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うるう年と年齢の数え方

 筆者は最近20歳になったのですが、年金番号の通知書の交付の日付が誕生日の前日になっていました。国民年金の被保険者となる20歳が基準となるならば、日付は誕生日であるのが自然なはずです。一体なぜなのでしょうか。

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新年度

 ”年度”とはいつからいつまでですか?と問われたら、ほとんどの人は「4/1から翌年の3/31まで」と答えるでしょう。正解です。日本において、会計上その他諸々の年度はこのように定められています。
 では2つ目。例えば今年、2024年4月に小学校に入学する児童は何月生まれが対象でしょう?

 答えは、2017年4月2日~2018年4月1日に生まれた人、が正解です。

1日ズレている

 え?と思われた方も多いでしょう。年度とは異なり、4/1と4/2の間で区切られます。このため2018年4月1日に生まれた人は2025年4月小学校入学ではなく、2024年4月小学校入学となるのです。なぜこんなことになるのでしょう?

歳をとるタイミング

 こうなった理由は歳を取るタイミングにあります。歳を重ねるのはその人の誕生日だとお思いの方も多いでしょう。では、誕生日の何時に歳をとるのでしょうか。出生時刻?出生時刻が定かでない人は?

 と混乱してしまうので、ちゃんと法律で年齢の数え方、すなわち歳のとり方が定められています。

 それが1902年に施行された「明治三十五年法律第五十号(年齢計算ニ関スル法律)」というものです。内容はとてもシンプルで三条しか存在しません。

 年齢ハ出生ノ日ヨリ之ヲ起算ス
 民法第百四十三条ノ規定ハ年齢ノ計算ニ之ヲ準用ス
 明治六年第三十六号布告ハ之ヲ廃止ス

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=135AC1000000050 

 第一条では、生まれたその日を0歳とし、そこから年齢を数え始めますよ、と書いてあります。当たり前と思われる方も多いかもしれませんが、当時はまだ数え年が一般においては用いられていたので、公的には一切これを使いません、と明言しているのです。もっとも1950年に「年齢のとなえ方に関する法律」が施行されるまでは、まだまだ数え年が使われていたそうです。

 ちなみに、現代において唯一数え年を用いている韓国では、最近公的には満年齢、つまり我々が今使っている年齢の数え方に統一する法律が成立したそう


 そして今回のテーマと大きく絡んでくるのが第二条。民法第143条の規定に基づき年齢を計算する、とあります。民法第143条の条文がこちら。

第百四十三条 週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。

 週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089 より一部改変

 大事なのがこの太字部分。

 数え始めが中途半端なタイミングである時には、その1つの周期は数え始めた前日で終了しますよ、言っています。例えば、8/1から1年をカウントする場合、7/31がその1年の最終日となるわけです。

 ここで年齢の話に戻りましょう。8/1生まれの赤ちゃんは8/1から0歳の1年間をスタートさせます。故に0歳の1年間は7/31に終了するわけです。もっと細かく言えば、7/31の23:59から24:00になった瞬間に終了と解釈できることになります。そして、0歳の1年間が終わった瞬間に1歳となり、そして1歳の1年間が始まります。

 つまり、歳を重ねるタイミングは、誕生日の前日の24時になる直前、と言えるわけです。

 冒頭の国民年金の加入の日付が誕生日の前日だったのもこのせいです。


 では、4/1生まれの人に当てはめて考えてみましょう。先程説明した通り、この人が歳をとるのは3/31です。そして学校教育法により小学校に入学するのは満6歳になった次の日の4/1とされていますから、結果として4/1生まれの子がその学年で最も年下の児童になるのです。

うるう年のせい?

 では、なぜ年齢の計算方法がこのように定められているのでしょうか。

 それはうるう年、もっと言えば2/29生まれの人たちへの対応策であるとするのが一般的です。ご存知、うるう年は地球の公転(太陽暦)と我々が日常で使用するカレンダー(グレゴリオ暦)とのズレを調整するための制度で、4年に1度、2月に29日を設けて1年を366日とするものです(本来はもっと複雑な制度なのですが今回は割愛します)。今年、2024年がまさしくそうですね。


 もし、例えば誕生日当日の正午に歳を重ねる、といった制度であったとしましょう。そうなると、2/29生まれの人たちは4年に1度しか年齢を重ねません。同級生たちがお酒が合法化されたと騒いでいる時にようやく5歳となるのです。どう考えても制度上不都合でしかありません、異常なバグです。

 では、民法はそんなバグにどう対応しているのか。先に引用した第143条には

 ただし、月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089

とあります。うるう年でない年では、2/29は存在しませんから応当する日が無いことになり、この但書が適応されて2月の末日である28日の24時をもって歳をとることになります。
 3/1生まれの人は、3/1の前日 ーうるう年であれば2/29ですし、そうでなければ2/28ー の24時に歳をとることになっていますから、これで矛盾なくバグの回避に成功しています。法律考える人って頭良いですよね。


学校だけではない

 今回は学校関係に焦点をあてましたが、「年齢計算ニ関スル法律」は年齢に関するあらゆる制度に影響しています。今回引き合いに出した保険関係もそうですし、手当の計算や選挙権の有無にも影響してきます。このために、自身の直感とはズレる結果になることもありますが、こればっかりはどうしようもないのかなと感じています。自身が当事者になった時はそのつもりでいるしかないのかもしれません。

 ちなみに、「年齢計算ニ関スル法律」における年齢計算の時刻について、公職選挙権に関しては「18歳の誕生日前日の午前0時をもって選挙権を獲得する」と解釈されています(昭和54年11月22日 大阪高裁判決)。なお、判決当時は選挙権獲得は20歳でしたが、現在は18歳に引き下げられましたので読み替えています。
 素直に法律を読めば前日の24時のような気がするんですが、18歳の誕生日前日の満了を待たずして選挙権を獲得するとされています。例外の一つとされています。


”早生まれ”

 ここから先は余談です。早生まれ、1~3月生まれの人たちを指す言葉ですが(当然4/1生まれも含む)、筆者もここに該当します。幼少期ほど1年の差というのは大きく、早生まれにスポーツ選手が少ないのも有名な傾向です。

 これが4/1生まれとなれば体格差は相当なもので、実際筆者の祖父が4/1生まれなのですが、相当苦労したようです。最近では、文科省に対して対応を求める動きもあるようですが、小学校受験が生まれ月を考慮してくれているように、何かしらの救済措置があれば良いなと感じます。


参考文献

4月1日生まれの児童生徒の学年について - 文部科学省

うるう年をめぐる法令 - 参議院法制局

4月1日生まれの子どもは早生まれ? - 参議院法制局

年齢の計算に関する質問主意書 - 衆議院

年齢計算について - 秋田市

昭和54年11月22日 大阪高裁判決 - 裁判所

 ヘッダー画像:みんちりえ( https://min-chi.material.jp/


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