ぼくは(狂った)王さま #84
アラカが自室のドアを開けると、ベッドに腰かけたプリスが不機嫌そうに待ち構えていました。きょうかいの仕事は終わったのでしょうか。
「アラカ君、帰って来るのが遅いですよ」
どうやって部屋に入り込んだのかを聞くのは無駄なことです。マスターレベルのシスターならば守衛の目を欺くことも、騒がれずに黙らせることも朝飯前なのですから。
「ごめん。おひいさまと森に行っていたんだよ」
「キツネをいっぱい仕留めましたか」
いつになくプリスの三角耳が、ぴんと張り詰めています。なるほど、殺生に対する説教をする為に待っていたのか、たまにはプリスもシスターらしいことをするのだな、とアラカは暢気に考えました。
「ぼくはクマの毛皮を集めていただけだよ。キツネはおひいさまだな」
やおらプリスは立ち上がって、ぐるぐるとアラカの周囲を回りながら、匂いを嗅いだり、全身の返り血や、あちこちにある生傷を観察しながら、とりあえず言っていることにウソは無いと、少なくとも明白な証拠は無いと諦めて静かに嘆息するのでした。すると「全治」の光がアラカを包み込みます。これは、きょうかいに訪れる怪我人や病人を(もちろん有料で)救済する為の高位の白まほうですが、今日は使い道が無かったのでしょうか。
「……狩りは狩人に任せておけばよいでしょうに」
殺生が悪いのではなく、気晴らしに殺生をするようになるのはいけないとプリスは言いたいのでしょうか。何にせよ自分が大怪我をして戻って来ることを心配して、きっと日の高いうちから自分を部屋で待ち構えていたのだろうとアラカは推量するだけです。事実として、あっという間に生傷を癒してくれたのは大助かりでした。お風呂に入るときに沁みるのは憂鬱だったからです。
「助かったよ。やはり持つべきものはシスターの仲間だな」
しみじみとアラカは言いました。それが社交辞令ではなく、それが心からの言葉であることはプリスにも伝わりました。(続く)
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