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ペンシルバニア州をめぐる旅④ ~フランクロドライトの落水荘

今回はこの旅の最大のハイライト、フランクロイドライトの落水荘をご紹介する。私は建築やアートが大好きだ。日本にいた時には毎週土曜日22時、「美の巨人たち」(今は『新』があたまに付くらしい)を見なくては週が終わらないほど大ファンだった。落水荘を知ったのも、この番組だった。今調べたらそれは2007年のことだ。小林薫さんの穏やかで、期待を誘うナレーションと共に映し出された落水荘は衝撃だった。周りは森、しかも滝の上に家が建っている。こんな家があるなんて。。どうやって建てたんだ!??すごい。。…番組を見終わった時には「いつか必ず自分の目で見る!!」と心に誓った。しかし老後の夢程度に思っていたので、情けなくもどこにあるのかは意識から抜け落ちていた。それが2年程前、たまたまマンハッタンにある紀伊国屋書店で雑誌「Casa」を眺めていたら、落水荘がペンシルバニア州にあることを知った。えーーーっっっ!!!…あんなに熱望していたのに場所も把握していなかった自分に愕然とし、また、少し頑張れば手の届く距離にあったと悟り、衝撃を受けた。ニューヨークにいる間に気づけたことが最大の幸運だった。…こうして積年の夢が老後よりもずっと早く実現した。

朝からキリリと空気の冴えわたる、良いお天気だった。前泊のユニオンタウンから車で35分、ドキドキしながら落水荘に向かった。

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紅葉が終わってしまったことを残念がっていたが、意外と落葉後の木々の間を抜けていくのも清々しかった。葉っぱがない分、空が広く見え、木々の枝とのコントラストも美しい。車窓を楽しみつつ、道を進めば進むほど、森の奥深くに向かっているのを感じた。

敷地内に入ってからも少しの間、上記の写真のような木立の道を進む。高速道路の料金所のようなブースがあり、一旦止まって予約確認。また進むと駐車スペースがある。車を駐めて、(案内板もなく心配だったが)林の中の一本道を進んでいくと受付ブースのようなものがあり、再度予約を伝える。予約時間枠の予約人数を更に分割して、少人数のグループでガイドさんと共に見学する形式になっており、呼び出し番号が伝えられる。呼ばれるまで待機せよとのことだったので、併設された展示スペースを見学。落水荘の所有者、カウフマン氏の興したカウフマンデパートとその建物の設計者、ジョセフ アーバンが紹介されていた。

カウフマンデパートはピッツバーグをはじめ、ペンシルバニア州内にいくつか店舗展開していたそうだ。しかし、ネットショッピングの波に抗えず2006年に閉業。ピッツバーグのデパートはその後、建物ごと Macy’s に受け継がれている。落水荘が建つ前の彼の敷地(とても広大 ↓)は、デパートの従業員の保養所として使われていたそう。ピッツバーグはそれよりずっと前から工業が盛んで、空気質も悪かったので、落水荘のある Mill Run というエリアは少し離れた別荘地として人気があったのだとか。財産を築いたカウフマン氏もその流れに乗ったのだろう。創業者のカウフマン氏はもうこの世にいないが、子孫がニューヨークのメトロポリタン美術館でキュレーターをしていた経験を活かし、落水荘を住居から世界中の人が見学できる場所にした。そして2019年に「フランクロイドライトの建築群」の8つのうちの1つとして世界遺産にも登録された。

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(↑ ハイキングルートも紹介されているほど広大な落水荘の敷地)

放送で私のグループ番号が呼び出され、ガイドさんと共に建物に向かった。説明しながらゆっくり、ではあったが、建物にたどり着くまでに結構時間がかかった。林やピクニックできる大きな広場を抜け、滝の元となる川を横目に歩いた。

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最初に目にした落水荘が ↑ だ。定番のアングルとは反対側、滝の上側からの角度。滝になる川を、橋で渡って家の中に入る。この時から、家を離れるまで、ずっと滝の音が聴こえていた。建物に使われた石は、界隈から切り出された石だそう。(フランクロイドライトは建築費用を抑えるために、どの建築でも、地場の材料、地場の職人を使って作る、ということだった。)

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橋から見た、家とは反対側の川。そんなに大きな川ではない。落水荘は川の際を護岸工事みたいな感じで固定しつつ、そのままそこに家を作っていることが分かる。川の上まで部屋がせり出しているため、滝の上にあるように見えるのだ。

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↑ 邸宅を横から見たところ。人が入っていこうとしている、道の左側が玄関。道を挟んで右側の丘にも、完成後に建て増しされたゲストルームがある。道の上にかかっているのはゲストルームへの連絡通路のようなものだ。手前には藤棚のような柱が何本もかかっているのだが、住宅が川に傾かないないよう、丘側に杭を打ち付け、梁のような役目を果たしているのだと思われる。

沢山写真を載せてしまうと、ご自身で行かれる方の楽しみが減ってしまうので、中の写真は、ウェブ画像でもよく見られる1枚だけにとどめておく↓ (なお、2階と離れのゲストルームの写真撮影は禁止だった)

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広角のため天井が大きく映っているが、ツアー参加者の背丈と比べても分かる通り、天井は意外と低い。しかし、横に広くスペースが取られており、内壁も温かみのある色調であるためか、圧迫感は全く感じなかった。滝の音が聴こえ、張り巡らされたガラス窓から周りの木々が見えるので、自然との近さを五感で楽しめる。

2階はカウフマン氏の書斎や寝室があったが、現代のアメリカサイズからするとかなり1部屋1部屋が狭かった。でも狭さを感じさせない工夫(壁が片面1面ガラス張りで外と一体感があるような→日本の借景みたいだ!)があり、ライトの創意工夫と意匠をたっぷりと堪能させてもらった。

ガイドツアーは家を出たところで終了、あとは各自お帰り下さい、という感じだった。帰りのルート上から少し分岐したところに、よく見る「落水荘」の写真ポイントがある。(上に載せたルートマップでいうとFのView だ。)

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…とうとう自分のカメラでも撮ってしまった (>_<)!!!改めて分析すると、川の対岸から、自分側にある木々と共に撮影しているため、余計に森の中に家があるように見えることが分かる。そしてしっかり、川の際から何本もの太い柱が、張り出した部屋を支えているのも確認できる。

百聞は一見に如かず。ライトの建築にはモダンな中に温かみがある。空間が滲み出す質感は自分がその場で全方位を見渡してみないと感じ取れない。今回は特に自然の中にある家だったので、周りの環境と共に感じてこそ、と強く感じた。ご興味のある方は、ぜひご自身で。はるばる来る価値のある場所です!

さて、所要時間だが、9時半のツアーに予約して、9:45頃に呼び出されてゆっくり移動、10時位に建物の中に入り、建物を出たのが10:45頃。写真ポイントで撮影し、展示スペースの続きとお土産屋さんをじっくり見て、予約していたお弁当をピックアップして(周辺にレストランは皆無のため)落水荘を出たのは11:45。12時に予約していた、フランクロイドライトの別の建築(ケンタックノブ)へと急ぐ。所要時間10分でぎりぎりセーフ。その様子は次回ご紹介させていただく。

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