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ゲラシモフ参謀総長演説「軍事戦略発展のベクトル」(2019年3月4日)

「軍事戦略発展のベクトル」『赤い星』2019年3月4日

 ロシア連邦軍参謀総長のワレリー・ゲラシモフ上級大将が軍事科学アカデミー総会に出席した。
 同会は、現代的条件下における軍事戦略の発展についての軍事科学カンファレンスという形で実施された。開会の挨拶を行なったのは軍事科学アカデミー総裁であるマフムート・ガレーエフ上級大将(訳注:退役)である。参加者は軍事科学アカデミー会員、国防省幹部、大統領府・下院・上院の代表者、その他科学アカデミーや大学、国防科学研究機関の主だった研究者たちであり、将来の戦争や軍事紛争の性格、より差し迫った国防上の問題について話し合った。
 ロシア連邦軍参謀総長兼ロシア連邦国防省第一次官であるワレリー・ゲラシモフ上級大将は、軍事戦略発展の基本的な方向性と軍事科学の課題について報告を行なった。
(訳注:以下、ゲラシモフ将軍の発言)

軍事的脅威の変容

 例年の軍事科学アカデミー・カンファレンスは、軍事科学上の喫緊の課題や難題に関する軍事専門家諸氏の意見交換の場であることを伝統としています。本質を突いた対話の成果は軍事科学のさらなる発展の方向性を規定し、その結果はロシア内外で広く議論の対象になります。
 今年は、現代的条件下における軍事戦略発展の問題を検討したいと思います。
 科学としての軍事戦略、すなわち「戦争遂行のアート」は前世紀の初めに生まれ、戦訓の研究を通じて発展してきました。総じて言えば、戦略とは「戦争の予防、準備、遂行に関する知識と行動のシステム」です。
 今日、戦争の種類は拡大し、その内容も大きく変化しています。軍事紛争に関与する主体の数は増加しています。主権国家の軍隊と並んで、様々な武装組織、民間軍事会社、他国から国家承認を受けていない「擬似国家」が戦うようになりました。
 経済・政治・外交・情報上の圧力手段が活発に使用され、軍事力は非軍事手段の効果を高めるために誇示されます。軍事力が行使されるのは、非軍事手段では所期の目的が達成できなかった場合です。
 こうした中で、ロシアの地政学的競合相手たちは、地域紛争以外の場でも自らの目的を達成しようとしていることを隠さなくなりました。彼らは、活発な情報敵対行動を取りつつ、空中・海洋・宇宙から発射される精密誘導攻撃手段を用いて「高度の技術力を有する敵」と戦争を行うと言っています。
 このような条件下において、我が軍は新しいタイプの戦争および軍事紛争への備えとして、古典的活動能力と非対称の活動能力を整えねばなりません。したがって、軍事戦略の理論と実践に関する第一の意義は、多様な敵との戦争遂行に関する合理的な戦略の追求ということになるわけです。
 我々は、軍事戦略の本質と意義、戦争の防止・準備・遂行に関する原則を明確にしなければなりません。これが我が軍の運用に関する形態及び手段のさらなる発展(特に戦略的抑止力に関するもの)と、国防組織の改善につながってくるのです。

基本的な戦略概念の発展

 軍事戦略の発展過程においては、いくつかの発展段階が生じました。「殲滅戦略」や「飢餓戦略」から、「世界戦争」や「核抑止」へ、そして「非接触行動」へ。米国やその同盟国は、自国の対外政策における攻撃的なベクトルを規定してきました。「グローバル攻撃」とか「マルチドメイン・バトル」といった攻撃的性質の活動は彼らが生み出したものであり、「カラー革命」や「ソフト・パワー」などの技術を活用してきたのも彼らです。
 それらの目的は、気に入らない国の政府を破壊し、主権を毀損し、合法的に選ばれた政府機関をすげ替えることです。イラク、リビア、ウクライナがそうでした。現在、同じような動きがベネズエラで見られます。
 ペンタゴンは、抜本的に新しい戦争遂行の方法を発明するに至りました。「トロイの木馬」として知られるものです。
 その要諦は、情勢を不安定化するために「第五列の抗議ポテンシャル」を活発に利用しつつ、同時に精密誘導兵器を最重要施設に対して使用するというものです。
 申し上げておきますと、ロシア連邦はこのような戦略のどれに対しても対処する準備ができています。過去数年間、軍事専門家たちは参謀本部とともに仮想敵の侵略行動を中立化するための概念的アプローチを策定してきました。
 「我が対抗手段」の基礎は、「アクティブ・ディフェンス」です。ロシアの「軍事ドクトリン」における防衛的性格に鑑み、国家安全保障の脅威に対する先制的な中立化の措置が見込まれています。
 策定されつつあるこれらの措置は、軍事科学者諸氏の研究活動によって裏付けられなければなりません。我々は軍事戦略の発展において敵に先行している必要があります。「前進」であります。

理論と実践の合一

 科学としての戦略の発展は、次の2つの方向性に沿ったものでなければなりません。それは、戦争に関する知の体系の発展と、戦争の予防・準備・遂行に関する実践的活動の改善です。
 軍事戦略の研究は、武力闘争を戦略レベルにおいて対象とします。現代の紛争に新たな闘争手段が出現したことにより、一国の中で政治・経済・情報その他の非軍事手段が軍事力とともに複合的に使用されることがますます増えてきました。
 しかし、軍事戦略の主たる内容は、第一に、軍隊による戦争の準備及び遂行に関する諸問題であります。つまり、我々は戦争の趨勢と帰結に影響するその他全ての非軍事手段について研究し、軍事力の効果的な使用のための条件を創出しようというわけです。
ここで認識しておかねばならないのは、各ドメインにおける敵対活動は、それぞれ独自の「戦略」を伴った個別の活動分野、活動手段、そのための資源を提供するものであるということです。共通の目的を達成するためには、我々はこれら各ドメインを別個に直接管理するのではなく、それらを協調させるべきなのです。
 戦略は、将来の戦争に関する性質の予測、その遂行に関する新たな「戦略」の策定、国家と軍が一体になった戦争への備えに注意を払う必要があります。これについては、研究課題のリストをアップデートし、研究活動に新たな方向性を追加していくことが求められます。
 軍事戦略のこの部分に関しては、なんといっても参謀本部アカデミーが軍事科学アカデミーとともに音頭をとっていく必要があります。
 これらの諸問題をより効果的に検討していくためには、国防省の全ての研究機関と関連する連邦行政機関の全ての研究ポテンシャルを巻き込むことが求められます。実践が示すとおり、困難な課題は学術界と実務者の対話において話し合い、テーブルを囲んで検討すべきです。そうして初めて軍事戦略の理論と実践の分野に新たな結果をもたらすことができるのです。

戦争の予防・準備・遂行に関する原則

 戦争の性質とその準備及び遂行に関する条件が変化する中で、戦略の中のある原則は通用しなくなり、また他の原則には新たな内容が盛り込まれるようになります。
 戦争の予防に関する原則は、軍事的危険性及び脅威をリアルタイムに発見し、それらに対応することを目的として軍事・政治的及び戦略的環境の展開を予測することであると結論づけられます。
 戦争に対する事前準備の原則は、軍の常時戦闘即応態勢と動員準備態勢、そして戦略予備及び後備の維持によって実現します。
 現代的な条件下においては、軍の役割を果たすために軍事手段と非軍事手段の使用を協調させることが戦争遂行の原則を発展させる鍵です。
 何よりも重要なのは、戦略的行動が意外で、決定的で、連続的であるようにしておくことです。
 迅速な行動により、我々は自らの予防的措置によって敵の機先を制し、敵の脆弱点をリアルタイムに発見し、敵に対して耐え難い損害を与えられる攻撃の脅威を作り出さねばなりません。戦略的イニシアティブを奪取し、維持することがこれを可能ならしめます。
 有効かつ裏付けのある新たな原則を確立するための作業は、全ての科学コミュニティの力を結集して継続されなければなりません。総合的かつ汎用性のある原則、具体的な情勢に応用可能な原則を作り出す必要があります。
 軍事戦略の理論的な側面の発展方向はこのようなものです。しかしながら、ロシアの偉大な司令官であるアレクサンドル・ワシリエヴィチ・スヴォーロフが述べるとおり、「実践なき理論は無益」なのであって、まさにこのために軍事戦略の実践には科学的な基礎が必須なのです。

シナリオ予測の体系

 戦略の実践に関する根本的な基礎は、軍事紛争の生起と推移に関するシナリオを予測するための研究体系を打ち立てることにあります。起こりうる紛争に関して裏付けのある予測を行うことは、軍事力行使の形態及び手段を開発するための初期値として役立ちます。今日、軍事力行使の合理的な体系は理論的に打ち出され、実践によって裏付けられています。このことは、戦略的抑止行動の重要な構成部分です。
 近年、ワシントンはロシアの国境に直接接する地域において軍事プレゼンスを拡大し、軍縮・軍備管理に関する条約体系に違反する方針をとり、これが戦略的安定性の毀損につながっています。米国は2002年にもミサイル防衛システムの制限に関する条約から一方的に脱退しました。
 INF条約の効力停止を誇示したことに続き、彼らは新戦略兵器削減条約の延長を拒否してくる可能性もあります。
 ペンタゴンは最近、宇宙を軍事利用する意図についても一度ならず言及しています。この目的で新たな兵科である宇宙軍が設置されていますが、これは宇宙空間の軍事化の前提を作り出すものです。
 まとめるならば、これらの行動は軍事・政治的状況の先鋭化、軍事的脅威の出現につながりかねません。我々はこれに対して鏡のような(訳注:対称的な)、そして非対称な手段をとることになりましょう。

戦略的抑止の手段

 以上を鑑みるに、軍事戦略の発展に関する喫緊の課題は、核及び非核抑止の手段を裏付け、改善することです。いかなる仮想敵も、ロシアも及びその同盟国に対するあらゆる圧迫には望みがないことを理解すべきです。我々は座して待つつもりはありません。そのために、これまでにない種類の武器を含めた現代的な兵器が配備されつつあります。
 新型兵器の量産と軍への配備が始まっています。「アヴァンガルド」、「サルマート」、新兵器「ペレスウェート」及び「キンジャール」は高い有効性を示し、「ポセイドン」及び「ブレヴェストニク」コンプレクスの試験は順調に進んでいます。海洋配備型極超音速ミサイル「ツィルコン」の開発計画も進んでいます。世界各国の技術的発展と比較して、我々がこの分野におけるトップを走っているという事実に疑いを挟む余地はありません。
 また、地上配備型の短・中距離極超音速ミサイル・コンプレクスの開発に関する研究・設計作業を実施することが決定されました。
 新型兵器の開発がロシアを新たな軍拡競争に引きずりこむことがありません。予定された軍事予算の範囲内で、抑止のために必要な数の新兵器を開発することができるでしょう。我が西側パートナーたちは我々を「脅威に対抗しなければならないという脅威」に追い込むべく、将来的に我が意思決定中枢を攻撃することを計画しています。ここには、ロシア領内の目標に巡航ミサイルを実戦使用できる発射装置も含まれています。
 軍事専門家諸氏は将来型兵器の追求及び取得に関する研究と、仮想敵による宇宙空間での(そして宇宙空間からの)軍事行動の可能性に対抗する方法の追求に関する研究を活発化させなければなりません。

ロシアの領域外における「限定行動戦略」

 シリアでの経験は戦略の発展に重要な役割を担っています。これを敷衍して導入すれば、新たな実践の領域が開けるでしょう。すなわち、「限定行動戦略」の枠内においてロシアの領域外で国益の保護及び増進に関する任務を遂行するということです。
 この戦略を実現する上での基礎となるのは、軍の中でも特に高い機動性と課題解決能力を有するある軍種の部隊を基礎とし、自律的に行動が可能な部隊集団を設置することです。シリアの場合、このような役割を担ったのは航空宇宙軍でした。
 こうした戦略を実現する上で最重要の条件は、指揮システムの準備態勢及び全方位的な保障措置の優越によって情報優勢を獲得及び維持すること、そして所要の部隊集団を秘密裏に展開させることです。
 作戦の過程では、部隊の行動に関する新たな手段が裏付けられました。ここにおける軍事戦略の役割は、ロシアの部隊集団、関連国家の軍事編成、各派の軍事機構(すなわち紛争参加諸勢力)が用いる軍事行動と非軍事行動を計画し、調整した点にあります。
 紛争後の対処にも発展が見られました。シリアでは我が軍事編成の新たな運用形態である人道作戦が初めて考案され、実践によって評価を受けました。アレッポ及び東グータにおいては、厳しいスケジュールの中で民間人の紛争地域からの脱出が計画され、テロリスト殲滅任務と並行して実施されました。
 シリアにおいて達成された成果は、国境外において国益を維持・増進することを目的とした軍事力行使に関する諸問題の研究に現代的な方向性を与えるものです。

「限定行動戦略」の枠内における部隊集団の運用形態

 戦略の発展に関する方向性の一つは、現代的な情報通信技術を基礎として、部隊、偵察手段、攻撃手段、部隊・武器の統制手段を統合した統一システムを設立・発展させることと関係しています。
 これはリアルタイムに近いスケールで観測し、目標指示を行い、戦略及び作戦戦術レベルの非核兵器を用いて枢要な目標に選別的な打撃を行うためのものです。今後の軍事科学は、敵に対する複合的な攻撃システムを基礎付けるものでなくてはなりません。
 次の方向性は、ロボット化複合体の大規模な使用に関するものです。これは第一に、広範な任務をより効果的に遂行するための無人航空機に関連しています。
 無人航空機及び精密誘導兵器の使用に対抗するためのシステム構築ももう一つの方向性です。ここにおいては、目標のタイプ、その構成、時間的緊要性に基づいて選択的に影響を及ぼす電子戦部隊及びその手段が決定的な役割を担います。
 この領域における軍事科学の課題は、ロシア連邦軍における無人航空機への対抗システムに関する戦略策定の問題を検討し、将来型戦略電子戦システムの基礎を築くとともにこれを統一システムに統合することにあります。
 デジタルテクノロジー、ロボット化、無人システム、電子戦---これらはいずれも軍事戦略を含めた軍事科学発展のアジェンダであることを強調しておきましょう。

国家が有する軍事組織の構成部分間における相互関係

 現代の軍事紛争には、敵が破壊工作・テロ活動によって国家の内的安全保障を不安定化させてくるという特徴があります。したがって、領域防衛のシステム、その構成や常時即応態勢づくりは、軍事戦略発展の重要分野であり、軍事科学の課題なのです。
 今日の我が国では、国防を目的とする軍事的・非軍事的な多くの取り組みに諸省庁が関わっています。したがって、軍事的危機のエスカレーションや危機的な事態の発生といった局面において、各連邦行政機関の部隊の活動調整、それぞれの権限分割、領域防衛に関する任務遂行の指揮に関する諸問題をどうするのかは今後も検討していかなくてはなりません。
 特に喫緊の重要性を有するのが、侵略の危機が差し迫った際、死活的に重要な国家インフラ施設をあらゆる面で保護するためのシステムづくりです。こうした状況下では、敵国は情勢を不安定化させ、混沌とした、コントロール不能な雰囲気を作り出そうとするでしょう。
 これは軍事戦略の理論及び実践においては新しい問題であり、総合的な学問的検討が必要とされます。その成果は理論的な規定となるべきであり、実践においては、多様な省庁の部隊及び手段が複合的な安全保障を提供できるようなシステムが創設されねばなりません。

情報空間における敵対

 軍事科学は最近まで、伝統的な軍事活動遂行空間、すなわち陸海空における軍事力運用の課題を検討してきました。現代の戦争の特徴を分析してみると、情報空間に代表される空間の重要性が優位に増加していることを示しています。将来の戦争においては、軍事活動がまさにこうした領域にまで拡大されることになるでしょう。したがって、情報技術こそは最も将来性のある武器ということになる訳です。
 情報空間には明確な国境線というものは存在せず、遠隔的かつ秘密裏に働きかえを行うことができます。しかも、その標的となるのは最重要の情報インフラだけでなく国民であり、国家の安全保障に関する状況に絶えず影響を及ぼします。
 軍事科学において情報活動の準備及び遂行が最重要の検討課題であるというのは、こうした理由によるものです。

ロシア軍の戦闘力向上

 軍事戦略の優先的な分野は、ロシア軍の戦闘力向上に関する諸課題の研究です。それはロシア軍の構成に関する質と量、充足率と技術的装備状態、士気、練度、部隊の戦闘準備態勢及び戦闘能力を決定するものです。
 現在、ロシア軍では兵員を契約軍人で充足するための複合的計画が実施されているところです。その数は2025年までに47万5000人に達します。これに伴い、軍事勤務のために国民を徴兵する需要は低下するでしょう。今日、軍の将校団は訓練された職業人によって構成されています。全ての軍管区、諸兵科大連合部隊(訳注:陸軍の軍に相当)、空軍・防空軍大連合部隊(同:航空宇宙軍の空軍・防空軍に相当)司令官の全員が実戦経験を有しており、これは諸兵科連合部隊(同:陸軍の場合、軍、旅団、軍団)及び部隊(同:陸軍の場合、連隊、独立大隊、独立中隊)の司令官96%にも当てはまります。
 ロシア連邦軍の全軍種及び兵科は均衡ある発展を遂げており、適時に現代的な装備を受領しています。ことに、戦略的均衡の維持に関して決定的な役割を果たす核の三本柱が強化されています。我が核戦力における現代的兵器の装備率は82%に達しました。
 部隊及び軍事指揮機構の運用・戦闘準備に関する水準が顕著に増加しています。その能力は質的な変化を遂げつつあります。
 戦闘準備態勢の抜き打ち検閲は、部隊を適時に長距離機動させ、各戦略正面における部隊集団を強化する能力を確認する役に立ちます。
 住民のイデオロギー、倫理・精神的安定性、特に軍人のそれを改善することは、伝統的に重要な分野とされてきました。そこで軍では、軍事・政治業務のシステムを再建しました。

国防省と国防生産コンプレクスの連携

 軍事戦略と経済の結びつきを発展させる新たなアプローチは、軍事戦略の発展及び軍事科学の課題における重要分野です。国家の経済が国防上の課題を解決できるようにするためには、戦略は次のような問いに答えなければなりません。いかなる戦争のために、そしていかなる分野に関して経済の準備態勢を整えるのか?それらの生残性と安定性をいかにして確保するのか?経済的施設を、その防護を考慮に入れて配置するならばどのような方法が最も合理的か?
 アレクサンドル・スヴェーチン少将がおよそ100年前に残した「経済は軍事活動の特性に自らを従わせることができる」という我が国の軍事戦略の古典におけるテーゼは、客観的事実となったのであります。今日、国防省と国防生産コンプレクスも協力によって少なからぬ成果が上がっていることを指摘しておきたいと思います。効果的な連携のシステムが作られたことはその代表例です。
 科学研究機関は、軍事行動の経験に関する分析を基礎として兵器についての要求作成に参加し、開発の全期間において(つまり概念設計から国家試験まで)その実現を監督します。
 また、軍事科学は予測的なビジョンに基づいて戦争の将来像を描き、将来型の兵器や軍用装備がどのようなものであるべきかを決定します。それらの運用に関する形態および手段について研究を行うのも軍事科学者です。
 現代の兵器は複雑であるため、軍事行動が始まってから短期間で生産に移ろうとしてもまず不可能です。従って、必要なものは平時のうちに所要数を生産し、部隊に配備しておかねばなりません。我々はあらゆる仮想敵に対しての技術、テクノロジー、組織的優越性を全力で確保する必要があります。
 このような要求は、国防生産コンプレクスに対して新兵器の開発に関する課題を出す場合にも鍵となります。これによって企業側は長期的な計画を立てられるようになり、研究機関も軍事科学における基礎研究と応用研究の方向性を定めることができるようになります。

軍事科学の主要課題とその解決に向けた方途

 今日の軍事科学にとって重要なのは、今後生起する可能性のある軍事紛争の特性を規定し、軍事・非軍事行動の形態及び手段のシステムを策定し、兵器及び軍用装備システム発展の方向性を規定するため、実践よりも先んじた、間断のない、合目的的な研究を行うことです。
 何よりも重要なのは、基礎研究及び応用研究の成果を適時に部隊における実践に取り入れることです。
 これらの課題の解決は、まずもって軍の科学研究コンプレクスに託されています。近年、科学研究コンプレクスは目覚しい成果を挙げてきました。参謀本部から課された科学研究作業の枠内において、中期(2021-2025年)における軍事計画のための初期データシステムが作成されました。これは新たな期間における「国防計画」文書を修正・策定する際の基礎となるものです。
 我々の軍事科学は、問題が発生した時点からそれを見抜いて明らかにし、適時に処理して解決の方途を見出す点において、常に卓越してきたのであります。


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