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ぼくは(狂った)王さま #98

「……きょうかいでのお勤めが辛くて苦しいものであることは何度も聞かされているから知ってるつもりになっていた。だけど、まさかプリスほどのシスターでも、辞めたくなるほど大変なものだとは知らなかった……」

 おかしな方向に話が動き始めました。火に油を注ぐリスクを知りつつもプリスは慌てて軌道修正を計ります。

「……何か勘違いをされているようですが、私は司教さまの下知によって、良い子にしていたアラカ君にプレゼントを持参した次第でありまして」

 自らの立場を繰り返し主張するプリスですが、アラカの熱い血気と、けしにくのつるぎが放つ凍てつくような剣気が対流を起こして寝室の中で小さな竜巻が生まれかねない勢いです。

「どんな辛い目に遭わされても、プリスが司教さまを庇う気持ちはわかる」

 アラカはわかっていません。露出の多い女子といえば、ぼうけんしゃのさかばで屯する盗賊シーフたちのことが真っ先に思い浮かんだせいです。そして盗賊といえば魔術師メイジの次に女性の割合が多いクラスですから、もしもきょうかいから破門されたシスターの転職先が盗賊だったとしても、それは確かにアラカの中では自然な連想ではあったのです。

「アラカ、ここは私に話をさせよ。プリス、ここに来た理由は、その袋の中身をアラカに授ける為であるな?」

 「とっとと出て行かないならば兵士を呼ぶが、それは私の望むところではない」と、わざわざ口に出すおひいさまではありませんし、それで通じないプリスでもありません。地獄に仏のありがたさを感じてプリスはいそいそと純白の頭陀袋から、数日前にアラカに見たのと同じ長持ちを取り出して床に置きました。やはり中には塩漬けにされたユキエ(元)兵長の死体が完全な状態で眠りに就いているのです。

「……この謀反者の埋葬は確かにきょうかいに委ねたはずであったが」

「罪を犯したならば、贖う機会が与えられて然るべきではありませんか?」(続く)

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