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第1章【3】ABRSMに育てられたワタシ

さて、今回もまだアフリカにいた頃の話です。

チェロを習い、2年くらいして、シャロンや、ピアノの先生(私は同時にピアノも個人レッスンで習っていた)から、ABRSMの検定試験うけたら?と言われるようになった。

ABRSMとは、英国王立音楽検定協会の略で、1889年、音楽の普及と音楽教育の向上を目的とし、4つの英国王立音楽大学のもとに設立されたもので、総裁は英国王室に継承されて、現在はエリザベス女王が就任されている。活動は、音楽検定の実施、楽譜の出版、指導者セミナー開催など。とりわけ音楽検定は、英国内はもとより約90ヶ国で毎年約63万人以上が受検しているとか。いわば、音楽技能のレベル検定試験、ってやつです。英検受けたりするようなもんでしょうか。

このABRSM試験は、日本ではあまり知られていないと思う。しかしあの国では、ABRSMのグレードのいくつをとっている、というのがかなりのステータスになり、音楽大学などないあの国では、このグレードの合格証をみせて、例えば、私が通っていた音楽学校の先生に就職したりしていた。

1級から8級は、数が上になるにつれ、高いレベルで、8級になると、音楽大学入学レベルで、8級のあとは、Diplomaグレード、学士グレード、修士グレードというレベルが存在し、大学や大学院の学位をとるくらいのレベルが求められる級があった。

この試験は、非常によくできていて、実技、オーラル試験(初見視唱、弾かれたメロディーの歌いかえし、和音の聞き取り、カデンツの進行の聞き取り、弾かれた音楽の時代背景と、その判断基準をこたえる問題)の2つのパートから構成されていた。

さらに、実技は、もちろんピアノ伴奏つきで、1年くらい前から課題曲のリストが発表され、それも、バロック・古典、ロマン派、現代曲、というカテゴリーに分かれていて、それぞれのグループから、1曲ずつ選び、計3曲(暗譜ではない)弾くことになっていた。

さらに、この実技には、音階とアルペジオ、Dominant7、Dim7の3オクターブ(ほぼすべての調で、長調、短調すべて暗譜で) 弾くのが課題であった。

この試験を受けることで、音楽史や、視唱、聴き取りの練習をやり、さらに、時代区分による作曲家の曲をまんべんなく弾いて勉強することになった。

そしてなにより、音階とアルペジオが暗譜であったので、全調くまなく、ひいひい言いながら毎日練習した。

さらに、このABRSM試験のすごいところは、楽器演奏技術のグレード5以降の試験は、おなじくABRSMがレベル試験を設けている、楽典グレード試験(同じくグレード1から8まである)を受け、楽典の5級に合格していないと、楽器演奏技術検定の受験資格がなく、楽器演奏技術検定の受験希望者は出願時に合格証を提示しなければならなかった。

楽典の5級は、あとからわかったのだが、だいたい、音楽大学入学試験ででる楽典のレベルと同じであった。なんでたかがグレード試験に楽典試験の合格まで要求するんだ!!と、あまりに大変なので、文句を言いながら、10年にわたり過去問を入手して、ピアノの先生に添削をうけていた。

試験官は、試験にあわせて英国から1名来て、1週間ほど滞在して、毎日試験を実施していた。

しかし、たかが民間のグレード試験とはいえ、楽器をならっている以上、そしてまわりがみんな受けて、『キミ、ピアノ何級?』なんて会話が頻繁だったので、私も受験したのだが、この試験のおかげで、本当に日本で音大受験する際に大いに助けられた。

働いているから、楽典試験や実技の練習に時間が十分でなく、通勤の車のなかで和音の聴き取りの練習をしたり、音階のフィンガリングを頭のなかでシュミレーションしたりしていた。

ピアノの試験も同時にうけていたので、ピアノもチェロ同様、暗譜でほぼすべての調の音階を弾くことになっていたので、本当に休まず練習した。そのおかげで、音階だけはいまも忘れずに弾くことができ、アルペジオや、コードを弾くにしても、難しいとは思わない。

いま思えば、大変だったけれど、この試験にむけて勉強したことが、日本の音大受験への大きな勇気をくれたように思うのだ。文句を言いながら勉強した楽典は、ほぼ、楽典の黄色い音楽の友社の本と同じレベルをカバーしていて、日本での音大受験や、その後の授業についていくのに、大変役にたってくれたのだった。

結局、ピアノはグレード7を、チェロはグレード8を取得した。

立派な合格証を頂けるのだが、あまりに大変だったので、私はこの合格証を後生大事にしていたりするのだ。

チェロで大学院への進学を目指しています。 面白かったら、どうぞ宜しくお願い致します!!有難うございます!!