見出し画像

ハントマン・ヴァーサス・マンハント/第2章/第2節/「短生種は長命種の隣に立つ夢を見るか?」 #5

(承前)

よし、俺の血を吸っていいぞ。

「……はい、そうですね。そうですか?今、なんて言いました?」

俺の血を吸っていい。万全の状態で戦って、確実に勝って欲しい。

「あ?ああ……..。あ?ああ……。ああああ!?」

相棒の両目は縦横に激しく回転しながら虹色の明滅を繰り返している。どういう状態異常なのだろう。混乱するなら、せめて頭上に数羽のヒヨコを旋回させるような直感的な演出をして欲しいとは思う。

「何でです!?こんな時に、そんなこと言うなんて……そんな……!」

吸血鬼同士の戦いが始まれば俺なんか良くて蚊帳の外、下手すれば巻き添えで挽肉になってしまうだろう。俺の唯一の手札を出すのは、これが最後のチャンスになると踏んだのだが。もしかして、戦闘直前の吸血行為は❝ゲーム❞のルールに抵触するのだろうか。そう思った矢先に、相棒が四本の腕で俺の口を塞ぎにかかった。疑義を挟む余地も無い。見えない何かに怯えながら忙しなく周囲を見渡している。周囲には誰も居ない。対戦相手とやらも未だ姿を見せないままだ。残った二本の腕で俺の耳を塞ぎにかかる。その塞がれた筈の耳に相棒の声が響いてくる。「精神に直接語り掛ける」というヤツではない。どうやら掌に『口』を作って、そこから喋っているようだった。

「あのですね!今のやり取りだって参戦していない同胞に筒抜けなんですよ?ダンナからは見えないだけで、この状況は既に衆人環視なんです!」

もしかして吸血鬼の食事というのは同族に見られると恥ずかしい行為だったりするのだろうか。そんな筈は無い。俺の制止を振り切って、同級生を干物みたいにしてくれたこともあったはず。

「そういう交渉は空に月が昇るに済ませておけというのが我々のマナーで……」

外野にも月にも見せつけてやればいい。それにしても不思議だ。❝ゲーム❞では赤い月が、それも満月が何日も続くものなのか。

「はい?」

相棒が空を睨む。月が身動ぎするのを俺は見た。

(続く)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?