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第115号(2021年2月1日)謎のミサイル「ヤルス-S」の正体、ナヴァリヌィの乱でデタントに?ほか


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【インサイト】ロシアの新型ICBM「ヤルス-S」ほか

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●2020年第4四半期における装備調達の状況

 さる1月29日、モスクワの国家防衛指揮センター(NTsUO)において、軍需製品統一受領日(EDP)の会合がショイグ国防相列席の下で開催されました。EDPは四半期に1回、ロシア軍に兵器や軍事インフラをまとめて受領する日であり、今回は2020年第4四半期(10-12月)の状況が報告されました。

 この中でRS-24ヤルスの改良型とされながら長らく実態が不明であったヤルス-Sについての細かい情報が出てきた、というのが今回のテーマなのですが、まずはEDPでクリヴォルチコ国防次官から報告された装備品受領の状況を確認しておきましょう。
 ロシア国防省公式サイトに掲載された同次官の発言は大要以下のとおりです。

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クリヴォルチコ国防次官

陸軍及び空挺部隊(VDV):新造の装甲戦闘車両86両及び修理されたもの158両。
・このほか、新造自動車996両及び修理されたもの85両、ロケット・砲兵兵器350点以上、ブークM-3高射ロケット・コンプレクス1個大隊分、個人携行用火器・軍服92万点以上が納入された。
航空宇宙軍(VKS):S-400トリウームフ高射ロケット・システム1個連隊分、新造航空機15機及び修理されたもの18機、新造ヘリコプター13機及び修理されたもの10機、人工衛星6機、新造レーダー50基及び修理されたもの46基。
海軍(VMF):新造戦闘艦4隻、新造潜水艦1隻及び修理されたもの1隻、新造支援艦船9隻及び修理されたもの11隻、ミサイル及び魚雷160発以上、沿岸ロケット・コンプレクス「バール」。
戦略ロケット部隊(RVSN):サイロ発射式・移動式11発、移動式・サイロ発射式コンプレクスの構成要素22点。
・新型兵器・軍用装備・特別装備の配備計画は99.8%、修理計画は99.7%が実施された。2021年の国家国防発注(GOZ)に関する配備作業が行われている。GOZの86.8%は長期国家契約に基づく。
・ウラルワゴンザウォードはT-90A戦車のシャーシをベースとするテルミナートル戦車支援車(BMPT)の最初のバッチを納入した。トゥーラ工場は新型のRKhM-9放射能・化学・生物偵察車を開発するための試作設計作業「ボゴマズ」を完了した。
・マシノストロイェーニエは世界初の海上発射型極超音速ミサイル「ツィルコン」をフリゲート「アドミラル・ゴルシコフ」から発射する試験を行ない、マッハ8以上の速度性能を実証した。今後は潜水艦からの発射試験を行い、2021年中に国家試験を完了して2022年からの大量配備に入る。
・2020年中にはRVSN第13ロケット師団において、最新の「アヴァンガルド」戦略ロケット・コンプレクスへの装備更新が進められた。12月には新たに2基の極超音速有翼ブロックが配備された。
・12月には戦略原潜「ウラジミール・モノマーフ」がオホーツク海から4発のブラワー潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射し、任務を完全に達成した。
・プレセツク宇宙基地から大型ロケット「アンガラ-A5」が発射され、23トンの打ち上げ能力を実証した。
・2020年の打ち上げ計画に従い、第4四半期には「ソユーズ2.1b」中型ロケットによってGLONASS-K航法衛星及びゴネツ-M通信衛星3機が打ち上げられた。

 一方、インフラ担当のティムール・イワノフ国防次官からの報告は以下のとおりです。

・2020年中のインフラ建設計画は完全に達成され、3340棟が竣工して運用に供された。
・核抑止インフラの建設は全て納期通りに実施された。
・アルハンゲリスク州ミールヌィでは将来型ロケット・コンプレクスの飛行試験用に第1国家試験宇宙基地のインフラ建設が完了し、実験・試験基盤用建造物130棟が運用を開始した。
・(VKSの)宇宙部隊用に「ソユーズ-2」ロケット用発射施設の再建と「アンガラ-A5」大型ロケット用上段ブロックの組み立て・試験用設備の建設が完了した
・オレンブルグ州及びカルーガ州では「アヴァンガルド」及び「ヤルス」戦略ロケット・コンプレクス用の施設が完成し、これらが期限通りに戦闘配備に入ることが可能となった。
・イワノヴォ州及びスヴェルドロフスク州ではRVSNの移動式ロケット・コンプレクス用の行政・生活用庁舎が完成した。

 最後に、ショイグ国防相は、2024年までに一般任務戦力(戦略抑止戦力に含まれない通常戦部隊)の装備近代化率を76%とするために長期国家契約の締結を継続していく必要があると述べ、2021年の重点目標を次のように明らかにしました。

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ショイグ国防相(中央)

・核抑止部隊及びアセットのために、国防省第12総局(12GUMO。核弾頭の管理を担当する)とVKSの施設建設に特に重点を払って監督を行う。
・飛行場ネットワーク発展のため、ニジェゴロド州のサワスレイカ飛行場を含めた24ヶ所の飛行場の設計及び建設作業を進める必要がある(飛行場ネットワーク再建計画については第91号で取り上げたスロヴィキンVKS総司令官の発言も参照。この中には択捉島のブレヴェストニク飛行場が含まれていた。)
・海軍においてはカスピ小艦隊の母港の建設作業を完了せねばならない。

●謎の新型ICBM「ヤルス-S」

 というわけで、国防省公式サイトのトランクリプトには問題の「ヤルス-S」は出てきません。ただ、ロシアの軍事オタクたちがめざとく見つけてところによると、報告中に示されたプレゼンテーション資料には「ヤルス-S」が映ったものがありました。
(このようにロシア国防省の公式発表は、そこで話されていること全てを反映しているとは限らないので要注意です。一次資料至上主義の罠とでもいいましょうか)

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