見出し画像

生成AIとファッションデザイン(前編)

昨年は年明け早々、ChatGPTが大きな話題となり、様々なメディアが生成AIを特集するなど、正に生成AI一色の年でした。

マッキンゼーの分析によれば、生成AIは今後3~5年で、アパレル、ファッション、ラグジュアリーの分野の営業利益に1500億ドルから2750億ドル(慎重に見積もって)を加える可能性があるとのことです。

さらに、ファッションの領域において生成AIがもつ潜在価値の四分の一は、デザイン・企画での利用によって解き放たれるとのことです。(出典元:The state of fashion 2024 BOF)

毎週のように新しいニュースが出るほど急速に進化している生成AIですが、しっかりと動向を把握できている人は多くないのではないでしょうか。

ということで、ファッションデザイナーや企画担当者向けに、改めて、生成AIがもたらすであろう変化と想定されるリスク、そして実際のユースケースについて整理し、まとめてみたいと思います。

この記事「生成AIとファッションデザイン(前編)」では、まず、クリエイティブプロセスにおいて生成AIがもたらすであろう変化に焦点を当てます。

リスク、実際のユースケースにフォーカスした記事は、それぞれ別の記事で改めて書きたいと思います。



生成AIがもたらすもの

生成AIとファッションについての記事(大体が海外のメディア)に一通り目を通したところ、クリエイティブ領域におけるキーワードとしては、「バリエーション」「高速ビジュアライゼーション(視覚化)」「アイデアの量産」といったところが挙げられます。

AIを搭載したプラットフォーム上に、スケッチや生地、カラーパレット、パターンといったディテールを入力すると、デザインが次々と生成され、デザイナーは膨大なバリエーションのスタイル、ルックを短時間で試すことができるという具合です。

画像の引用元:CALA(https://ca.la/)

例えば、ChatGPTで知られるOpenAIの画像生成AI「DALL-E(ダリ)」を搭載した「CALA(カラ)」というファッション業界向けのプラットフォームがありますが、この「CALA」では、テキスト(プロンプト)の入力で瞬時にデザインを生成したり、アップロードしたアイテム画像から、そのアイテムのバリエーション案を生成することもできます。

つまり、圧倒的な「量」と「スピード」をもたらすのです。

これは、従来の「デザイン画を描く→サンプル製作(実物)→チェック」という流れが「デザインイメージの言語化→画像生成AIに出力させる→(膨大な量の画像から)選ぶ」という流れに変化する可能性を感じさせます。

費用をかけてサンプルを製作することなく、いくつものデザインバリエーションを試し、クリエイションのプロセスが劇的に加速するのであれば、当然と言えるでしょう。

こうなると、デザイナーの業務と求められるスキルも変わっていくことが予想されます。

あるメディアの記事では、「デザイナーはAIをアシスタントとして使いこなすクリエイティブディレクターのようになる」と予測していましたし、マッキンゼーのレポートでは、“collaborating with AI agents”(=AIエージェントとの協働)という表現が使われていました。

もし実際にそうなるのであれば、AIがアシスタントの役割を担うことから、アシスタント職が消滅もしくは減少することが容易に想像できますが、それ以上に、デザイナーの役割そのものが変わると考えられます。


生成AIによって変わるデザイナーの役割

デザイナーが生成AIを業務レベルに取り入れるのであれば、デザイナーの作業は、プロンプティング(AIへの命令)、(AIの生成する)アイデアの改善とキュレーション、テクニカルデザイン(仕様の決定)に集約されるのではないでしょうか。

このうち、テクニカルデザイン以外は、専門的な知識を持たない一般消費者でも可能な作業であり(少なくとも質の高さを求めなければ)、デザイナーの意義が問われる気がします。

と言うのも、例えば、消費者にAIツールを使ってデザイン(イメージのみ)を生成させ、ブランド側のデザイナーがパターンや構造、仕様を考え、最終的な製品に落とし込むといったことも可能になるからです。

実際、先ほど言及した「CALA」では“ゴーストデザイナー”と呼ばれるデザイナー達がこうした作業を担っているようです。

Instagram上でAIを仕様して生成したファッションを日々投稿している、AIアーティストのField Skjellerup(アカウント名:@ai_clothingdaily)氏は、「デザイナーと消費者の役割が曖昧になっていくだろう」と述べています。

例えば、米国のファッションEC企業「Revolve(リボルブ)」は、AI Fashion Weekというコンテストの入賞者のデザインを実物で商品化し、自社のプラットフォーム上で販売しています。

RevolveはAIデザイナーが自分のブランドを展開するためのインフラのような役割も担っており、デザイナーは、プロダクトの生産、ウェブサイト構築、マーケティング、カスタマーサービス、返品対応などをRevolveに任せ、クリエイションに集中できます。

こうしたプラットフォームの存在によって、生成AIを使いこなすことさえできれば、誰でも簡単にブランドを立ち上げ、商品を販売することができるのです。

別の例では、米国のブランド「Tommy Hilfiger(トミーヒルフィガー)」が昨年のMetaverse Fashion WeekでAIコンテストを開催し、入賞者が生成AIを使用してデザインしたデジタルアイテムをDressX(ドレスエックス)上で販売しました。

また、生成AIは将来的にブランド側のデザインチーム編成にも変化をもたらす可能性が高いです。

従来では、所謂「ディレクター」と呼ばれるデザインチームを統括する人がいて、その下にデザイナーが複数名という構成が一般的だったと思います。

しかし、これからは生成AIを使いこなすディレクターとテクニカルデザイナー(仕様書を作る人)が一人か二人、もしくはディレクターと生成AIを使いこなすデザイナーが一人、テクニカルデザイナーが一人といった構成でも十分成立するようになると考えられるからです。

こう考えると、ファッションデザイナーは最終的に、生成AIを使いこなすことができるディレクターか、ディレクターの指示の下、AIの生成するイメージを製品デザインに落とし込むテクニカル専門のデザイナーの2択になっていくのでは?という気がします。


生成AIをクリエイティブプロセスに取り込むブランドが増加すると…

さて、生成AIは「量」と「スピード」においては革命的と言えますが、「オリジナリティ」という観点ではどうでしょうか。

そもそも既に世の中に出回ったモノのデータを基に生成される訳なので、「売れるデザイン」という観点では大きな期待が持てますが、「オリジナリティ」という観点では疑問が生じます(プロンプト次第で人間が思いつかないようなデザインが生まれる可能性はあるのかもしれませんが)。

同じ画像生成AIを使用して同じようなプロンプトを入力すれば、基本的には出力されるイメージも同じようなものになるはずだからです。

特にトレンドを表す言葉(クワイエットラグジュアリーなど)やトレンドとなっているアイテム名(もしくは画像)などは皆が入力する可能性が高く、世界中が今まで以上に同じようなデザインの商品で溢れることが容易に想像できます。

また、異なるモデル(の生成AI)や独自のモデルを使用しても、学習させる内容が同じなら出力も似たものになるのではないでしょうか。

例えば、今月はミラノやパリでファッションウィークが開催されていますが、ここで披露されるのは来年の秋冬コレクションです。

各ブランドのルックは、即ファッションメディアにアップされますから、それらを重点的に学習させたAIモデルを使って生成したデザインの商品を来年の秋冬までに製造し、販売するということも難なくできてしまう気がします。

こうなると最終的に、生成AIによるデザインはファストファッションのように消費され、陳腐化していくということを考えずにはいられません。

したがって、既に世に出たデザインにフォーカスして訓練されたモデルに依存し過ぎるのは、クリエイティビティやオリジナリティという観点からは望ましくないと言えます。

生成AIが出力するデザインは、あくまでインスピレーションの一つとして批判的に捉えるくらいのスタンスが丁度いいのかなと個人的には思います。

一方、生成AIによるデザインが増えれば増えるほど、その反動として人間によるデザインに価値が生まれ、人間がデザインしていることを強くPRする(例えば、デザインプロセスを公開するなどして)ブランドも現れるでしょう。

特にラグジュアリーブランドなどは、製品が人間によってデザインされていることを、うまくストーリー仕立てでアピールすることが効果的に思えます。

そして最終的に、コマーシャルなデザインにはAI、差別化とブランドのイメージング(ブランディング)目的には人間というように使い分けることで落ち着くのかなという気がします。

この「AIの創作(生成)物と人間の創作物の価値」については、「生成AIで世界はこう変わる(SB新書)」という本の第4章に興味深い内容が記載されているので、興味のある方は是非読んでみてください。

以上を踏まえると、ラグジュアリーブランドやデザイナーズブランドよりも、トレンド重視のコマーシャルブランドの方が、生成AIへの依存度が高くなることが予想されます。

但し、生成AIを使いこなし、「どこかのブランドっぽいデザイン」を量産できるようになったところで、“本物の”ブランドにしていくのは非常に難しく、結局はこれまでに築き上げたブランドの強さが物を言うということは間違いないでしょう。


※ note、X(twitter)ともにアカウントを開設したばかりなので、フォローしていただけると助かります。よろしくお願いします。

X(twitter)アカウント → https://twitter.com/catalystylisme



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?