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『秘密の誓い』 ♯手書きnoteを書こう

10代の頃の、わたしへ。

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「好き、きらい、好き、きらい、好き、きらい…」
花びらを1枚ずつ、つまんで落としていく。
1枚、また1枚。花びらが減っていく。
「何してんの?」
宏樹が私の手元をのぞきこんだ。
ぱっちり二重。今日もまつげ長いなぁ。
「花占いしてるの。宏樹のことを好きかどうか」
「そんなの、花に聞かないで俺に聞けばいいじゃん」
ぱっと花が奪われて、空中に放り投げられる。
私はこれ見よがしにため息をついた。
「聞いても聞かなくても、本心なんて言わないくせに」
こんなに天気が良くて青は澄んでいるのに、私がいるのは病院の中庭。
検査の結果待ち。
「今、一緒にいるんだからいいじゃん」
ベンチでのん気にコーラを飲むこいつは、私の幼なじみ。
くされ縁。お目付け役。
「だいたい、花占いは”私が宏樹を好きか”を占ってたの。私の気持ちの話」
「そんなの花に聞かなくても知ってる」
腹立たしいやつめ。何でもお見通しって顔して、自分の気持ちは絶対に言わないくせに。
知ってるんだから。
他のクラスの子から告白されたこと。
好きな子がいるって断ったこと。
携帯電話の短縮ダイヤルに入ってるのが私だけってこと。
この、先に言ったら負けみたいなの、ずるい。
宏樹のサラサラの髪が風に揺れる。
小さい頃から変わらない、黒いストレートの髪。
髪も口調も変わらないのに、身長はぐんぐん伸びて、150cmしかない私より頭ひとつ分大きくなった。
あんなに繋いでいたてのひらも、知らない人のてのひらみたい。
私はあまり大きくなっていないのに。
「…あんまり先に、行かないでよ」
思わず零れた呟きに、宏樹の視線が私を見たのがわかる。
何も言葉を続けられなくて、私は自分の膝あたりをただ見つめた。
「ありきたりだけどさ」
宏樹がベンチの背もたれに体重を預けて、古いベンチが少しだけ音を立てた。
「もし俺が先に行ったとしても、ちゃんと振り返るから。志野を待つよ」
「…こんな時でも言わないなんて、ほんとずるい」
嬉しさともどかしさが混ざって返せば、宏樹が視線をそらした。
今度は私が宏樹を見る。
「こうちゃん」
昔の呼び名で呼んでみる。
昔は、”こうちゃん””しのちゃん”って呼び合ってた。
「それは志野がずるいだろ」
耳を赤くして立ち上がり、私を見ずに手を差し出す。
耳が赤いから照れてるのバレてるのに。
そろそろ診察の時間だ。
「今日はこのくらいにしておいてあげる」
差し出された手は私より大きくて、あたたかかった。
手を繋ぐなんて何年ぶりだろう。
「それは俺の台詞だよ」
そっぽ向いて、耳赤くしてるくせに。
見上げる宏樹の横顔は、昔より精悍になった。
約束だからね。ちゃんと待っていて。
私も早く大人になって、宏樹が慌てちゃうくらいに美人になってみせるんだから。
決意は口には出さないで、心でこっそり誓って、宏樹の手をぎゅっと握った。

『秘密の誓い』 香嶌一伽


これは、10代のわたしへ向けた、あったかもしれない関係のお話。
リアルとファンタジーの狭間のお話です。

だいすーけさんの「♯手書きnoteを書こう」企画に参加させていただきました。
手書きってやっぱり不思議。
その時々の自分の調子が字にも表れると思うし、手紙を書くのとはまた違う気持ちで今回は書かせていただきました。

初めて手書きで物語を書いたので、ちょっとどきどき(笑)
読んでくれた方、ありがとうございました。




2020/1/14

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