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アニメタウンに戻ってきた話(by 上井草太郎)

セル画ラボの上井草太郎です。読み方は、「うわい そうたろう」とでもお読みください。

私は30年前にアニメ業界に入り、エンタメ業界内で転職し、最近また戻ってきた、アラフィフです。
当時と変わらない、アニメタウンの駅ホームに降り立つと、時間が巻き戻ったかのような錯覚に襲われます。

スタジオがあったビル

自然と足は、私がかつて所属したスタジオのあったビルに向かいます。今は別の会社が入っていますが、半地下みたいな1階の佇まいに、懐かしさが込み上げてきます。

このスタジオの新人には、仕上げ会社での研修制度があり、セル画の塗りをしに毎日通っていました。その仕上げ会社は現在、国内最大規模で、40年のベテランもいれば、若い新入社員も毎年入ってくるような活気ある会社です。そして、ベテランたちの中には、セル画時代の経験者が20人近くいます。セル画の技術や知識はこの20年で必要とされなくなり、それらを学べる機会もなくなりました。デジタル化された、今のアニメはとても表現が豊かで、私たちを楽しませてくれます。20年前、デジタル化することによって、アニメ制作はもっと楽になり、より人間的な仕事環境になることを願っていたはずですが、現実にはそうはならず、デジタルによって効率化された分だけ、スケジュールはタイトになり、スタッフの過酷さは変わらないどころか、激しさを増していると思われます。

30年前、あるアニメ監督は「もうアニメは駄目かもしれない。」と訴えました。そして、その監督自身が引き金となって、アニメは駄目どころか、日本を代表する文化にまでなりました(これは私の主観です)。世界のあちこちにアニメファンは増え続けています。この先、5年、10年くらいは好調でしょうし、もしかしたら、20年でも大丈夫なのではないか、と思えます。そう思う理由は、駄作の大量再生産、とはアニメがなっていないと思えるからです。
中国アニメが日本のアニメを追い越すかもしれない、という脅威論もありましたが、中国のCGスタジオと仕事をした際に、中国人のCG職人の若者が日本のアニメーターをリスペクトし、そのノウハウを貪欲に吸収している様を見て、これはこれでいいのではないかと思いました。しかし、日本のアニメの進化は、周回差をつけて、中国を寄せ付けていない(これも私の主観ですが)と思います。
しかし、ここに新たな要素「AI」が入ってくることで、未来予想がしにくくなったと思います。AIの作画力が驚異的であることは気づいている人は少なからず、います。「止めの一枚絵」だけでなく、今後は動画にまで影響を及ぼすと思いますし、シナリオも、世界中の神話から小説、映画、漫画、アニメのシナリオを学習したAIが、人間の発想をサポートする形で新しい物語を生み出せるようになると思います。

デジタルによる、変化スピードの加速は結構なことですが、時にはその変化とは別のところで、人間の「脳内の熟成」も必要だと考えます。AIと将棋の関係のように、AIと人間がどう付き合っていくのかをこの数年から10数年でアニメも体験するのではないかと思います。アニメに限らず、ゲームなどのエンタメの情報量の増大は止まることがないでしょう。NTSC、HDTV、4K、8Kと際限なく膨大化していく画素数。高騰する制作費。それを処理するコンピューターの超絶的な進化。実写と見まごうばかりのゲーム画面。次は16K、32Kでしょうか。際限がありません。しかし、そこであえて、人間側に一度、引き戻す「運動」が必要なのではないか、と私は思うのです。

ここに一枚のセル画があります。セル画は一枚一枚、フィルムに撮影され、それを現像して、編集して、アニメになったわけです。セル画の表面はツルツルでその下に塗られた絵の具をムラなく表現することができるという、特異な画材なわけです。室内の蛍光灯の光がセル画に映り込み、セル絵の具の色を際立たせて見せるのですが、とても美しいのです。
それは当然です。デバイスを通さずに、直接肉眼で見るセル画の解像度は無限大だからです。

かつて、レコードを買った時のワクワク感の一つは、ジャケットのデザインの美しさにあり、LPレコードの、あの大きさにあったと思います。CDになってジャケットが小さくなってしまい、物足りなかったのを覚えています。
そして、音楽は配信になり、ジャケットはサムネールになってしまいました。
世の中はミニマリストの流行もあり、モノがなくなっていく傾向にあると言いますが、手触り感のある、フィジカルな「モノ」はやはりいいなと思うのは人間の本能ではないかと思います。

...アニメタウンをふらふらしていると、そんな由なしごとが頭に思い浮かんできます。時代に逆行するかのような「セル画制作」にセル画ラボは取り組んでいきます。こちらのnoteでは私、上井が思ったこと、制作の過程であったことなどを書いていければと思います。

上井草太郎


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