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ドラクエ的キャリコン 第1回「LV20武闘家の転職相談」(キャリアカウンセリング入門)

 ドラゴンクエストの世界観をお借りして、来談者の相談に対して、どのようにキャリアカウンセリングを行うのか、その基本に触れてみます。
 この記事は、特に、キャリアコンサルタントを目指す方、中学校や高等学校の教員を目指す方、進路指導主事の方に向けた内容になっています。
 逐語記録はstand.fmと連動して構成しています。

1.はじめに

 「キャリアカウンセリング」とはキャリアコンサルタントが行う仕事の一つで、自分のキャリアをどうするのかというところに重きを置いたカウンセリングです。
 今回の逐語記録は、ダーマ神殿に訪れたレベル20の武道家さんのキャリアカウンセリングです。逐語記録に記述されている丸数字は、対話番号で、後掲の解説で使用します。

2. 逐語記録

来談者:男性、20歳
職業 :武闘家
主訴 :仲間のために転職したほうがいいのか

CC①:
 こんにちは、キャリアコンサルタントの cc.くつひもと言います。今回、このキャリアカウンセリングを受けるにあたって、お話しされたことはここだけにしますので、どうか気楽に色々お話ししていただきたいと思います。さて今日はどうされましたか。

CL(来談者)①:
 自分、武闘家なんすけど、転職しようかどうか迷ってて。ダーマ神殿の神官に、それなら隣の部屋にいるキャリアコンサルタントに話し聞いてもらえばいいって言われたんすよね。

CC②:
 なるほど。転職しようかどうか迷ってるんですね。

CL(来談者)②:
 そうなんっす。パーティーの中で、結構成長遅いのか、周り、みんなもう21とか22になってるのに、自分ようやく20になったばっかなんすよね。それに鉄の爪、これしか持ってないし。同じ仲間の戦士さんとか、なんか、かっこいい武器持って、良いなと思っちゃうんっすよね。

CC③:
 同じパーティー内の戦士さんの武器がいいなあと。武闘家さんは、鉄の爪しか持てないっていうこと、それが何か気になるんですね。

CL(来談者)③:
 いや・・・、なんていうかな。素早さしかないし。なんか、これといって取り柄もないし。パーティにいても、なんかうまく活躍できないかなと思って。

CC④:
 なるほど・・・。パーティーにいても活躍できないなあ、どうしたらいいかな、っていうことなんですかね。

CL(来談者)④:
 そうなんっすよ。だって鉄の爪ですよ、鉄の爪。戦士さんのように、剣とか持ちたいじゃないっすか。でも、自分、剣とかを持つと、なんか弱くなっちまうし。みんなのために、もっとできないかなって思って。

CC⑤:
 なるほど。武闘家さんは、みんなのために何かしたいな、という気持ちから、もっと強い武器を持ちたい。そういうように思ってるんですね

CL(来談者)⑤:
 そうれに、この前、イシスのピラミッドで黄金の爪ゲットしたんっすけど。なんか、めっちゃモンスターに遭いやすくなっちゃって・・・。みんなに迷惑かけちゃったから、黄金の爪捨てちゃったんっすよね。したら、なんか、もういいかなーって思っちゃって。

CC⑥:
 なるほど。黄金の爪を持った時にも迷惑をかけたし、迷惑をかけたから、ちょっと居場所もないなって、お感じだったんですね。

CL(来談者)⑥:
ええ。そしたら、もう転職して、なんか、もっとみんなのために役立つような職業に就いたらいいかなと思って。

CC⑦:
 なるほど、みんなのために役立ちたいという気持ちが、本当にお強いんですね。みんなのために役立つためには、転職しかないんですかね。

CL(来談者)⑦:
 そうなんっすよね。ちょっと、それがわかんないから、どうしようかなーって、思っちゃってるんです。

CC⑧:
 なるほど。じゃあ、みんなのために役立ちたい、という気持ちをもう少し教えていただけませんか。

3.振り返り

 キャリアコンサルタントは、キャリアカウンセリングを通して、クライエントが感じている気持ちや思いに寄り添います。そして、そのクライエントがどのように、自分のキャリアを高めていくのか、または変えて行くのか、クライエント自身が気付けるように、カウンセリングをします。
 カウンセリングの基本は、傾聴です。クライエントがどのような話をされているのか、丁寧に耳を傾けて、クライアントさんに寄り添っていきます。
 今回は僕の好きなRPGの一つ、ドラゴンクエスト3をモチーフにキャリアカウンセリングのロールプレイを取り扱いました。実際のキャリアカウンセリングのイメージを持っていただければ嬉しく思います。

4.今回のキャリアカウンセリングのポイント


 初回の来談者に対して、まずはクライエントが話しやすい雰囲気を作ることが最も大事です。キャリアコンサルタントとクライエントの信頼関係が築けている状態を「ラポール」と言いいます。クライエントさんが安心して話せる関係をまずは目指します。

 逐語記録を読み返してみましょう。
 まず、CC①は、安心して話してもらうための約束を伝えています。守秘義務が大前提ですので、最初にそれを伝えています。
 次に、CC②〜⑤は、クライエントの話をおうむ返ししています。クライエントは何を訴えたいのか、心の奥底にある自分と向き合えるように、キャリアコンサルタントは話を受け止めす。その受け止めたことを確認するように、おうむ返しを通して、クライエントとのラポールを作っていきます。

 クライエントの立場では「話しやすい人だな」という感じがして、次第に武闘家として悩んでいることを打ち明けやすくなったと思いました。

 CL(来談者)⑤では「みんなに迷惑かけちゃった」という言葉で、クライエントの強い感情の発露が見られました。この言葉を受けて、CL⑥で「迷惑をかけたから、ちょっと居場所もない」と、キャリアコンサルタントが感じたクライエントの気持ちを言い換えしています。
 これをリフレーミングと言います。ここのポイントは、あくまでもクライエントの気持ちを整理して、その中に含まれる感情を明確化することです。キャリアコンサルタントの思い込みを排して、キャリアカウンセリングに臨むことは、最初は難しいですが、傾聴のトレーニングを通して、クライエントの鏡にキャリアコンサルタントがなっているイメージを持つと良いでしょう。
 CC⑦で、クライエントの主訴が「みんなのために役に立ちたい。そのためにどうしたら良いか」と明確化しました。ただし、キャリアコンサルタントとして言葉に整理したことがクライエントと一体化しているか、確認します。キャリアコンサルタントは、あくまでもサポーターであってアドバイザーではない、その気持ちを持つことが重要です。

 クライエントは「そうか、転職したいという悩みではなく、パーティーの中で役に立ちたい」という自分に気付きました。キャリアコンサルタントと話をしているというより、自分自身の考えが整理されて、すっきりしました。

 今回のスキルアップのポイントは、「傾聴とおうむ返し」です。キャリアコンサルタントは、クライエントの言葉を返しながら、クライエントの鏡になるように、クライエントが紡いでいる言葉に含まれる感情をイメージしておうむ返しをしてきます。
 このとき、キャリアコンサルタントとしては、クライエント自身で感情に気付くように、寄り添う気持ちが大切です。クライエントの気持ちを引き出してあげよう、というようなキャリアコンサルタント自身が導くものではありません。「傾聴とおうむ返し」のスキルは、カウンセリングの基本スキルではありますが、キャリアコンサルタントが主導するようなスキルだと誤解しないでください。

 それでは、次回をお楽しみに。 → 第2回「旅立ちのLv1勇者編」


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