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D2Cの販売戦略を激変させる?他社製品を自社ECで販売できるコマースプラットフォーム「Canal」とは

Shopifyを利用している、数え切れないほどのD2Cブランドたち。彼らが自社のECで他のブランドの商品も紹介し、クロスセルを生み出すことで手数料まで得ることができるとしたら──。

これまで「直販」のイメージが強かったD2Cブランドだが、GlossierのようなD2Cを代表するブランドたちは、すでにECを通した直販のみならず実店舗や卸売をはじめている。しかし卸をはじめるとなると各リテーラーとの交渉・契約が必要になるため、スタートアップにはハードルが高い面もあった。

そんな状況に風穴を開けようとしているのが、コネクテッドコマースプラットフォーム「Canal(キャナル)だ。

Canalを通して、自社製品以外も手軽に販売可能に

Canalを利用したクロスセルの例。ケトルブランド「FELLOW」は、Canalを利用して「Bird Rock Coffee Roasters」のコーヒーを販売している
Canal Official HPより

Canalは、ブランドの「セレクトショップ化」を促進させるプラットフォームだ。

たとえばケトルブランド「FELLOW」は、Canalを導入することで自社ECで「Bird Rock Coffee Roasters」のコーヒー豆を販売している。コーヒーを淹れる際に使用するケトルなので、コーヒー豆も一緒にEC上で提案することでアップセルを狙うことができる。

これまでは自社製品を開発するか他社と卸売の契約をして自ら在庫を抱えて販売するしかなかったが、Canalを通して販売することでFELLOW自身は在庫リスクを負うことなく、相性のいい製品をセレクトして販売できるうえに販売手数料も得られる。

もちろんBird Rock Coffee Roastersにとっても、販売チャネルが増えることで売上増加が見込める。逆にBird Rock Coffee RoastersのECでFELLOWのケトルを販売することもできる。

これ以外にも、すでに100以上のブランドがCanalを導入しており、その中にはHydrantやHausなど人気のD2Cブランドが名を連ねている

2021年にサービスを開始したCanalが、すでに有名D2Cブランドをユーザーとして獲得し、注目を集めている背景にはD2C企業を取り巻く環境の変化がある。

創業者であるBennett CarroccioがTechCrunchで詳細に語っているように、数年前と比べてデジタル広告の顧客獲得単価が高騰し、利益を圧迫している。また2020年以降はパンデミックの影響で素材の価格高騰や製造・輸送の遅れも発生し、これまでD2Cが築いてきた正攻法が通用しない時代に突入している。

そんな中でCanalが提供する仕組みは、リスクを最小限に抑えながらLTVやCVRを高める方法として注目を集めているのだ。

前述の記事の中で、CarroccioはD2Cにとって重要なコストセンターとして「顧客獲得」と「商品開発」を挙げている。そして取り扱い商品の幅を広げることで、ユーザーのリテンションが高まるうえ、サイトに「売り切れ」の商品ばかりが並んでしまうことを避けられると指摘する。

Canalは、まさにこの問題を解決しようとするプラットフォームである。

「関連商品の取り扱いが増えることで、顧客が買い物をする可能性が高まります。さらに新しい商品が頻繁に追加されるとわかれば、再度訪れる顧客も増えるでしょう」

Canalのオフィシャルページでは、具体的に改善された指標も公開している。Canalを導入することで顧客のリテンションは1.64倍、平均購入単価は15%、LTVは50%上昇したという。

Canal Official Pageより

残念ながらCanalはまだ日本市場には対応していないが、仕組みとしては日本でも馴染みのあるドロップシッピングに近いため、日本に上陸すれば一気に浸透するかもしれない。

Canalの仕組みとは?

Canal利用の流れ。Canal Official HPより

Canalの仕組みはいたってシンプル。商品を販売したい「Storefront」側と、販売をしてほしい「Supplier」側がマッチングすれば、Storefront側のECにSupplier側の商品が表示され、顧客は両者の商品を一度に購入することができる。

現在提供されているCanalのShopifyアプリでは、StorefrontとSupplierの両者がShopifyユーザーであることが条件となっている。またどちらもCanalを導入している必要があるため、Storefront側からSupplier側にCanalのインビテーションを送ることもできる。

両者がすでにCanalを導入している場合は、Storefront側が自社ECで取り扱いたい商品と取り扱い条件を「Proposal」として送り、Supplier側がそれを承認するだけで商品の取り扱いが開始できる。

Storefront側のProposal画面イメージ。商品ごとのMSRP(=希望小売価格)とEarn(=得られるマージン)が表示される。
Canal Official HPより

「取り扱い」といってもStorefront側が在庫をもつわけではなく、Storefront側のEC経由で発生した注文はSupplier側から直接配送される。つまり消費者がStorefrontのEC上で一度に両者の購入したとしても、Storefront側とSupplier側それぞれから商品が送られてくるというわけだ。
もちろん送料はそれぞれに発生するため、顧客には購入確認画面で送料を確認してもらう。支払いは一旦Storefront側に入るが、後日手数料を引いた金額が送料分も含めてSupplier側に支払われる。

Supplier側がProposalを受け取った際の画面イメージ。商品ごとに承認ができ、手数料もパートナーごとにカスタマイズできる。
Canal Official HPより

Canalの特徴は、Storefront側が販売手数料を得られる点にある。

販売手数料はメーカー希望小売価格のうち0〜60%の範囲内で自由に設定することができる。
Storefront側がProposalを送る際に希望の料率を設定できるが、Supplier側が商品をリスティングする際に一律で設定することもできる。もちろんStorefrontごとに変更することも可能だ。

しかも商品情報はSupplierが登録した内容をそのまま反映させることができ、在庫もSupplier側が一律で管理するため、Storefront側にとってもSupplier側にとっても管理コストは最小限に抑えられる。

Supplier側の注文一覧画面のイメージ。通常の注文と同じ扱いで一覧に並ぶが、右端のアイコンによってCanal経由の注文であることがわかる。
Canal Official HPより

これまで、契約や在庫のやりとりが煩雑になりがちな点から卸売に踏み出せないブランドも多かったはずだ。しかしCanalの導入によって、最小限のコストでStorefront側は手数料収入を得ることができ、Supplier側は販路を広げることができるWin-Winの仕組みを構築している。

なお、Canalの導入時に費用がかかることはなく、Canalを経由して発生した売上から手数料を差し引く仕組みだ。手数料はStorefrontとSupplierの双方から徴収している。
それぞれにかかる手数料は下記の通り。

  •  Storefront:Canal経由で得た販売手数料の20%

  •  Supplier:Canal経由で発生した売上の5%

たとえば販売価格一万円の商品をStorefront側の販売手数料30%の条件で販売した場合、Storefront側の販売手数料は一万円の30%である3,000円となるが、そのうちの20%、つまり600円がCanal側の手数料となり、Storefront側の手取りは2,400円となる。

一方でSupplier側は、一万円の30%をStorefront側に、5%をCanalに販売手数料として支払うため、販売価格の65%、つまりこの場合は6,500円が実質的な収入となる計算だ。

誰もが「セレクトショップ化」できる世界

「私たちは商品を陳列する場所やそこに置く商品ではなく、 "他社の在庫へのアクセス"を提供しているのです」

とCarroccioが話していように、Canalは誰もがお店を開ける世界を目指しているようだ。

現在はShopifyを使っているEC事業者に限定されているものの、今後はInstagramやブログ、ニュースレターで人気を集めるインフルエンサーが、Canalを通してセレクトショップのように自分のお気に入りを集めたショップを開く可能性も視野に入れている

たとえばD2C業界で著名なコンサルタントかつ投資家でもあるNik Sharmaは、Canalと提携して自身のお気に入りアイテムを集めたセレクトショップ型EC「SHARMA BODEGA」を運営している。

CANALを通してセレクトショップのような展開をするSHARMA BODEGA
SHARMA BODEGA OFFICIAL HPより

SHARMA BODEGAのページ上で発生した売上の一部は手数料としてNik Sharma本人に還元される。ここ数年でインフルエンサーがD2Cブランドを立ち上げるケースが増えたが、今後はCanalを通してセレクトショップ型のECを立ち上げる流れも起きるかもしれない。

日本市場にはまだ対応していないものの、CanalがD2Cブランドにとって注目のサービスであることは間違いない。Canalを通したD2Cブランド同士の卸売りネットワークが広がることで、D2Cの世界が今後どう変化していくのかにも注目したい。


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(Photo: Canal Official HP

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