見出し画像

ぼくは(狂った)王さま #80

 アラカは民主主義者の死体から戦利品を漁り始めました。半円状の緑色の兜と、森林に紛れるための色の制服に身を包んだ多数決村の兵士は日持ちして美味しい保存食を隠し持っていることが多いからです。

「……こいつら、銃を持ってないみたいだ。何故だろう?」

 倒れた兵士たちが持っていた武器といえば短剣と手製のものと思しき弓矢ぐらいのものでした。

「彼らの銃は壊れてしまったのかもしれない。あるいは、銃に込める火薬の玉を使い切ってしまったか、古くなってダメになってしまったか……」

 この時代、この島国には旧世界の銃火器や弾薬を作れる施設は残されていません。なので多数決村の補給に関しては、ほぼ全てが新大陸から不定期に訪れる船団からの買い付けに頼るしかないのです。この森はアラカたちが属する専制国家との緩衝地帯であって民主主義者にとっても、いつ戦いの最前線になるとも知れない重要な地域であるはずです。そこへの補給が滞るということは彼らの人脈あるいは情報網に何らかの問題が生じているに違いないと、おひいさまは考えました。

「アラカ、どう思う?」

「……この弓はダメだ。せっかく丁寧に作られているのに素材が良くない。これでは一回引いただけで壊れてしまう。壊れた

 そんな弓ですから、矢の方も似たようなものです。これでクマを狩ろうなど命を捨てるようなもので、キツネを狩るのが関の山だとアラカは思いました。すぐに飽きて、壊れた弓と木材を削っただけの矢を地面に投げ捨ててしまいます。

「弓矢を作る製法というか、材料を集める為の知識というか、そういったものが丸ごと失われているように感じる。それでも銃さえ自由に使えるなら、別に問題は無かったんだと思う」

 おひいさまは思案しました。民主主義者どもの集落は崩壊に向かっている。あるいは維持する力が衰えて、抑えていた土地を諦め、あらゆる資源を残された土地に集約させようとしているのかもしれない。(続く)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?