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トルクメニスタンにまつわるプロフの話3

4.2. プロフの食べ方
プロフの肉を分けるのは最高齢の男性の仕事。ビスミッラー(アラビア語で「神の御名において」の意。)と言って食べ始めるのも同様である。年配の人に対する尊敬の念を忘れないトルクメニスタンらしい習慣である。現代のトルクメニスタンでは一般的にはスプーンやフォークを用いて食事する家庭が多いが、プロフに限っては手で食べる方が美味とされている。トルクメンニスタンでは昔から「(スプーンで食べると)味がスプーンに残る(Tagam çemçede galýar.)」といわれており、その場合はイスラム教の教えに従い右手を用いて食べる。プロフは大皿で出てくることが多いが、その場合は、いくらおいしそうな肉が相手の方に転がっていたとしても自分に近い方から食べるよう気をつけよう。相手の方から食べると失礼になる(これに関しては、トルクメニスタンだからというよりは、日本でもあからさまに相手に近い方から食べていたら失礼かもしれない)。
 結婚式やフダイ・ヨルィ(直訳は「神の道」、冠婚葬祭など、良いことや悪いことがあったときに食事を振る舞い、神に報告するために行われる比較的大規模な喜捨)には必ずといっていいほど振る舞われるのがプロフである。家庭で親しまれているのはもちろんのこと、いわゆるお祝いの料理という認識もある。大鍋で炊いたプロフはまた格別で、うまみの強い(と、私は感じる)仕上がりとなる。なぜか大鍋でプロフを作るのは男性が多く、レストランのシェフに男性が多いのと同じくらい私にとっては謎である。

4.3. プロフがこの世とあの世をつなぐ?
 トルクメン人はよく「木曜日はプロフの日だ。」という。トルクメニスタンは日曜日だけが休み(土曜日は半ドン)なので、木曜日が花木(はなもく)(「花金」から筆者が作った造語、花の木曜日)というわけでもないのにどうしてかと思っていたら、トルクメニスタンの人々の習慣と関係が深いようだ。
 木曜日は先祖がこの世に帰ってくる日と言われている。先祖はどのようにしてこの世と結びついているかというと、家庭から立ち込める油の匂いをたどって里帰りするのだとか。(日本でお盆にナスやキュウリで作る精霊馬を作るようなものだろうが、毎週木曜に帰ってくるとはトルクメンのご先祖様は随分この世がお好きのようである。)
というわけで、現世の人々は木曜日に油をたっぷり使った料理を作る必要があるわけだ。サモサ、ピロシキなど油を使った料理であれば何でも良いはずだが、やはりプロフが圧倒的人気を誇っているという。筆者も木曜日のプロフには随分ご相伴に預かったものだ。
関連して、トルクメニスタンの人はプロフの油を眉に塗る習慣がある。これは、アッラーによる最後の審判の日に自分を天国へ導いてもらうためだという。口や鼻は自分の悪口しか言ってくれないが、油を塗った眉だけが自分の証人(シャーヤット)となり、天国へ行くために神に対して説明を行ってくれると信じられている。食事の後にアーミンと言って顔を覆うようなお祈りをするのも、眉をなでるためだと言われている。
このように、(プロフの)油には、あの世とこの世を結ぶ働きがあり、トルクメン人の信仰とも深い関係がある。

5. まとめ
 今回、プロフの作り方、食べ方、迷信などについて知人や友人に聞いた話を中心にまとめてみたが、筆者にとっても非常に興味深い情報も多数あり、大変勉強になった。プロフと一言に言ってもその多様性やそれにまつわるエピソードなどにも事欠かず、その後ろに広がる大きな世界が見えてきた。
 この記事を書くにあたって実際に(妻が)トルクメン人の友人とプロフやトルクメン料理を作り、皆で夕食を共にしたが、とても良い時間を過ごすことができた。家族や友人の輪を自然と作ってくれる、それが「プロフ」というものなのだろう。

奥真裕

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