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[読書の記録]山崎まどか・長谷川町蔵「ヤング・アダルトUSA」(2015-10-10読了)

 長谷川町蔵さんと山崎まどかさんによる新著、ヤング・アダルトUSA(DU BOOKS 2015年)を読んだ。

 主にティーンやそれに準ずる若者を主人公とした映画や小説、音楽について取り上げつつ、現在の米国の若者文化と、その社会に対する影響を解き明かそうとする本である。
 1980年代に学校を舞台としたティーン映画という一大ジャンルを作り上げたジョン・ヒューズの業績の解説にはじまり、Gleeのヒットの功罪、同じコード進行を延々と使うループ歌謡の流行の背景、ゴシップ・ガールのウソホント、 一連のLA文化系映画の興隆等、興味深いトピックが、現代日本を代表する文化系文筆家の2人によって対話形式でつづられる。
 随所に差し挟まれるビブリオグラフィー、フィルモグラフィーも大変情報量が豊富で、読了後には見たい映画だらけになることだろう。

 アメリカ映画で描かれるスクールカースト問題などはもはや古典的題材だし、もはやオワコンに近づきつつあるのかもしれないが、21世紀に入ってもこの類いの映画が作られ、消費され続けているということ自体が、米国人が共通して経験する青春を懐かしみ、その思い出を繰り返し追体験したいという願望を反映している、というのがこの本全体のトーンである。

 終章近くで語られるように、多くの米国人は、様々な社会制度や文化的慣習を背景として、「若くてナイーブである」という自我から脱することができずにいるらしい。それでも大人にならなければならないという実存からの要請との間で立ち位置を決めかねているのかもしれない。
 面白いのは、『500日のサマー』のサマーや、『ルビー・スパークス』のタイトルロールのような、文化系男子が夢見るマニック・ピクシー・ドリーム・ガール(MPDG)という新しいヒロイン像は、上述したような、大人になりきれない、永遠の放課後を生きるこじらせ系の作り手たちの願望としてうみだされているという分析だ。
 MPDGについて本国のほうではフェミニストたちから批判されているらしいが、それに限らずとも、確かに『ウォールフラワー』といい、文化系のグループに属する/属していた男女からすれば夢のような話を題材とした映画が最近次々に登場しているのは、確かにそうかもなと思う。
 しかも演じるほうの役者も、いわゆる伝統的なハリウッドスターの像にはあてはまらないような、なんともオルタナティブな雰囲気を持った人たちがたくさん出てきており、新しいリアリティが生成されている。
 こうした状況を詳しく解説してあるので、ゼロ年代以降の米国産ポップカルチャーが好きな人には是非一読を勧めたい。

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