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[読書の記録] Jonathan Safran Foer "Extremely Loud and Incredibly Close"(2014.03.13読了)


この小説を原作とする映画が2011年に出ているのでそちらを知っている人も多いだろう。私が読んだのは小説のほうで、英語の原書で読んだ。なお映画版は見ていない。

本の感想だが、まずもって、ユダヤな感性のひねくれユーモアが好きな人には圧倒的におススメできる。ウディ・アレン的センスというか。

語りの主体である主人公オスカーは9歳にして既に重度の厨二病患者(少し非定型な感じもあるのか?)である。彼の極めてロジカルだが少しズレた、世の中に対するまなざしが終始笑える。

読み物としての面白さには、冒頭から一気に引き込まれる。


物語は、9.11同時多発テロで父親を亡くしたニューヨーク在住の少年オスカーが、父の遺品の中から見つけた鍵について知っている人物を探す冒険を中心に展開する。

彼はニューヨークの5ボローズを股にかけ、行く先々で個性的な人々と出会っていく。

このプロセス自体が極めてグリム童話的であり、ネバーエンディングストーリ―的であり、指輪物語的でもあり、幼き日の読書体験を思い出させる大人向けファンタジーとも言えるだろう。

作中にはオスカーの祖父母(亡くなったオスカーの父親の両親)が息子にあてた書簡も差し挟まれ、ふたりが第二次世界大戦中、ドレスデンで経験した空爆の悲劇が描かれる。当然この回想は9.11と重ねられており、物語は重層的に進行する。

(9.11の同時多発テロは民間人への無差別な暴力として批判されたが、第2次大戦中の原爆も空襲も、ある意味テロリズムというか、非戦闘員の虐殺とみなすメッセージには共感した。)


人生はあまりにも辛く、孤独で、悲しみに満ちている。

それでも生きる意味とは、、、


要約するとこういう重い問いが全体を覆っているけれども同時に、繰り返しになるが、これは皮肉が利いたユーモラスでエンターテイニングな作品でもある。

ただ、私は笑いながらもさまざまな感情を掻き立てられた。この感情のもつれ合いはとても複雑で、私の文章力を超え出ている。ただこのアンビバレンスの表現を、ともすれば単線的になる「物語」の形式で実現したのがこの作品の文学史上のイノベーションなのだろう。

オスカーはじめメインの登場人物は特殊な境遇におかれ、特殊な体験をする。また、オスカーが冒険の中で出会っていく人たちも変わっていて、なかなか私たち一般ピープルが日常生活で出会うような類の人ではない。

それでも読み手は、オスカーたちに共感し、深く感情を揺さぶられるだろう。

映画にしてもそうだが、状況やストーリーが特殊でありつつも、共感を呼ぶ普遍性を備えていることが、優れた作品の条件なのではないか、と最近考えている。

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