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ニューヨーク・ハーレムのゴスペルレッスン

私は2019年からハーレムのゴスペルグループに所属している。グループのメンバーは日本人、先生が黒人女性という構成で、コロナ前は週1回、アフターコロナは月2回くらいのペースで、集まって練習している。
たまに、別の黒人さんたちのゴスペルグループとコラボしてコンサートに出ることもあり、合同練習をすることもある。我々の先生は根っからゴスペルカルチャーで育ってきた方なので、基本的な練習の様子は同じだ。

練習場所は教会。教会には毎週のサンデーサービスのための、ゴスペルクワイアー用の楽器:ピアノやオルガン、ドラムセット が常備されているからだ(サンデーサービスではエレキギターも加わる!)。
練習は、先生が電子オルガンを弾きながら、各パートを歌詞つきで歌ってくれて、我々はリピートしながら覚える。パートはソプラノ・アルト・テナーの3つ。面白いことに、テナーには女性も入ったりする。男性の声の低い人はテナーにいながら、アルトの1音階低い音程を歌ったり、テナーの高すぎる部分は声を出さない(歌っているフリをして 笑)対応するようだ。大規模な練習の時には、ピアノやオルガンを弾く専門の人を付けて、先生は指揮者のように真ん中で指導する。実際、コンサートでも、演奏は専属の人に任せて、先生は指揮をしつつ、リード(コーラスとの掛け合いの、ソロ歌手的な位置づけ)をして盛り上げてくれる重要な存在だ。

ゴスペルには楽譜がない。歌詞は渡されるが、音程は耳で覚える。有難いことに現代に生きる我々はスマホで録音ができるので、それを聞いて復習することはできる。しかし、ゴスペルをやっている方は耳が良く、聞いた音をすぐに覚えることに長けているように思う。もちろん、我々が覚えるために先生は何度も繰り返してくれるので、そこまでハードルは高くない。…そしてゴスペルは短い歌詞、メロディフレーズを無限ループな勢いで繰り返すので、けっこう覚えられる。そして、先生はオルガンを弾きながらリード的な掛け合いの中で、歌詞を言ってくれたりもするので、練習中も本番も、極端に心配することはない。

初めて練習に参加した時も、古参の皆さんは手拍子をしたりリズムを取ったりしつつ、先生の「ザ・ゴスペル」的な(メジャーリーグで選手が出てくる時に弾かれる電子オルガンメロディのような)音とリズムに包まれて、終始ウキウキするような楽しい気持ちで時間が流れる。レッスンと言えど、楽しい趣味の時間そのものだ。

私は黒人グループのゴスペルを聴くと、日本のプロ歌手や西洋のロック、ポップスとは違う歌い方をしているように感じていて、特別な歌い方があるのかと思っていた。ゴスペルの練習ではそういった歌い方の指導もあるのだろうと想像していたが、私たち日本人向けのゴスペルレッスンでも、黒人さんたちとの合同レッスンでも、歌い方を細かく教えられることはない。言われるのは「感情(passion/ soul)を込めて歌うように」ということだけだ。感情を込めれば平坦にならず、自ずと一語一語に(一語ごとに)抑揚がつく、と先生は歌いながら説明してくれるのだが、実際に自分なりにトライしてもまだあまり要領をつかめていない。

私たちも時に、ハーレムの地域イベントのステージや、周辺の教会イベントでのゲスト出演や、お世話になった方のお葬式でのはなむけなどで歌わせてもらうことがある。その時も繰り返し言われるのは「歌詞や音程を間違えても問題はない。とにかく魂を込めて歌うこと!」ということだ。
その言葉の意味を強く理解できたのが、ある教会イベントに参加した時のこと。その主催教会所属のクワイアーが歌った時、(大変失礼ではあるのだが)ど素人の集団かと思うくらいひどい響きだった。それでも聴衆はリズムに合わせて踊ったり、起立して歌詞に感情移入している様子を見せたりしていた。もちろん、歌が終わると拍手喝采。。音楽というのは、参列者の神への気持ちの呼び水的なものであって、ハーモニーのクオリティは二の次なのかもしれないな、と切に感じた瞬間だった。だからこそ、感情を込めることが何よりも大切と言われるのだと思う。(もちろん、何度もイベントに参加させてもらう中で、心震えるようなハーモニーを奏でるゴスペルを聴かせてもらったことも沢山ある。ハーレムのゴスペル界は層が厚い!!!)

そして不思議な話。歌詞に宿る何かがそうさせるのか、あるいは別の理由か、全く分からないのだが、キリスト教徒でもない私でも、ゴスペルを歌った後は、気持ちがスッキリする。感化される、という訳ではない。ちょうど、ランニングをして汗を大量に流し、デトックスされたようなスッキリ感だ。音楽の授業、合唱コンクールの練習、カラオケなどでは全く味わったことのない感覚(つまり、大きな声を出すことによるスッキリ感とは別次元のものということ)だ。ゴスペルは聴くよりも歌う方がずっと楽しい!


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