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ハントマン・ヴァーサス・マンハント/第2章/第2節/「短生種は長命種の隣に立つ夢を見るか?」 #7

(承前)

「ああああ、ああ、あああ……」

どどめ色に輝く泥濘が声にならない声を発し続ける。いい加減に耳障りだ。さっさとトドメを刺して欲しい。それでも相棒が攻勢に転じないのは、最後の力を振り絞った反撃を警戒してのことだろう。

「……ああ」

俺の胸が不意に高鳴った。その声は、俺の本当のパートナーの声だった。訝しく思う間もなく、泥濘が自らを攪拌し始めた。そいつは見る間に人間の姿を、次に若い女性の姿を、遂に俺のよく知るシスターの姿になっていた。

「なるほど、こういうメスがダンナの好みだったということですか」

こいつは一体なんなのだ。俺の心を読んで、俺の大切な人そっくりに変身したということなのか。未だ何らかの戦術を温存していたということか。

「いえ、声や外観を自由に変えられるのは我々ハントマンの『能力』ではありませんね。単なる『生態』としか言いようがありません。恐らくはダンナの瞳孔を観察しながら金庫のダイヤルを回す要領でダンナの戦意を鈍らせるのに最適な声、容姿、それらの最適解を導き出したのだと思われます」

あの七色の呻き声は苦しみからではなく、つまみを捻って周波数を合わせるような行為だったということか。ある瞬間の、俺の反応を拾った上で、俺のよく知る声を再現したというのか。その前にサクッと倒してくれれば良かったのに、と言いかけて踏み止まった。相棒が立っているのも辛そうにしているのに今更になって気付いたからだった。

「アレには手札が、私には体力が残されていません。条件は五分五分。後はダンナ次第。ダンナの采配が……私達の生死を分けるでしょう……」

そうとも。だから今すぐ俺の血を吸え。そして万全の状態で迅速確実に敵を叩きのめすのだ。そう言おうとして唇を手で塞がれた。

「いえ、あれがダンナの理想を詰め込んだパートナー……言うなればアニマであるというなら私は……あの野郎を出来るだけ時間をかけていたぶってから殺したいのですが」

(続く)

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