ぼくは(狂った)王さま #97
おひいさまの「何か動きがあるならば明日であろう」という予測を裏切り、バルコニーから城主の寝室へと侵入を果たしたのはプリスでした。ですがアラカを驚かせたのは彼女の闖入ではなく、その服装のせいでした。
(プリスはシスターをやめてしまったのか?)
平素の改造修道服を深紅に染め上げ、更に布の面積を減らした挙句にシスター頭巾の代わりに、やはり深紅の三角帽子をかぶり、純白の頭陀袋を背負ったプリスを見たアラカは、聖ニコラウス様ではなく新手の夜盗がやって来たのかと訝ったほどでした。
「なんですか、今日という特別な一日に、おひいさまの護衛という苦役を課せられているアラカ君の為に、プレゼントを持ってきてあげたというのに」
「まず暖炉にあたりなよ」
アラカの眼差しは深刻そのものでした。ダンジョンの深層を徘徊する各属性の竜種が行使するブレスからも一党の総崩れを何度も防いだ実績のある「大楯」の白まほうをプリスは事前に唱えていたので、地上に吹き荒れるブリザードなど暖房の利いた居間に吹き込む隙間風ほどの寒さも感じませんでしたが、それでも急いで自分の場所を空けてくれたアラカの厚意を無碍にするわけにもいかず、遠慮しながら暖炉の前に正座するのでした。
「ところで私が聖ニコラウス様からの下知を受けた司教さまの下知によって私が今日アラカ君を尋ねた理由なのですが」
「それより暖かい飲み物が欲しくないか? お腹は減ってないか?」
おひいさまとしてはアラカが取り乱してプリスを気遣っているのは面白くありませんでしたが、それはともかく内線で召使いを呼んで、暖かいスープと葡萄パンを一斤、大急ぎで寝室に運ばせました。こんなにアラカが動揺しているのは何故かというと、遂にプリスがきょうかいでの退屈で不自由な暮らしに耐えかねて、社会的な信用度の高いシスターの地位を捨てて盗賊にでも転身したのかと早合点したせいでした。(続く)
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