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ほしいまま

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マガジン

  • 眠りを文字で揺り起こす

    夢の復元・再編・再構築

最近の記事

No.6「キ」(2022/7/4)

小さい人たちは小山の陰に住んでいる。 手をたたくと、無音の登場曲に乗って現れる。 小さい人たちは小花柄のワンピースを着ている。 ワンピースの青色は褪せ、桃色の小花はドライフラワーになっている。 小さい人たちは長い金髪である。 毛量は少なく、地肌が白く透けて見える。 小さい人たちは5人いる。 3人は真鍮の乳母車にギュウギュウ押し込められている。 1人は乳母車の前を若々しく飛び跳ねながら、どこにもいない観客を扇動する。 後を歩く1人は苦々しく乳母車を押し続ける。 小さ

    • No.5「針」(2021/6/6)

      太線で描かれた町に来ている。 町といっても山間の、四方を山に囲まれた擂鉢状の小さな集落である。規模は村にも満たないが、昔の名残で「町」と呼ばれている。 この町を訪れる手段は当然バスだけである。細い毛筆で描かれた道路の上を、ゆらゆら走るバスから落とされないよう、集中しているうちに辿り着く。 バスが行ってしまうと、あたりは町の音だけになる。バス停の足元にはコンクリート三面張の川がどうどうと流れ、町の景色の境界になっている。 こちら側の山には広葉樹が茂り、暖かな木の葉ずれが聴こえる

      • No.4「●」(2021/5/20)

        銀座の白い交差点の中央に●が埋まっている。 ●は一定時間じっとして、時折-に変化する。あたかも上空の眩しさを楽しんでいるようだ。 今日の銀座は人がいない。 歩行者天国の歩行者はみんな天国に行き、僕と●だけが残ったのだ。 ●は瞬きをするだけで、干渉も感傷も無い。これはいい。 僕は●を拾い上げ、入念に調べる。これは三十円玉じゃないか。 三十円玉は木耳のようにコリコリとやわらかく、程よい重さがある。 その質感から、腕時計の文字盤にちょうど良いとされている。しかもこれは路

        • No.3「こねこ」(2021/2/13)

          まずは30cmほど浮いてみる。そのままゆっくりと前後左右に進む。よし、大丈夫そうだ。少し高度を上げ、旋回範囲を広げる。うん。問題ない。僕は一度地上に下り、深呼吸する。冷たいクリーム色の空気が胸に染み渡る。 白い山の頂から麓を見下ろす。小さく見える村はかすかに色づき、祝祭の準備をしていることがわかる。僕は嬉しくなり、一気に60mほど浮き上がる。久々の高揚感だ。 胸を開き、両腕を斜め下に向けて伸ばす。全ての指先から白い地上に向けてプラズマを放出する。地上がポコポコと泡立ってく

        No.6「キ」(2022/7/4)

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        • 眠りを文字で揺り起こす
          6本

        記事

          No.2「粒」(2020/11/23)

          「で、どれにする?」 おそらく人間でいうところの親密感を出しながら、“それ”は迫ってきた。 エスカレーターで上り切った3階のTシャツ屋で、僕は迷っている。 その店には色とりどりのTシャツが犇き合うように飾られており、なんなら店外に膨らんで蠢いていた。モノクロームの僕には敷居が高いような、むしろ拒絶されているような気がして、いつもは横目で羨みつつ通り過ぎるだけだった。 しかし今日は、気づくと入店していた。エスカレーターが店内直通になっていたのだ。 初めての店内は、思った以上

          No.2「粒」(2020/11/23)

          No.1「回」(2016/2/16)

          そうだ、あの怪談は面白かった。粘り気のある文体による描写は非常におそろしく、可聴帯域外の低い周波数が耳の裏で常に流れている気がした。あの怪談は確かここに……。 居住区の端の、取壊し寸前の図書館で、僕は目的の怪談を探し当てた。懐かしい背表紙は変わらず壊れかけている。棚から慎重に抜き出す。丁寧にページを捲り、おや、と思う。ページが逆さになっている。 背表紙を確認するが、天地はあっている。再び本を開く。やはりページが逆さになっている。乱丁じゃなかったはずだけど、と訝しみながら本

          No.1「回」(2016/2/16)