見出し画像

「いのち」を読んで

 1.まえがき

  てつくんが執筆した小説「いのち」を題材とした読書感想文です。本文の内容も含まれているので、未読の方は本編を読んでいただけると幸いです。


2.本文


「人生は選択の連続である」
 シェイクスピアの言葉だ。人間は様々なことを選択している。その選択の結果は本人にしかわからないし、挽回することはできても選び直すことはできない。私は、6割の選択に満足し、4割の選択を後悔している。

 主人公ダイヤは親友ノアを事故で失う。その後7年間霊となったノアと二人だけの世界で暮らしている。自分にしか見えない親友を大切にしているといえば聞こえがいいが、いつまでも自分の世界にとじこもり現実を見ようとしない意気地なしともいえる。ただ、私も自分の世界に閉じこもり狭い人間関係の中で生きてきた意気地なしだ。ダイヤの姿を見ていると心が痛くなる。

 そんな時、ノアのことが見える転校生真央が現れる。真央は、二人だけの世界にずけずけと入り込む。7年かけて築いた二人だけの世界を壊す侵略者だ。ただ、ダイヤは侵略者を拒絶する選択をとらなかった。意気地なしだから何もできなかったのだと取れなくもない。でも本当は親友を見つけてくれる人の存在を求めていたのではないか。自分にとって大切な人の存在を誰かに知ってほしい。受け入れてほしい。2人だけで生きるという決意の裏でその思いはどこかにくすぶっていたように思う。受け入れてくれる真央の存在は彼にとって救世主でもあっただろう。そして、2人だけの世界は3人の世界に変わっていく。

 私はふと苦い経験を思い出した。私には小1で知り合った親友が2人いる。互いを助け合いながら楽しい日々を送っていた。中学時代のある日転校生がやってきて、私ににこやかな表情を浮かべ話しかけてくる。その少年はまさに真央のように快活で優しく、趣味も同じ。私も彼と仲良くなりたいと思った。一方、私の親友二人は彼と距離をとった。人には相性があるのでこればかりはやむを得ない。しかし、彼は私だけでなく二人にも積極的に話しかけてきた。1か月後のある日、親友がこう言った。「なんであんな人とずっと楽しそうに話してるの」と。この時私は、二人をとるかその彼をとるかという選択を迫られたかのように感じた。双方とうまく付き合うすべを持ち合わせていなかった私は、三人の世界を守る選択をした。その日以降、親友がいる前で話しかけられても軽くいなし、場合によっては無視を決め込んだ。彼を侵略者とみなしたのだ。その後彼とは疎遠になった。胸の中には後悔が残った。

 それから6年後。同窓会で彼が話しかけてきた。現在は社会人として立派に働く彼だが、屈託のない笑顔はそのままだった。彼はこう言った。「距離感を間違えてしまってごめんね」と。これを聞いた私は自分の行った所業がいかに人の善意を踏みにじるものであったか痛感した。そんな自分にまだ優しく接しようとする。今度こそ道を間違えてはならない。私は6年分の思いを込めて謝罪した。許されるわけがないし、自己満足でしかない。今も私はあの時の選択を後悔している。そして、一生後悔し続けることだろう。

 終盤でダイヤは重大な選択を迫られることになる。南が末期がんにより残り1か月ほどで死ぬことが発覚するのだ。南にノアが持つ5年分の命を与えれば南は生き、ノアは死ぬ。南を救わなければノアは生き続けることができる。ここでダイヤがどんな決断を下すのだろうと気になって読み進めた。

 ダイヤは決断をしなかった。決断を下したのはノアだった。ダイヤの誰も失いたくないという気持ちは痛いほどよくわかる。すでに命を失った経験があるダイヤに一刻の猶予もない状況で片方のいのちを切り捨てる決断を下させるのはあまりにも酷である。ただ、人生の最後まで強く生きようとした南と親友にも言えない秘密を抱え込んできたノアの覚悟を思うと、ダイヤにも覚悟を決めてほしかった。決断を下すとまではいかなくても、自分の思いを吐露してほしかった。

 だが、ダイヤは意気地なしで終わらなかった。ノアのいのちが失われる土壇場で覚悟を決めて第三のルートを選択した。それは、二人の親友のいのちを最後まで受け止めるという道だ。自分の世界が壊れ大切な人が消えるという運命から目をそらさず、二人のいのちが尽きるその時まで寄り添い続ける。大切な人を失う苦しみや理不尽な運命に立ち向かう選択をとったダイヤは最高に強くてかっこいい男に見えた。

 二人を見送ったダイヤがどんな生涯を過ごしたのかはわからない。天国で再会するその日まで、二人のことを思いながら精一杯生き抜くのだろうと思う。

 この先もたくさんの選択が待っている。満足することもあれば後悔することもあるだろう。私は自分のことを大切に思ってくれる人に寄り添えるような選択をしたい。二度と過ちを犯さないために。命燃え尽きるその日にいい人生だったと思えるように。

3.あとがき

 5年ぶりに読書感想文を書いてみました。ダイヤのことをこき下ろすような文章になってしまいましたが、優しくて友人思いのダイヤが大好きです。

 目の前の状況を勝手に選択と思い込んで失敗した私と、人生を大きく左右する選択をしたダイヤを比較することは不適切だったように思えてきて反省しています。

 長文を最後まで読んでいただきありがとうございました!

作者さんへ
 独自の解釈が多分に含まれており、本来の意図と大幅に異なる可能性のある解釈をしてしまいました。このような駄文を書いたことをお許しください。

 冒頭の工夫で世界観に引き込まれたまま最後まで目が離せない展開でした。

 「人生をどう選択するのか」という哲学的なテーマを含んでいる点はまさしく純文学で、守備範囲の広さには常々驚かされます。

 改めて執筆お疲れさまでした!


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?