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胸腔ドレーンにまつわる話 〜うつりゆく医療にどう対応するか〜

【このトピックスで学べること】
・気胸とその治療の胸腔ドレーンをかんたんにおさらい
・「鈍的穿通法」と「トロッカー法」のどちらが良いのかを根拠を持って理解できる
・なんとなくの臨床から脱却できる

ある日,胸が痛いという若い患者さんがやってきた。レントゲンをとってみると原因は一目瞭然,気胸だった。しかもけっこう肺がしぼんだ状態だ。実は若い人には気胸は意外と多い病気なのだ。

「これは胸腔ドレーンで脱気が必要だなあ」

ということで,今日は胸腔ドレーンにまつわるお話。

胸腔ドレーンとは

まず気胸から理解する必要がある。ヒトの肺は胸郭といわれる「入れ物」の中に大事にしまわれている。そして肺は呼吸により大きくなったり,小さくなったりする,形が大きく変わる臓器だ。この可変性を維持するためには,肺が胸郭とくっついていては動きが制限されてしまう。したがって,肺は胸郭とは固着しておらず,ヌルヌルとスライドする関係にある。

何らかの原因で肺に穴があいてパンクしてしまうと,胸郭と肺の間に漏れ出てしまう。前述の通り,肺と胸郭は固着していないため,漏れ出た空気は間にどんどん溜まっていき,相対的に肺を圧迫してしまう。

この漏れ出た空気は行き場がないため,外から抜いてやらないといけない。それが「胸腔ドレーン」だ。

※ちなみに少量の漏れで,それ以上増悪がないようであれば自然に吸収されるのを期待して保存的に経過観察することもある。

救急医が習う胸腔ドレーン

救急医ならだれでも胸腔ドレーンは入れられる。というのも,救急医になるには外傷患者の初期診療ガイドライン( JATEC )という避けては通れないものがある。このなかには,ひときわ危ない「緊張性気胸」という病態に対して,胸腔ドレーンを留置するという手技がある。そしてその習得は必須なのだ。

JATEC で教えられている方法は側胸部に皮膚の「表面」に小さい切開を加えて,あとは胸腔内までペアン鉗子で鈍的に剥離していく。鈍的剥離というのは読んで字のごとく,組織をミシミシとかき分けて行く方法だ。

さて,今回救急外来で診察した患者さんは外傷ではない。いわゆる自然気胸や特発性自然気胸というやつだ。体質や体格などにより自然に発生した気胸なのだ。

ここで疑問。自然気胸は単純に肺がやぶれただけで,胸郭に外傷はない。しかもだいたい若い患者さんなので,胸郭と肺の癒着もほとんどない。

つまり,胸腔ドレーンを入れるには非常に良い状態なのだ。

JATEC で習う方法は鈍的な剥離法だ。これは痛みも伴うし,もう少しスマートな方法はないのかな?。そこで思い出されるのが,トロッカー法である。

トロッカー法

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さて,胸腔ドレーンの留置方法にはもう一つの方法がある。それは胸腔チューブに鋭利な内筒を差し込んで,その内筒とチューブをズドンと一緒に刺す方法だ。原理的には静脈留置針と同じである。

トロッカー法は腹腔鏡下の手術のときに手術器具を差し込むポートを留置するときにも使われている方法だ。

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この方法なら鈍的剥離などという ”野蛮な” 方法を取らずに済みそうじゃないか。創部もシンプルできれい,処置時間も短時間,いいことばかりな気がしてきた。

ただ,こういう思いつきで処置を変更するのはたいてい危険なので,一応教科書にあたってみよう。

ということでいつもの我が師匠,UpToDate を紐解いてみたわけである。

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