのではないかと。
経営改革から始まった試みは、コロナ禍の経験を経て、そのつながりを≪支え合い・助け合い≫に発展させる必要性が生まれてきたという風に考えます。
そこで、alaまち元気プロジェクトの実践を2008年から始めました。
この実践の中で子どもたちがデジタルワークショップの運営側にも興味を持つようになったのがきっかけとなり、alaまち元気部、という地元の子どもたちの部活動のような動きへつながって広がりを見せています。
現在はalaまち元気プラットフォームという枠組みを作ることで、市民も一緒になって作品を作っていけるような環境(つながり)を作っていこうとしているところです。

地元の子どもたちの部活動のような取り組みへの広がり
文化芸術を活用した社会的処方箋。詳しくはこちら


ダイアログ|アートと社会的処方の交差点

このようなお話を伺った上で、後半は、暮らし、アート、社会的処方などをキーワードに対話を重ねていきました。
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沖村:
以前実際にお伺いして、幅広い世代の人がひとつの暮らしの場としてalaに来ていることを体感しました。幅広い世代の人に届ける、関わってもらうためにポイントにしていることはありますか?

栗田さん:
幅広い世代の人たちに関わっていくことは、alaがコミュニティを創っていくうえで根幹になる考え方ですね。一方でプログラムを作るうえでは対象をある意味で絞っていくことが非常に重要な観点です。
社会包摂のプログラムを考えるなかで対象者を具体化している一方で、じゃあそのプログラムを成立させるために、例えば高齢者の人はどのようにコミットできるのか?子育て世代や大人たちはどういう形で下支えができるのだろうか?高齢者対象のプログラムであったとしても、子どもたちの活動が入ることでどのように活性化させることができるだろうか?
いわゆる主となるプログラムを運営するための周辺的な取り組みを同時並行的に組み合わせながらやっているっていうのはあるかもしれないですね。

沖村:
プログラムをまとめたリーフレットを見せていただいたんですが、自分たちの解決したい課題がひとつひとつ具体化されていて、対象や、キーになるような施設が明確にデザインされているのが印象的でした。

栗田さん:
課題をベースにしたプログラムをしていると、どうしても集まる人たちが同質化してきます。属性が同質化していくのを解決するためにどうしようかと考えたときに、そのプログラムを取り囲むネットワークや包摂する組み立てをいくつか配置していく発想に変わっていったんです。
まち元気部だったり、サポーターを養成することで、要はひとつのアプリケーションにどのように全体が関わっていくか、をみんなで考えながらつくり上げているという感じですね。

密山:
参加できる入口を15年かけてたくさんつくってきて、それを「まち元気プラットフォーム」ですか、ひとつの土台に載せて。15年かけてOSをやり始めたよ、という風に聞いていました。広く大きなことを見たので、例えばどんなことをしているよ、というのを皆さんにもう少し見せてもらえるといいなと思うのですが、いかがでしょう。

栗田さん:
もともとalaは社会的処方や社会的包摂をやろうとして始めたわけではなかったんですね。僕らが文化芸術に関わってきた中で、劇場というのは「作品を作ってそれを売るんだ」とか「会場があってそれを貸すんだ」とかの先入観がもともと存在していて、それが仕事の中心になっていた部分がありました。
ただ地方ではそういうやり方だと劇場が活用されないという状況が起きていて、その起こっていることへの方法・手法を、劇場界は長い間見つけられずにいたんですね。
そんな中で”創客”っていう考え方が出てきたことで、劇場がつくり上げているプログラムが持っている力が、その都市に住んでいるすべての人たちの生活や地域の経済にすらよい影響を与える可能性がある、ということを、説明できるような気がしてきたと。
じゃあ具体的に説明するためには、実践が生み出している効果や起きている出来事をつぶさに皆さんにお伝えしていく必要が出てくるだろうということを考え始めたんですね。
その結果、行政が行っている社会包摂的な活動と、劇場が行っている地域全体を巻き込んだ文化芸術のマーケティングには相関性があるんじゃないか、という風に、僕ら自身が目覚めていくプロセスがあったと。
社会的処方という考え方が日本でも徐々に本格化していて、なおかつイギリスへ行ってみると、イギリスの地方劇場ではスタンダードな役割としてもうすでに行われている、という現実に僕ら自身がぶつかっていって。
初めてそこで「あっ、我々は、我々自身だけの活動ではなくて、その周辺にある地域のコミュニティ活動と同業者だ」という新しい発想が生まれてきた。
こういったことがalaの今の運営の背景として存在していますね。


おわりに|ケアとまちづくりが溶け合い、新しい価値が生まれるためのキーワードは?

この問いを投げかけると、栗田さんはこのように応えてくださいました。

栗田さん:
文化芸術が起こせることには限りがあります。その最たることは変化を起こすことです。変化っていうのは外からやってくるものではなく自分自身の中で起こるものなんですね。
万能の処方箋を見つけるよりも、自分自身の中から生まれてくる処方箋を自分の手で見つけ出す。
それによって生まれるかもしれないその人の人生そのものの変化をいかにして引き出せる環境を作っていくか、ということなんじゃないかと考えています。
文化芸術を通じて個々の変化のプロセスに、スタッフ、プログラムが寄り添って、その人たちと共に共創することが新しい文化芸術の役割になるんじゃないでしょうか。
今回に関して言うとその変化をどのようにクリエイトするか、というところが一番大きなキーワードになってくるんじゃないかと思います。

こうして座談会vol.1は幕を閉じました。


お知らせ

今後もアート、建築など、様々な方を登壇者としてお招きし、座談会を行っていきます。開催告知、開催レポートは、下記SNSで配信します。フォローいただければ嬉しいです。

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ケアまち実験室の詳細・申し込み
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#ケアまち座談会 #ケアとまちづくり未来会議


末尾になりますが、先般、今回登壇いただいた栗田康弘さんの訃報に接しました。
この座談会でのお話が、最後の講演だったのではないかとも伺っています。
ケアまちラボマネージャー一同、心より栗田さんのご冥福をお祈りいたします。

(執筆:鈴木唯加)


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