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専門家の考える画像生成AIプラットフォームの適性、ファッションデザイナーに求められるスキルの多様化などについて

先日、米国のオンラインファッションメディア「The Business of Fashion」が、どのようにアパレル企業は生成AIを業務に取り込むことができるかというテーマで作成したレポート「Incorporating Generative AI Into the Fashion Workplace」を公開しました。

その中から、画像生成AIに関連した箇所や求められるスキルなど、デザイナーに役立つと思われる部分を抽出して紹介します。



専門家の考える画像生成AIプラットフォームの適性

まずは、画像生成AIプラットフォームについて。

AI画像とブランドのビジュアル表現を専門とするクリエイティブエージェンシー「Copy Laboratory」の創設者でありクリエイティブディレクターのCarl-Axel Wahlström氏は、過去数年において様々な画像生成プラットフォームを試用してみた結果、OPEN AIの「DALL-E(ダリ)」が最も複雑さの少ないプラットフォームであると、レポート内で提言しています。

「DALL-E」の大規模言語モデル(LLM)が、より使い易いものであり、生成画像が過度に “歪む” ことがないから、というのが理由です。

また、「DALL-E(ダリ)」で入力するプロンプトを、文章生成AIの「ChatGPT」に出力させるというように、ペアで利用することもできると述べています。

反面、「DALL-E」にはクリエイティブなアウトプットという観点では限界があるとも指摘。

よりアーティスティックさを求める人は「Midjourney(ミッドジャーニー)」を選ぶのが良いかもしれないが、現在「Midjourney」はDiscordサーバー上でしかアクセスできない上、プロンプトエンジニアリングをしっかりと把握している必要がある(前述した、プロンプトをChatGPTに提案させるという方法もある)、と続きます。

参考までに、こちらの記事で紹介した「CASABLANCA」や「G-Star Raw」のキャンペーンでは「Midjourney」を使用したようです。

加えて、よく引き合いに出される画像生成AIが「Stable Diffusion(ステーブル ディフュージョン)」で、その複雑さ故に、Wahlström氏はStable DiffusionがプロのAIデザイナーには最も適していると言います。

デザイン誌AXISの2024年2月号でも、「Stable Diffusion」について、

“ある程度高い品質が期待できるからこそ、ライゾマティクスやnoizといったクリエイターが仕事に活用し、アサヒビールやホンダといった企業もプロモーションなどで活用している。”

と書かれており、実際にプロのクリエーターが実務で使用していることが分かります。

更に、「Stable Diffusion」を提供するStability.AI社について、

“同社では2023年後半から日本語や日本の文化風習を学習した生成AIモデルの開発に力を入れている。他の多くの生成AIは米国を中心とした英語圏のデータを中心に学習しており、人を描かせても西洋人などの絵に最適化されていることが多いが、日本市場向けにカスタマイズされたJapanese Stable Diffusion XL(JSDXL)で描画すればより自然に日本人らしい顔の人物を描画することができる。”

とあるので、日本人にとっての使いやすさという観点でも優れているのでは?と期待させます。

これら以外に、Wahlström氏は、デザイナーが服のデザインと生産の面で比較的使い易いプラットフォームとして、「Cala」と「Raspberry AI」の2つを挙げています(「Cala」は「DALL-E」のAPIを使用)。

また、現在では多くのデザインチームが、「Clo3D」、「Browzwear」、「Rhino」、「Keystone」などの3Dソフトを使用してデザインを視覚化しており、その中には既にAI機能を統合しているものや、これから統合していく可能性のあるものも少なくないとしています。

専門家であるWahlström氏の考えを踏まえると、初心者は、まず「DALL-E」でChatGPTとペアで使用するところから始め、プロンプトと出力の感覚を掴む。そして、慣れてきたら「Midjourney」や「Stable Diffusion」にチャレンジし、自分に合ったものを使う。もしくは用途によって使い分ける、というのがベストな気がします。


多様化するデザイナーに求められるスキル・知識

新しいテクノロジーやソフトウェアが登場すれば、それらを使いこなすスキルを持つ人が求められるのは当然です。

レポートでは、最近の生成AIの進化によって、これから求人の応募要件も生成AI関連のスキルを反映するようになっていくが、求められるスキルと実際の人材が持つスキルの間にギャップが生じると指摘しています。

今日では、デザイナーはCADや3Dデザインソフトの使用経験を求められるケースが少なくないと言います。

例えば、米国のブランド「Tommy Hilfiger」のデザイナー職の求人では、「Browzwear 3D」というソフトウェアを使用できることが “advantageous(=優遇)” と記載されているようです。

また、「Casablanca」は、「Rhino」や「Keyshot」といった3Dレンダリングソフトのスキルを要求しているとあります。

AIについてだけでなくファッションやビューティー、ラグジュアリー業界に対して理解があり、且つAIを使いこなすスキルがあるクリエイティブ人材は、そう見つからない。

こうした状況を、「Moncler(モンクレール)」、「Revolve(リボルブ)」、「Zara(ザラ)」といった企業をクライアントにもつAIに特化したクリエイティブエージェンシー「Maison Meta」の共同設立者であるCyril Foiret氏は、“市場の穴”と表現しています。


画像生成AIの利用に関するプチアドバイス

Foiret氏は、画像生成AIを使用する上での注意点とデバイスについても言及しています。

生成AIプラットフォームを利用する場合、著作権という問題を考慮すると、Photoshopで調整するなどして、生成画像に人間の手を加えることでオリジナリティを確保することを勧めています。

更に、WindowのPCは、GPUを使うハードウェアとしてより良い選択肢であると指摘。

「MacでGPUを使うこともできるが、一つのイメージが生成されるのに1分半かかる。一方、WindowsのPCでは30秒で4つのイメージが生成可能。」と述べています。


雑感

パターンや生産に関する知識やPhotoshop、Illustratorといったグラフィックツールに加え、生成AI、3Dソフトを使いこなすスキルなど、明らかに一昔前よりも多くのスキルが求められるようになってきていると感じます。

これらを全て習得するのは簡単ではないですが、使いこなせるようになれば市場価値は大きく上昇するのではないでしょうか。

また、市場価値が上がるだけでなく、業務プロセスのスピード感やアウトプットの量も飛躍的に改善することが期待できます。

一方、生成AIプラットフォーム(特に画像)の選定とハードウェアも重要になりそうです。

どのプラットフォームを使うべきか(どういう目的での使用に、どのプラットフォームが適しているか)という点や、プロンプトの技術などについてはSNS等で日々情報に触れることが必要でしょう。

ハードウェアに関しては、これからは今までよりも遥かにお金がかかりそうな気がします。

PCにスペックを求めればそれだけお金もかかるのは当然で、ハイスペックPCに加え、Vision Proも必要になってくるのであれば、ハードウェアだけで100万近くかかるようになってしまいます(為替が円高に振れてくれれば多少安くはなるかもしれませんが)。

そうなると、個人の中でも資金の有無によって、できることにかなり差が生まれ、それが更なる格差を生むかもしれません。

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