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【クウェート#30】美しき10月は終わりたり

10月29日(日)

学校からの帰り道、「恋はプリズムのファンタジー」だと、ベトナムのハールーンが言った。

中原めいこの"Fantasy"という曲の歌詞らしい。
プリズムを介して一条の光が七色に分散するように、新たな出会いを通して恋が新たなものになる——といった歌詞だ。

正直なところ、私はこの歌のことなどまったく知らなかった。(プリズムといえば、ピンクフロイドの『狂気』であろう。)

意外なことに、シティポップをはじめとするこの年代の邦楽に詳しい外国人学生は、少なくない。
私は無知に恥じ入るばかりである。

寮に帰ると、新しい机が置かれていた。昨日スーク・ジュムアでムハンマドがムシュリフに電話してくれていた。
ムシュリフは、本当に約束通り手配してくれたのだ。

フラットの前におかれている!
共有スペースに運んだ

この机をどう使うべきかについて、日本人同士で話し合った。
日本語で「机を4人で使うシチュエーションなんて無いでしょ」とリーダーに語りかけた。

すると通りがかったムハンマドは、全文を理解したようで、得意げに英訳した。おそるべき成長だ!

そしてこの机が、私たちの寮生活を生まれ変わらせる、いわば「プリズム」になろうとは、この時は知る由も無かったのだ。


先日、クウェート人の友人、サードさんと買い物に行ったときに、買ったsobaを夜食でいただいた。

チリは伊達じゃない
塩ビ管みたい

sobaの湯切りの工程が熱すぎる。
蓋が取れそうなので抑えなきゃいけないのに、あちあち。

熱湯を苦しみながら捨てる人間の存在が疎外されている。
「人間とそばについての疎外」について何か書けば、私は第二のマルクスとして旗揚げできるかもしれない。

そば自体も辛すぎる。
焼きそばだが、辛さが強すぎて何もわからない。まさか味蕾を「焼き尽くす」そばであろうとは、人の身で誰が予想できようか。

ただし、麺のクオリティはクウェートのカップ麺で1番である。野菜も悪くない。

次買うかと言われれば、まあ買わないが。



10月30日(月)

授業後、洗濯を待っている間、各国の暴言を習った。
スウェーデン、ベトナム、モンゴル語。

日記に載せたいが、Banされたら嫌なので、今回はやめておこう。
どうしても知りたい方がいらっしゃれば、こっそり聞いてほしい。

「お前なんぞ知ったことではないわ、おととい来やがれ!」

お望みの言語で、そう言って差し上げよう。


スウェーデン人のファウワーズは、「自分の内側を曝け出さない」「気を使う」という、自国民の性質を教えてくれた。

例えば、「ものを教えることで、相手を馬鹿にしていると思われないか?」などと考えることもあるらしい。

どことなく日本に似ている気がしないでもない。

彼は「ヤンテの掟(Janteloven)」——自分がひとかどの人物であると思ってはいけない等々——への共感を示しさえした。

暴言教室も含め、2時間以上外で話していた。

「この時間は君にとって有意義だったか?」

という私の問いかけに、彼は「もちろん、楽しかったよ。」と答えた。

これが「内側をさらけ出した」答えであってほしいものだ。


夜、ルームメイトがサッカーをしに行った。ソマリア人のルクマンが連れ出していった。

サッカー初心者の私は、恐ろし気なサッカー試合について行くことははなかった。

代わりにルームメイトを「特派員」として派遣し、わがnoteに寄稿するよう依頼した。しかしついぞ、寄稿がされることはなかった。

私は彼に「お前なんぞ知ったことではないわ、おととい来やがれ!」と言った…….などという事実があるわけもなく、「自分の内側を曝け出さない」でとどめている。


10月31日(火)

今日はハロウィンだ。
私はこの恐ろしげなイベントが好きだ。

クウェートのハロウィンについてレポートするつもりで、方々に問い合わせていた。
しかしそのようなイベントは、どうやら無いらしい。

スーパーにて、「ハロウィンのかぼちゃ」を意識したような陳列は、時折見かけはしたが。

パンプキンシーズン
シティーセンターにて。

さて、クウェートには「市民カード/市民ID(ビターカ・マダニーヤ)」と呼ばれるカードがある。

これだけで、クウェート居住者としての求められる、さまざまな種類の身分証明書を行える。
さらにKネットという支払いシステムにも使えるというスグレモノだ。

ただしクウェートに長期滞在する場合は、ビザが切れる前に入手しなくてはならない。(はずである。正確な情報は、大使館やクウェート内務省等のHPを確認されたい。)

今日はその発行手続きのため、日本人を含む多くの学生が学校を休み、クウェート当局に行くことになった。

寮がバスを手配してくれる手筈になっていたが、いつも通りのトラブルが発生した。
どのバスがどこに行くのかも誰も分からない。
どのバスに乗るべきかも分からない。
だれが責任者かもわからないし、当のバスドライバーは全員寝ている。
バスドライバーも行き先を知らない。

このような中、無事到着し得たのは、まこと幸福という他ない。


いざついてみると、受付カウンターが30個くらいあるのにほぼ担当者がいない。




書類の発行には支払いの必要があるが、支払いには誰かのKネットを借りる必要がある。
Kネットの使用には、「市民カード」が必要だ。
「市民カード」の使用には、Kネットが必要だ。

私は頭が痛くなった。

しかも半日のうち大半は「たらいまわし」に活用して頂いたのみだ。
カードの入手のためには、このようなプロセスがまだまだ続く。

私には、ハロウィンなんかよりもよっぽど恐ろしく思える。


補遺
ルームメイトが福井良の「シーナリィ」を気に入ってくれたようだ。
みなさんも良かったら聞いてください。

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