にふらむ屋

先日、家でいつものように独りじゃんけんをしていると
ピンポーン チャイムが鳴りまして インターホンの受話器を耳にあてたわけです。
はい どちらさまでしょう
「どうも にふらむ屋です」
にふ… なに?
「『消滅屋』です 消えて欲しい人間はいらっしゃいますか? 迅速かつ的確に消して差し上げます」
何? 消す? え? け、結構です! ガチャリ
なんだよ ワケわかんないな ピンポーン うわあ
ピンポーン ピンポーン ピンポーン ピンポーン ピンポーン
ドアの覗き穴から見てみると 帽子か何か被っているからか 黒い固まりしか見えません 何だこいつは 気持ちの悪い
帰って下さいよ しつこいと警察呼びますよ
「お話だけでも 聞いてみませんか 昨日財布を盗まれたでしょ」
な なんで知ってるんですか 誰にも話してないのに
「御客様には 消えてほしい人間がいらっしゃいますね しかも結構身近に 私には 解るんですよ こうしてドア越しでも 人の心の声が聞けるんです なに 消えてしまえばその人は最初から居なかった事になりますから 消してしまったという事実すらそこには無くなる訳です 元から居ない人間を消すというわけの解らない矛盾も無くなるし あなたの罪悪感もそこにはありません」
なに? なんなんですかあなたは!
「ただ 本気で願えばいいのです その想いに嘘偽りが無ければ あなたにとって消えて欲しい人間を消しましょう」
別にいないわけじゃないですが 人としてそんな事できません!
「だから 言っているでしょう 消した人間は存在そのものも無かった事になる と 誰が罪悪感を抱くわけでもなく 誰も悲しまない あなたすらその事実を知らないまま これからの人生を送るんです 代償は 月並みですがあなたの寿命を頂きます 消した人間の残りの寿命の半分ですがね おかげで わたしはもう かれこれ450年ほど生きています」
だからって 駄目ですよ 絶対駄目です そんなこと
「なに 100歳が70歳になってもいいじゃないですか 消したい人間が周りにたくさんいらっしゃるでしょう? 仕事の後にあなたを犯して その様子を撮ったビデオを売っているバイト先の店長とか」
うわあ なんで なんで知ってるんだ なんなんだあんた
「心が読めると言ったでしょう? 同級生に体育倉庫で両手を縛られて裸にされて 性器に落書きされたり 針を刺されたり 写真を撮られたり あげくの果てには見つけた体育教師があなたを」
やめろ それ以上言うな 消えろ! おまえが消えろ!
最初から誰もいない ドアの外 胸を抑えて倒れている僕 ドアの内。

2009年06月09日

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